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舞い降りた天使 ~クリストファー~

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彼女を泣かせてしまった。

女性が結婚できる年齢になるまで、10年近く待っていた彼女を。


彼女の実家リーヴァイス伯爵家の動向は、俺個人で雇った専門の人間から定期的に報告させていた。

その長い年月には、会えなくて悔しい日もあった。
会えない時間が愛を育てる、と昔から歌われているが。
愛を育てていたのは俺だけだ。

彼女は俺の事は知っていなかったから。


グレイス……君が大人になるまで、俺はずっと待っていたのに。


 ◇◇◇


17歳になって王太子殿下の留学に近習として同行しろ、の話が来たので断るしかないと思い、理由を父に伝えると。

理解出来ないモノを見る目で、父は俺を見た。


「グレイス嬢?どこで見初めた?」

「4年前に。
 ウチで年齢の近い者を集めたガーデンパーティーがあって」

「待て、リーヴァイスの次女は幼すぎて招待していない筈だ」

「彼女の姉のアデライン嬢が出席していまして」

王立学園中等部在学中に、俺の将来的戦略的人脈を拡げるように開かれたパーティーだった。

メインターゲットの公爵家の子息を出迎える為に、俺は馬車寄せに立っていた。


そこに天使が現れたのだ。

伯爵家の馬車から姉が降りてきて、侍従が手を貸していた。
その背中に馬車内から天使が声をかけていた。


「お姉様、お帰りもお迎えに来ていい?」


着飾って出席する姉と一緒に馬車に乗って、送りに来ていたのだろう。
天上から可憐な天使が舞い降りた。

彼女が顔を出した伯爵家の馬車からは、虹色の後光が射していた。


俺の運命、俺の天使、グレイス・リーヴァイス……

あの日のことを1日たりとも、忘れたことはない俺だ。
父が咳払いをしたので、視線を目の前に戻した。


「お前はその、一度見かけただけの幼女が好きだと?」

「幼女は止めてください。
 俺が妙な性癖を持っているようじゃありませんか」

「違うと言うのか? いくつ違う?」

「7つ、です。
 大した差ではありません」



父に初めて愛するひとの名前を告げた。
この時、俺は17で、彼女は10歳。

運命の出会いから4年が経っていて、そろそろ父に縁組を相談せねばと考えていたので、これは却っていい機会だと言える。

結婚可能な16歳に彼女がなれば、俺は23歳。
これ程ベストな年齢差はないだろう。


「あちらはお前の事をどう思っているのだ?」

「グレイスですか?
 俺の事は知らないと思いますよ?
 彼女は初等部で、俺の居る高等部とは離れていますし」

「しょ、初等部……!」

父が額を押さえていた。


「下校時間は初等部の方が早いので、昼休みに時々校庭を覗いています。
 俺の目は、確かです。
 周りのガキ、いや子供達とは全然違います。
 カン蹴りのキックにセンスを感じます。
 将来、どんな美人にな……」


語りだした俺を父が掌で制した。

「覗く、と言うな」

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