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16【転生ヒロイン】ブリジット

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「ご、ごめんなさい!
 これからは王太子殿下とお呼びします!」


あわてて謝罪するあたしに。
綺麗な顔したリシャールが思い切り冷たい顔を見せるのは……
本当は怖いんだけど、やはり推しが目を見て話しかけてくれるのが嬉しいし、何ならこっちのちょっと黒い王太子殿下はあたしの弱々なところにグサグサに刺さってくるものがあって、
『リシャール、かっこいいよぉ』ってなってる。


「クロエが君の教科書を破った?
 それにいつ気が付いた?」 

理由は何でなのかわからないけど、もう嘘だって確信してるみたい。
こんな状況で信じて貰えないかも知れないけど、仕方なく答える。


「登校してきたら、ゴミ箱に破かれた教科書が捨てられてて……」

「と言うことは、君は教室に教科書を置いて下校している、ってこと?」

あたしはリシャールの確認に頷いた。
本当は教室で皆が帰るのを待って、自分で破いたんだけど。


「それは校則違反、って知らない?
 置き勉は禁止にしている。
 だから、放課後に君の教室に入って、君が置いて帰った教科書を破くような苛めを、クロエがする筈ないんだけど?」


置き勉、って言葉をリシャールが口にするのが、日本のアプリゲームな感じだけど、置き勉禁止が校則?
そんなの知らない!
あたし以外は皆知ってること?


「入学後のオリエンテーションで、その説明を受ける。
 途中編入の場合は、校内案内で説明される」

「……」

黙ったあたしに次に聞いてきたのはドミニクだ。


「それから、噴水に突き飛ばされた、だった?
 君はびしょ濡れだったらしいけれど、何処の噴水だった?」

「中庭のよ! 中庭の噴水!」

「やっぱり中庭か、ほら、こっちに来て見てごらんよ。
 上から噴水が見えるから」

ドミニクが笑いながら先に窓側へ歩いて行って、私を手招きする。
その笑顔にホッとしながら。
あたしは音楽室の窓から下の中庭を覗き込んだ。
中庭の中心には、噴水があって……え?
噴水は形だけそのままなのに、水が入っていなくてカラカラの底を晒していた。


「上から見たら一目瞭然、ってヤツだろ?
 中庭の噴水が噴水じゃないのは10年くらい前からで、君はそんなことも知らなかったんだね」


ゲーム内で彼等と逢瀬を繰り返した中庭の噴水は水をたたえていた。
中庭はあたしの学園生活に欠かせない場所だったけど、この世界じゃデートイベントもなくて、あんまり来ていなかったの。
だから横目で噴水があるのは見ていたのに、水飛沫が上がっていたかなんて、ちゃんと見ていなかった!


「水の中に硬貨を投げ入れたいのは人間の本能なのかな。
 10年前に入学してきた平民の生徒がさ、放課後に噴水の底をさらって、貯まっていた硬貨を盗難したのが発覚してね。
 それから噴水を止めたんだよ」

「み、水を掛けられたんだった!
 もしかしたら、水呑場だったかも……」

噴水の水が止められていたのは衝撃の事実だったけど、下手な誤魔化ししか出来ないよ……
自分でも何言ってんだ、ポンコツか?と思うけど、ドミニクにその発言は無視されて、皆に囲まれた元の場所に追い立てられた。


「次は階段で押された、だよね?
 20年前くらいに同様の冤罪をかけられたひとが居てね。
 それからは怪しい動きやトラブルがあった時に階段に設置している魔力センサーが感知して、即時に音声付き録画機能が発動されるのも知らないんだよね?」

それ、防犯カメラ的な?


「ブラン先生立ち会いで事故当日の録画の確認をして貰って、君の転落は単独事故で、すれ違っただけのクロエの無実は証明されたよ。
 ついでに不自然な動きをしていたから、君の自作自演だと判断した。
 生徒会はこれから君が巻き込んだ下級生に話を聞いて、怪我の状態を確認して、それなりの慰謝料をビグロー家に請求する手続きを勧めようと思っている」


 ◇◇◇


私がついた嘘を許さないと。
またもや口火を切ったのは、リシャール。


「ビグロー、君がしたのは完全なる冤罪だよ。
 20年前に王太子の立場に居る者がその罪を犯してね。
 反対に彼は廃太子されて、幽閉されて、その先は想像にお任せするけれど。
 その時、悪役令嬢にされたのは私とシャルルの母だ。
 つまり君が広めていた悪役令嬢なる名称は王妃陛下は勿論のこと、王家に対する侮辱だ。
 加えて君には、それ以外の容疑もかかっている」


ま、まって、待って! 
確かに嘘はついたよ、だけどさ、誰も信じてないんでしょ?
あたしは学院中の笑い者になってたんだよ、それで勘弁してよ!
それ以外の容疑?


「君が不必要に私達に近付こうとするのは、何故だ?」

「私達の動きを常に監視しているように見受けられました」

「御本人に聞いた話ではブラン先生にも纏わりついているらしいし」

「何を知りたいのか、何を知ってるのか、思わせ振りだよね」

「僕はあんたがそれぞれの事情とか秘密とか、探ろうとしてるように感じたなぁ」

「ビグロー商会は外国に進出する為に、何かを手土産にしようとして?」 


リシャール、アンドレ、ドミニク。
それからシャルル、ジュール、エイドリアンの順番で。
あたしを囲んだイケメン達が話す。
それはあたしに対してじゃない。
真ん中のあたしを置いてきぼりにして、自分達だけで会話をしてる。


「娘を使って、機密を手に入れて?」

「それじゃスパイ、って事なんだ?」

「取り敢えず娘を牢に入れて痛め付けて吐かせて、商会長呼び出すか」

「痛め付けるのは僕は得意です!」

「ジュール、胸を張って自慢しないで。
 国家反逆罪なら、一族郎党、全店舗従業員家族、まとめて処刑……」

会話に参加していないアンドレがあたしの後ろに回って、腕を捻る。
本人的にはごく軽く捻ってるんだろうけど、痛いって!


「ちょ、ちょっと、待ってよ!
 何言ってんの?
 痛め付けて吐かせる?
 まともじゃないよ!
 スパイって? 国家反逆罪?
 違う、違う!じ、冗談じゃないわよ!
 それこそ、冤罪でしょ!」

「……」

あたしが必死で訴えてるのに、誰も返事してくれない!
あたしの話を聞けよ!
あたしはあんた達を攻略する為に近付いただけだよ!
あんた達の心に寄り添って、悩みやら苦しみから助けて、好感度を上げていく、それがこのゲームのルールだから、そうしただけじゃん!


そう、ぶっちゃけたいのに、絶対に信じて貰えないのはわかってて……
このまま拷問処刑エンドだけは、やだっ!
どうしたらいいのっ!



その時、音楽室の扉がノックされて、エイドリアンが誰かを確認して……
訪ねてきた人物は、彼が押さえかけた扉を無理矢理に開いた。


「ひとりの女の子を、男性何人で苛めているの?」

現れたのは魔王を引き連れた悪役令嬢だった。
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