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第40話
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イアンが事情を話すと言ったので、リチャードは慌てて家令のハモンドに席を外すように命じた。
ミルドレッドから聞いた話では、アダムスの使用人達は、スチュワートの両親の離婚後全て入れ替えられたと言う。
ハモンドとて、一族の男だ。
本家に双子が誕生した場合の処理の仕方は知っているはずだ。
それなのに、ここまで秘密主義を貫くのは、何故なんだ。
イアンは、リチャードの面の皮を剥がしてやりたくなった。
「秘密を共有するのは家族のみと、アダムス子爵が仰せなら。
私の義妹マリーと、この家の孫であるメラニー嬢も、呼んできて貰えるかな」
「メラニーちゃんは、何処に居るの?
嫌がるようなら、無理に連れてこなくてもいいから。
わたくしが後から会いに行きます」
ジャーヴィスがいけしゃあしゃあと、部屋を出ていくハモンドに惚けて頼むのを、リチャードは忌々しそうに見ている。
この場では一番立場が上のミルドレッドが、そう命じるのなら、それは守らなくてはならない。
ハモンドは、恐らく……と断ってから、メラニーの居場所を口にした。
「メラニー様の面倒は、ユリアナが主に見ております」
ハモンドがメラニーに様を付けたのは、スチュワートの姪だと知ったからだ。
今まではなんとなく『あの子』で、一同通してきた。
母親のローラだと偽っていたくせに、マリーはメラニーの世話をしなかった。
持参した数少ない子供服も、全て中古品のようで、メラニーはいつも身体より大きめの古ぼけたワンピースを着せられていた。
マリーは娘の食事の好みを聞いても、よく分かっていなかった。
それで料理上手なユリアナに幼女の喜びそうな物を作らせると、メラニーは彼女に懐き、ずっと側を離れない。
「確か、ミルドレッドの専属侍女だったな。
では、そのユリアナ・バークレー嬢も一緒に。
懐いているなら、その方がメラニー嬢も安心だろう」
正直、ジャーヴィスは何の理由で、ユリアナをこの場に連れ出すか悩んでいた。
だが、幸運なことに彼女がメラニーの世話をしていて、懐いているのなら……運命の偶然に感謝した。
◇◇◇
ユリアナは、リチャードの母グロリアと同じバークレーの娘だ。
本当はここには呼びたくなかったが、いつも曖昧な対応しか出来ない愚鈍な侍女だったので、邪魔にはならんだろと、リチャードは仕方ないと諦めた。
それでも、ジャーヴィスと何処の馬の骨とも知れない男に、この場を仕切られるのには我慢がならなかった。
ここまで来ても、リチャードが気にするのは男性ふたりで。
小娘のミルドレッドのこと等、こいつらが帰ったら好きに出来ると考えていた。
王命が出たという『あの女』との結婚も、明日にでもシールズに面会を捩じ込んで、こんなあり得ない養子縁組は認めないと、大声で文句を言えば、どうにかなるはずだ。
この由緒正しいアダムスの新当主に、あんな元平民を嫁がせるわけにはいかない。
その新当主レナードも最初の驚愕から時間が経過すると、心配は『ウィラードとは誰なのか』から『王命でマリーと結婚しなくてはならないこと』に移っていた。
「王家も俺も、ウィンガムなら誰でもいい」と、ミルドレッドに投げつけたのは確かに自分だったが。
まさかあのローラを、ジャーヴィスがマーチ家の養女にするとは想像もしていなかった。
昨夜だってローラを抱いていたのに、あの女は何も言わなかった。
一体、いつジャーヴィスと連絡を取っていたのか。
レナードは苛々と親指の爪を噛んだ。
母ジュリアから注意されていた子供の頃からの悪癖だが、今も感情が落ち着かなくなると出てしまう。
カールトンはとにかく下を向いていて、その表情は読み取れないが、アダムスの男達の三者三様の様子にイアンは呆れていた。
『アダムスは一枚岩』とミルドレッドは言うが、それは何かを隠す為だ。
本当の意味で団結している訳じゃない。
何らかの理由で女性を蔑視しているリチャード。
自分のことしか考えていないレナード。
そして、反対に何を考えているのか分からないカールトン。
絶対に彼女を、こいつらから引き離すと、イアンは改めて決意した。
しばらくすると、ハモンドがユリアナとメラニー、そしてマリーを連れてきた。
「お前は!
何勝手な真似を……」
マリーの姿を見るとレナードは、そう言いながら立ち上がって腕を振り上げようとしたので、イアンがそれを取り押さえた。
レナードと関係があることを、マリーから聞いていた。
彼女は、ジャーヴィスからの言い付けを守って、ちゃんと今日までレナードには、何も話していなかったのだ。
そんなマリーが、目の前で暴力を振るわれるのを見たくなかったし、ミルドレッドやメラニーにも見せたくなかった。
イアンに後ろ手に捻られて、床に押し付けられたレナードが離せと、喚いていた。
イアンは暴れる彼を制圧しながら、反対に同情した。
ミルドレッドと言う本命の女性の前で、みっともない姿をさらけ出すこの男が、本当に哀れだった。
ミルドレッドから聞いた話では、アダムスの使用人達は、スチュワートの両親の離婚後全て入れ替えられたと言う。
ハモンドとて、一族の男だ。
本家に双子が誕生した場合の処理の仕方は知っているはずだ。
それなのに、ここまで秘密主義を貫くのは、何故なんだ。
イアンは、リチャードの面の皮を剥がしてやりたくなった。
「秘密を共有するのは家族のみと、アダムス子爵が仰せなら。
私の義妹マリーと、この家の孫であるメラニー嬢も、呼んできて貰えるかな」
「メラニーちゃんは、何処に居るの?
