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第13話
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門番も、元々はきちんと己の仕事をする男だったが。
以前、身元を何度も確認したら、サリーの友人に対して失礼を働いたと、後からレナードから叱られた。
それからは『あの女』の知り合いに対しては、誰何を行わなくなっていた。
それで簡単に女は、アダムス邸内に入ってきて、応接室のソファに腰を下ろし。
しばらくして入ってきたメイドにお茶を出して貰った。
そして、女がメイドに言ったのは。
「伯爵様に会いに来たんだけど。
ローラが来た、って伝えてちょうだい」
◇◇◇
聞き間違いかと思って、ミルドレッドはケイトに聞き返した。
「……スチュワート様に会いたい、と?」
「左様でございます。
……伯爵様と言うので確認したところ、レナード様やサリー……様ではなく、スチュワート様だと言われたとハンナが申しております」
今日はカールトンは、来ない日だ。
彼女はスチュワートの執務室で、3年前の決算書に目を通していた。
この年も大雨で、レイウッドは経済的に打撃を受けていたので、今年の収支の参考資料にしようと思ったからだ。
ケイトが報告してきたのは。
昼過ぎに応接室に通した、サリーの知り合いの女のことだ。
レナードとサリーはこの日、午前中から出掛けていて留守だったので、彼等が帰宅するまで応接室に放り込んだ親子だと言う。
その風体から平民だと判断してサリーの知り合いだと思っていたのに、お茶とジュースを出したメイドに、女は伯爵様に会いに来たのだと話したらしい。
「旦那様が亡くなったことを、その女性はご存知なかったのね?」
「それが……ハンナがつい話してしまったようです。
申し訳ありません」
サリーの友人にお茶を出すのは、メイド達の中で一番年下のハンナが嫌々やらされていた。
そんなハンナが話してしまったのは仕方がないので、自分は本人もケイトも叱る気はなかった。
口にしてしまった言葉は戻らない。
ケイトからきつく注意されて、ハンナは次からは気を付けるだろう。
「旦那様のお知り合いなら、わたしがお会いするわ。
お名前は、お聞きしたの?」
「ローラ・フェルドンと仰いました、それと……
こちらからは聞いていないのに、連れていた女の子はメラニーで3歳だと、自分から話したそうです」
メラニー?
どこかで聞いた名前だとミルドレッドは思い出そうとした。
そして思い出した。
スチュワートの実母の名前だ。
家名はフェルドンではなかった気がするけれど。
「……わたしがひとりで対応しない方がいいわね。
ハモンドに同席して欲しいと伝えて。
ややこしい話になりそうなら、カールトン様にも連絡します」
「レナード様の行き先は分かっていますので、お知らせ致しますか?」
「あの方おひとりではないでしょう?
もっと話がややこしくなるから、帰られた後にハモンドから伝えて貰えばいいわ」
もうミルドレッドは、レナードの名前さえ口にしなくなっていた。
レナードを『あの方』と呼び、サリーについては何も話さない。
今ではミルドレッドとレナードの再婚話は、邸内では使用人達にも知られてしまっていた。
そのことでふたりが口論して、そのまま交流しなくなったことも。
応接室へと続く廊下を、背筋を伸ばして歩くミルドレッドの後ろ姿をケイトは眺めた。
19歳で、お嫁入りしてきて。
少女のような若奥様だった。
それがあっという間に奥様になって、母になって。
若様から旦那様になられたスチュワート様に甘やかされて大切にされた、よく笑うふわふわしたひとだった。
それがあんな形で旦那様とお子様を失って。
どうなることかと心配していたら、今度は強い女性の顔を見せるようになってきた。
伯爵夫人としての自覚が芽生えたのは頼もしい限りだが。
すっかり笑わなくなった奥様が余りにも無理をしているようで。
いつか、その伸ばした背筋が折れませんようにと、祈るしか出来ないケイトだった。
ミルドレッドは、応接室の扉の前でハモンドが来るのを待った。
こんな時、彼女の予感は当たる。
女が連れている幼児の名前が、スチュワートの母の名前であることが、彼女の不安を掻き立てた。
