【完結】貴女は悪役令嬢ですよね?─彼女が微笑んだら─

Mimi

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1【王太子】リシャール

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その噂を教えてくれたのは、弟の第2王子のシャルルだった。


「クロエが悪役令嬢?」

「そう呼ばれています」


シャルルは俺より2学年下だ。
高等部1年の弟が知っている噂を、生徒会長である俺は知らなかった。


「悪役令嬢、って……
 何年も前の流行りだろう?」

「今回で、約20年振りの第3次らしいです。
 学院に平民の女子が居ると、その噂になるんですよ」


流行は20年サイクル、ってどこかで聞いたような気がするな。
平民の女子……しばらく考えて俺は思い出す。
あれ、か。
優秀だと教会からの推薦で、去年貴族学院の2年生に特別編入してきた、あの女。


ブリジット・ビグロー。

『BB、と書いて、ベベ、って呼んでくださいねっ!』なんて、
にっこり笑って言った女だ。
その手は、初対面の俺の腕を触って……


俺が身体を引いたのと、護衛のアンドレがビグローの手を叩き落としたのは、ほぼ同時だ。


「いったーい!何するんですかぁ」

「何をだと!
 殿下の御身に触れるな!」


ビグローは空色の瞳に涙を浮かべて、俺を見つめながら、己の手を撫でた。

気持ち悪かった。
優秀だと聞いていたが、頭がおかしい。


学院長からはビグローが学院に馴染めるように、生徒会長としてフォローして貰いたいとは頼まれていたが、こんな女とは関わりたくなくて、生徒会唯一の女性である婚約者の
クロエ・グランマルニエ・ラ・モンテールにビグローの事をお願いしたのだった。


クロエにしても、俺に頼まれたから仕方なく、あの女の世話役をしていたんだぞ?
それなのに苛めていた、だと?
有り得ない!


噂の内容をシャルルが説明する。

① クロエが取り巻き達と、空き教室や校舎裏にビグローを呼び出して、文句を言った。

② 放課後にビグローの教科書を盗み出して、破いて使えなくした。

③ 中庭の噴水にビグローを突き飛ばして、びしょ濡れにした。

④ 階段の踊り場からクロエがビグローの背中を押して怪我をさせた。


「大体、こんな感じかな。
 本当にド定番だね?」


シャルルは可笑しそうに笑っているが。
俺は笑えない。
確かに、オリジナリティも捻りもない、ド定番な悪役令嬢の所業だ。


こんなバカみたいな噂を信じるやつが居るのか?
それが噂として広まっている、その事も問題だ。
だが、今はそれよりも。
優先すべきは婚約者のクロエで……


「殿下!」


ほら、来た!
今日は王城で王太子妃教育のある日で。
クロエ嬢が来てるんだよ。
講義の後は、俺と彼女の親睦の茶席が用意されている。


「殿下! リシャールっ!」

物凄い勢いで。
クロエがこっちへやって来る!
右腕をぐるんぐるん振り回しているよ!

それを見たシャルルとアンドレが俺から離れようとする。


「一発殴ったら、それで気が済むんですから」

素早く立ち上がり、後退りし始めた俺に。
先に立っていた癖にシャルルが言う。
俺の背後に居たアンドレは護衛の筈なのに、俺から離れようとするのは何故だ。


「殿下は抵抗なさらずに、素直に殴られてください」

アンドレ、護衛の心得は?
忠告のつもりか? その言葉忘れないからな!


王太子殿下の弟と護衛だぞ?
怒れる婚約者から身を挺して、俺を護る気概は無いのか?
 
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