上 下
18 / 22

18 私にぐいぐい来られましても

しおりを挟む
えーと、これは……?
あの日、私はフェルフラン公国のお祖母様の所に行くからと、幼馴染みの皆に送別会を開いて貰っていた、のに。
あれから1週間過ぎたけれど、私は出発していません。

私は相変わらず『事故物件』のはず、なのに。
この国の『最優良物件』のライオネル・グレイ・モンゴメリー小公爵様にエスコートされて、グレイ家のガーデンパーティーに出席しているのは……


『君に結婚を申し込むよ!
 だから、行くな!』

送別会の日、遅刻してきたライオネルが……
結婚を申し込む? 私に? 何で?
申し込むと言われた私もだけど、その場に居た全員がそう思っていたよね……



「何を考えているの、エヴァ?」

「……」

「俺の事を考えてくれているなら、最高なんだけど?」

そうね、ライ、貴方の事を考えているの。
どうして私に結婚を申し込んだのか、なんて。
ずーっと、貴方の事を考えてる。


フェルフランのお祖母様に早馬を出したのは、お母様。
直ぐに返事が来て、そんな事になっているのなら、こちらに来る必要はない、らしいです。

宰相閣下の御嫡男が事故物件とまで呼ばれた娘に結婚を申し込んだのだ。
その有難いお話を蹴るバカは何処にも居ない。
今日もお迎えに来てくれたライオネルに、お母様が私を押し付けた。

……だけど、私は気付いてる。

結婚を申し込む、と。
だから行くな、と。

ライオネルは確かに言ってくれたけれど。
「好き」も。
「愛してる」も。
そんな甘い台詞は全然無かったもの。

これ、ってつまり……政略婚約パート2、ってヤツなんじゃない!


「ちょっと待ってて」

ずっと私の隣から離れないライオネルが友人に呼ばれて席を外せば、すかさず声をかけてくるご令嬢がいました。


「ご無沙汰しております。
 ……お元気かしら、と心配させていただいておりましたけれど。
 無用な事でしたわね?
 以前のご婚約者よりも素敵な殿方を捕まえられて」


……ライオネルが私に求婚した事は既に社交界では有名になっているらしくて、今日は皆様の視線が痛くて痛くて。
このようにチクリと嫌味を言われても気にしないでおこう、と覚悟はしていたけれど。
この方は嫉妬からお声をかけてこられていないのは明白です。
だって、この方は……

ルーカスのお兄様、ケイレヴ様のご婚約者だったマリナ・スタイナー嬢でした。

ルーカスの横領、お父様の財務大臣免職、王都からの撤収……
ケイレヴ様は王城でお仕事を続けられていらっしゃいますが、一連の出来事からケイレヴ様とマリナ様の婚約も、ハモンド侯爵家の有責で破棄となって。
挙式一ヶ月前の破棄でした。
何事もなければおふたりは、今頃ご夫婦になられていた。
あの断罪の影響はこの方の人生まで変えてしまった。


「私、貴女も被害者なのだから、と。
 自分で納得させようとしていましたの。
 ですが、新しいお相手があのモンゴメリー小公爵様だ、と聞いて」

静かな怒りを込めて、マリナ様に睨まれました。
いつも穏やかな微笑みしか向けられていなかったから、このような剥き出しの感情をぶつけられたのは初めてで。


「マリナ様、私……」

「もう名前で呼ばないでくださる?マッカラム様。
 私とのご縁は切れましたのに」


マリナ様とはお互いにファルガー兄弟の婚約者として、幼い頃から親しくさせていただいていたのに。
義理の姉妹になる方だから、だけではなく本当に好ましい女性だったのに。


「ご婚約おめでとうございます……ねぇ、おふたりで企んだ事なのかしら?
 さすが、悪役令嬢と呼ばれるだけ……お見事としか……」 

「マリナ様?」

「そんな風になにも知らないなんて顔をしたって、もう騙されませんわ」


マリナ様が憎々しげに私に仰るその言葉の意味がわからない。
ライオネルとは、まだ婚約などしていない。
でも取りあえず、それは置いておいて。
ふたりで企んだ?


「ルーカス様が横領したきっかけは、モンゴメリー小公爵様からの借金でしょう?
 下世話な言い方になりますけれど、おふたりが『邪魔なルーカス様を嵌めた』のですね!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

水谷繭
恋愛
公爵令嬢ジゼル・ブラッドリーは第一王子レイモンドの婚約者。しかしレイモンド王子はお気に入りの男爵令嬢メロディばかり優遇して、ジゼルはいつもないがしろにされている。 そんなある日、ジゼルの元に王子から「君と話がしたいから王宮に来て欲しい」と書かれた手紙が届く。喜ぶジゼルだが、義弟のアレクシスは何か言いたげな様子で王宮に行こうとするジゼルをあの手この手で邪魔してくる。 これでは駄目だと考えたジゼルは、義弟に隠れて王宮を訪れることを決めるが、そこにはレイモンド王子だけでなく男爵令嬢メロディもいて……。 ◆短めのお話です! ◆なろうにも掲載しています ◆エールくれた方ありがとうございます!

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...