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11【魔王】ノワール

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俺様の名前はノワール・ブラン。
明らかにふざけた名前にしたのは、わざとだ。
勿論、本名は別にある。
よく言う『絶対に口にしてはならない名前』だ。
1000年の間、誰も俺の名前を知らないので呼ぶことはなかった。
知られても、正しく発音も出来ないだろうがな、魔界の王の名だから。


300年に一度現れる『光の乙女』出現の波動をここに感じた俺様は、乙女がその忌々しい力に目覚める前に、殺してやろうと学院に自ら潜り込んだ。

どうして魔王たる俺様が動くのか?
それは、600年前に配下が乙女暗殺に失敗して、当時の『光の乙女と輝く勇者の仲間達』により小規模な魔界討伐をされてしまい、魔物人口は一時減少したからだ。
それで前回の300年前には俺様が出ばって、乙女と勇者一同を処理したのだ。


そういう訳で、今回も俺様が降臨した。
ちょっと学院長始め、職員全員の記憶を書き換えてやると、
『勤続10年以上のブラン先生』という名の、魔法学の教師の完成だ。
授業なんかも当然したことはない。
教室に居る生徒どもの意識を操作するだけで、講義を受けた記憶を上書き出来るのだ。
俺様は教科書通りの知識を奴らの脳内に送るだけだ。


 ◇◇◇


「魔王って、案外孤独なんですね」

光の乙女が俺様に言う。


「魔王の最終目的は何なのでしょう?」

「……魔族による世界征服、か」

「世界征服を成し遂げた後は?
 それを保持するのは面倒くさくないですか?
 この世界に幾つ国が存在するか、ご存じでしょう?
 その各国に部下を配置して、管理させて、その報告を毎日聞いて?」

「……全部の国に配置しなくてもいいし、毎日報告はさせなくても」

「何処から人類の反抗の芽が育つかわからないのですから、早めに摘む為にはちゃんと部下に管理させないといけません」

「……」

「200以上ある国々を管理させる200以上の部下が居るのに。
 トップの貴方が、私を処理する為に自らが動かなくてはいけないなんて。
 1000年以上魔界に君臨していて、本当に信頼出来る部下に恵まれていないなんて、お気の毒に」

「お前……魔王を憐れんでいるのか、たかが人間の分際で!」


本当に信頼出来る部下がいない、と言われた屈辱と怒りを込めて俺様に睨まれたのに、彼女は笑った。


「どうして人類の敵の貴方を憐れむのでしょう?
 孤独だと指摘して、言い捨てただけです」

「……殺すぞ?」 


クロエ・グランマルニエはそれには返事をせず、立ち上がった。
クロエと話したのは、今日が初めてだった。




光の乙女は18の成人を迎えると、その力を徐々に現すので、空いてる時間には校舎や校庭を徘徊していて、そんな時に感知してクロエを捕まえたのだ。


昼休みの中庭だった。
周囲には他の生徒達もいたが、奴らの記憶など幾らでも書き換えられるので、掴んだクロエの腕から精気を吸いとってしまえばよかったのに。

それをせず俺様は周囲にシールドを展開した。
外からはふたりの様子はわからず、会話も聞こえない。
このシールドされた領域さえ、外からは認知されない。


乙女の瞳には俺様に対する恐れは無い。
どうして直ぐにこの女を殺せないのか。


「◯◯◯◯◯◯、痛いです、離してください」


クロエが正確な発音で、俺の名前を口にしたからだ。


 ◇◇◇


「失せろ」

よくわからない女が最近、俺様の周囲をうろつき出した。
ヘラヘラ笑って不気味な女だ。


「あたし、光の乙女ですっ」

「……光の乙女って何だ?」


何を知っているのか分からんが、本物の光の乙女なら、俺様の魔力を感じ取って、目の前に来て自己紹介しないだろ!

クロエから何か聞いてるのか?


「ノワールせんせ、魔王様でしょ?
 すごい力を持っててぇ~素敵~」

「お前は何か勘違いをしている。
 私はまおう、ではなく、まほう、を教えている」


こいつの相手をしている自分が情けない。
こんな阿呆は俺様が処理するまでもない。
生徒をひとり処理するのは簡単だが、それに伴って学校関係書類の消失や家族の記憶改竄やら必要で。
それこそ、面倒くさいからあまりやりたくない。


「ねぇねぇ、ノワールせんせ、あのね……
 あたし、聖なる力持ってるの」


光の乙女の波動など一切持っていない女が縋ってくるので、身体を捻って躱す。
たたらを踏んで女が転んだが、無視して離れた。
阿呆は放っておこうか。




それよりもクロエ・グランマルニエ……


『◯◯◯◯◯◯』


1000年ぶりに俺様は名前を呼ばれた。

俺様の1000年の孤独をあの女なら……


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