嫌がるようなら、無理に連れてこなくてもいいから。
わたくしが後から会いに行きます」
ジャーヴィスがいけしゃあしゃあと、部屋を出ていくハモンドに惚けて頼むのを、リチャードは忌々しそうに見ている。
この場では一番立場が上のミルドレッドが、そう命じるのなら、それは守らなくてはならない。
ハモンドは、恐らく……と断ってから、メラニーの居場所を口にした。
「メラニー様の面倒は、ユリアナが主に見ております」
ハモンドがメラニーに様を付けたのは、スチュワートの姪だと知ったからだ。
今まではなんとなく『あの子』で、一同通してきた。
母親のローラだと偽っていたくせに、マリーはメラニーの世話をしなかった。
持参した数少ない子供服も、全て中古品のようで、メラニーはいつも身体より大きめの古ぼけたワンピースを着せられていた。
マリーは娘の食事の好みを聞いても、よく分かっていなかった。
それで料理上手なユリアナに幼女の喜びそうな物を作らせると、メラニーは彼女に懐き、ずっと側を離れない。
「確か、ミルドレッドの専属侍女だったな。
では、そのユリアナ・バークレー嬢も一緒に。
懐いているなら、その方がメラニー嬢も安心だろう」
正直、ジャーヴィスは何の理由で、ユリアナをこの場に連れ出すか悩んでいた。
だが、幸運なことに彼女がメラニーの世話をしていて、懐いているのなら……運命の偶然に感謝した。
◇◇◇
ユリアナは、リチャードの母グロリアと同じバークレーの娘だ。
本当はここには呼びたくなかったが、いつも曖昧な対応しか出来ない愚鈍な侍女だったので、邪魔にはならんだろと、リチャードは仕方ないと諦めた。
それでも、ジャーヴィスと何処の馬の骨とも知れない男に、この場を仕切られるのには我慢がならなかった。
ここまで来ても、リチャードが気にするのは男性ふたりで。
小娘のミルドレッドのこと等、こいつらが帰ったら好きに出来ると考えていた。
王命が出たという『あの女』との結婚も、明日にでもシールズに面会を捩じ込んで、こんなあり得ない養子縁組は認めないと、大声で文句を言えば、どうにかなるはずだ。
この由緒正しいアダムスの新当主に、あんな元平民を嫁がせるわけにはいかない。
その新当主レナードも最初の驚愕から時間が経過すると、心配は『ウィラードとは誰なのか』から『王命でマリーと結婚しなくてはならないこと』に移っていた。
「王家も俺も、ウィンガムなら誰でもいい」と、ミルドレッドに投げつけたのは確かに自分だったが。
まさかあのローラを、ジャーヴィスがマーチ家の養女にするとは想像もしていなかった。
昨夜だってローラを抱いていたのに、あの女は何も言わなかった。
一体、いつジャーヴィスと連絡を取っていたのか。
レナードは苛々と親指の爪を噛んだ。
母ジュリアから注意されていた子供の頃からの悪癖だが、今も感情が落ち着かなくなると出てしまう。
カールトンはとにかく下を向いていて、その表情は読み取れないが、アダムスの男達の三者三様の様子にイアンは呆れていた。
『アダムスは一枚岩』とミルドレッドは言うが、それは何かを隠す為だ。
本当の意味で団結している訳じゃない。
何らかの理由で女性を蔑視しているリチャード。
自分のことしか考えていないレナード。
そして、反対に何を考えているのか分からないカールトン。
絶対に彼女を、こいつらから引き離すと、イアンは改めて決意した。
しばらくすると、ハモンドがユリアナとメラニー、そしてマリーを連れてきた。
「お前は!
何勝手な真似を……」
マリーの姿を見るとレナードは、そう言いながら立ち上がって腕を振り上げようとしたので、イアンがそれを取り押さえた。
レナードと関係があることを、マリーから聞いていた。
彼女は、ジャーヴィスからの言い付けを守って、ちゃんと今日までレナードには、何も話していなかったのだ。
そんなマリーが、目の前で暴力を振るわれるのを見たくなかったし、ミルドレッドやメラニーにも見せたくなかった。
イアンに後ろ手に捻られて、床に押し付けられたレナードが離せと、喚いていた。
イアンは暴れる彼を制圧しながら、反対に同情した。
ミルドレッドと言う本命の女性の前で、みっともない姿をさらけ出すこの男が、本当に哀れだった。
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