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13【王弟】エイドリアン

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高等部の2年生に転入してきた俺に、校内案内役がついた。
クロエ・グランマルニエ・ラ・モンテール侯爵令嬢だ。

文字通り教室の配置、校内設備の案内と、校則の理解確認や選択授業の登録方法など、この学院で必要な知識を詳しく教えてくれる便利な存在だ。



母が俺を生んだ直後に亡くなってから、この国とは違う国で育てられた。
当時の国王陛下だった実父の正妃の目から逃れるように、だ。
その時に協力をしてくれたのが、先代当代のモンテール侯爵父子だった。


その嫉妬深い王太后が亡くなったので、17年ぶりに祖国へ戻り、貴族学院に転入したのだ。
国外脱出時の御礼と、これからの挨拶を兼ねて侯爵邸に父のシモンと訪問した際に、長女のクロエ様と養子の嫡男ジュール様にお目通りをした。


モンテール侯爵とご令息には、美しい意匠で有名な懐中時計を。
ご令嬢にはメゾンでの最新デザインのドレスの仕立て券を。
それらを手土産に、これからもご贔屓にと、挨拶をした。



俺の本当の父親が誰なのかは関係者以外は秘密にされていて、本来は伯父であるブリュロワール商会のシモン会長の息子と言うことになっていた。
伯父夫婦には子供が生まれなかったので、俺は実子として届けられて商会の跡取りとされている。


実は俺が現国王陛下の異母弟であると、同じ学年の王太子に話す予定はなかったので、必要がなければ『甥』には近寄ろうとは思っていなかったし、事情を知っている王太子の婚約者のクロエ様も、俺のことを伝えるつもりはないようだった。


兄である国王陛下には王子がふたりと、王女もひとり居て、今更王位継承権4位の復権なんて、どうでも良かった。
俺の望みはこのままブリュロワール商会の商売を広く深く高く、大きくする事だからだ。



ところが、学歴と人脈確保の為だけに貴族専用の高等学院へ通い、順当に学生生活を終えたい俺に近付こうとする、距離感のおかしな女が現れた。

同時期に編入した自称BBこと、ビグローという女だ。
転入初日の職員室での初対面から飛ばしてきた女で、
『BB、って書いて、ベベ、って呼んでいいからね』なんて言いながら、俺の腕に胸を押し付けてきた。


何だ、こいつ?
何で、初対面からタメ口?
朝の職員室で何するんだ?
俺が不純異性交遊で目を付けられたら、どうしてくれる!


「あたしもエイドリアンって、呼ぶからね?」

「……いや、普通にブリュロワールって、呼んでください」

「えぇっ、どうしたの?
 何か大人しいね?
 設定と性格違うね?」




ビグロー商会は、ウチとは規模は全然違うけれど、王都では商売敵と言っていい存在だ。
これは、そこの娘がハニートラップ仕掛けてきてるのか?
こちらからは何もする気はなかったが、調べて怪しかったら、ビグロー商会を潰すか……



幸いなことにビグローとはクラスが離れたが、クロエ様の校内案内は一緒に受けることになった。
ところがビグローは、約束の時間になってもやって来ない。
校内案内は最初の1週間の昼休みのみ、なのにな。


「時間もありませんし、ビグローさん無しで私とふたりですが、よろしいでしょうか?」

「勿論です!」

クロエ様と、1対1で。
案内してもらえるなんて全然いい!
だが、並んで歩き出した俺達に混ざってくる奴等が居る。


「クロエ、校内案内してるの?
 お疲れ様、私も手が空いているから一緒に」

なんて言いながら、毎日合流してくる王太子リシャール殿下と側近と護衛の、3名……暇か。


「エイドリアン・ブリュロワールだったね、私もいいかな?」

「勿論です!」

俺に、これ以外の返事が言えるわけない。
王太子殿下の、婚約者に対する執着がキツいのは有名だからな。
俺は目立たず静かに順当に卒業、がモットーだから、大人しくしておくさ。



「ブリュロワール商会で、クロエはドレスを仕立てるんだってね?
 出来映えが見事なら、王妃陛下や王女にも推薦するからね。
 心して製作に当たるようにね?」

これは一種の圧……牽制されてるな。
こっちは平民だからな?

ご心配されなくても、王太子殿下のご婚約者に横恋慕なんてしませんよ……
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