それは、確かに。
良くない予感がしたからだ。
以前、身元を何度も確認したら、サリーの友人に対して失礼を働いたと、後からレナードから叱られた。
それからは『あの女』の知り合いに対しては、誰何を行わなくなっていた。
それで簡単に女は、アダムス邸内に入ってきて、応接室のソファに腰を下ろし。
しばらくして入ってきたメイドにお茶を出して貰った。
そして、女がメイドに言ったのは。
「伯爵様に会いに来たんだけど。
ローラが来た、って伝えてちょうだい」
◇◇◇
聞き間違いかと思って、ミルドレッドはケイトに聞き返した。
「……スチュワート様に会いたい、と?」
「左様でございます。
……伯爵様と言うので確認したところ、レナード様やサリー……様ではなく、スチュワート様だと言われたとハンナが申しております」
今日はカールトンは、来ない日だ。
彼女はスチュワートの執務室で、3年前の決算書に目を通していた。
この年も大雨で、レイウッドは経済的に打撃を受けていたので、今年の収支の参考資料にしようと思ったからだ。
ケイトが報告してきたのは。
昼過ぎに応接室に通した、サリーの知り合いの女のことだ。
レナードとサリーはこの日、午前中から出掛けていて留守だったので、彼等が帰宅するまで応接室に放り込んだ親子だと言う。
その風体から平民だと判断してサリーの知り合いだと思っていたのに、お茶とジュースを出したメイドに、女は伯爵様に会いに来たのだと話したらしい。
「旦那様が亡くなったことを、その女性はご存知なかったのね?」
「それが……ハンナがつい話してしまったようです。
申し訳ありません」
サリーの友人にお茶を出すのは、メイド達の中で一番年下のハンナが嫌々やらされていた。
そんなハンナが話してしまったのは仕方がないので、自分は本人もケイトも叱る気はなかった。
口にしてしまった言葉は戻らない。
ケイトからきつく注意されて、ハンナは次からは気を付けるだろう。
「旦那様のお知り合いなら、わたしがお会いするわ。
お名前は、お聞きしたの?」
「ローラ・フェルドンと仰いました、それと……
こちらからは聞いていないのに、連れていた女の子はメラニーで3歳だと、自分から話したそうです」
メラニー?
どこかで聞いた名前だとミルドレッドは思い出そうとした。
そして思い出した。
スチュワートの実母の名前だ。
家名はフェルドンではなかった気がするけれど。
「……わたしがひとりで対応しない方がいいわね。
ハモンドに同席して欲しいと伝えて。
ややこしい話になりそうなら、カールトン様にも連絡します」
「レナード様の行き先は分かっていますので、お知らせ致しますか?」
「あの方おひとりではないでしょう?
もっと話がややこしくなるから、帰られた後にハモンドから伝えて貰えばいいわ」
もうミルドレッドは、レナードの名前さえ口にしなくなっていた。
レナードを『あの方』と呼び、サリーについては何も話さない。
今ではミルドレッドとレナードの再婚話は、邸内では使用人達にも知られてしまっていた。
そのことでふたりが口論して、そのまま交流しなくなったことも。
応接室へと続く廊下を、背筋を伸ばして歩くミルドレッドの後ろ姿をケイトは眺めた。
19歳で、お嫁入りしてきて。
少女のような若奥様だった。
それがあっという間に奥様になって、母になって。
若様から旦那様になられたスチュワート様に甘やかされて大切にされた、よく笑うふわふわしたひとだった。
それがあんな形で旦那様とお子様を失って。
どうなることかと心配していたら、今度は強い女性の顔を見せるようになってきた。
伯爵夫人としての自覚が芽生えたのは頼もしい限りだが。
すっかり笑わなくなった奥様が余りにも無理をしているようで。
いつか、その伸ばした背筋が折れませんようにと、祈るしか出来ないケイトだった。
ミルドレッドは、応接室の扉の前でハモンドが来るのを待った。
こんな時、彼女の予感は当たる。
女が連れている幼児の名前が、スチュワートの母の名前であることが、彼女の不安を掻き立てた。
それは、確かに。
良くない予感がしたからだ。
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