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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 わたしとモニカを囲んだ魔法士達を掻き分けて、やっとこちらに来れた祖父に、わたし達ふたりがまとめて抱き締められた瞬間。
 空を覆いだした夕焼けよりも、辺りを照らす閃光が走ったかと思うと、大きな爆発音が聞こえて、地響きがした。 

 倉庫の中で爆発がしたのだ。

 その直後に、また2発小さめの爆発音が続いた。


 通りに面した何棟もの建物の窓ガラスが、一斉に震えて粉々に砕け飛んだが、わたし達の周囲には見えない結界が張られているように、全て頭上で方向を変えて落ちていく。

 キラキラと光りながら細かいガラスのシャワーが落ちていく様な。
 それ見上げて『綺麗……』と小さな声でモニカが呟いた。
 とても素直な感想なんだけれど、声が小さいのは不謹慎だと自分でも思ったのだろう。


 祖父とサイモンとモニカと、わたし。

 4人で煙が漏れだした3発の爆発に耐えた倉庫を、見上げた。


「あのひと、大丈夫かな……」

「わたしの魔法士だもの。
 あんな狂った奴に負けるわけ無い。
 魔法の才能は結構あるの、って……前に本人も言っていたから」


 わたしの、に力を込めてモニカに言うが。
 それは自分にも言い聞かせるため。
 倉庫の中に入っていった、ヴィオン師匠も戻ってきていない。
 あんな3発も続いた爆発の中心に居て、ふたり(とあの狂人)は無事なのだろうか。


 魔法士達は、倉庫の中に飛び込むこと無く、周囲の被害状況の把握に走り回っていて、端の建物から魔法で破壊箇所の修復作業にかかるのが見えた。
 セントラル大通りからも離れていない場所の、こんなに大きな爆発なのに、通行人の被害が無かったり、野次馬が集まって来ないことが不思議で。


 祖父に聞いたら『3年先取り』の場所を祖父が師匠に伝えたところ、直ぐにその場でオルとふたりで、一帯に結界を張ったのだと言う。
 それはここウェアハウス通りを通っているつもりで大きく迂回しているのに、本人にはその意識はなくて、通った記憶が残る、という高度なものらしい。


「お前の魔法士は想像していたより……
 王族の魔法士のレベルは底が知れん」 


 底が知れん、と言った祖父の表情は。
 以前邸の第3応接室で、時戻しをしたわたしを認めた時に見せた表情に似ていた。


 初めて間近に見る魔力に目を見張るばかりのわたし達だが、やがて祖父がわたしとモニカに謝った。
 現在20歳のヨエルが魔法学院教官なので安心していて、万が一こちらの動きに気付かれても、自分が狙われるのは覚悟していた、と言う。
 まさか33歳のヨエルが時戻しを行って関係者を順番に粛清していくとは思っていなかったそうだ。


 午後に魔法庁から緊急連絡があり登城したら、逃亡したヨエルを追ってきた23歳のオルとヴィオン師匠を紹介されたそうだ。
 祖父の予定では、侯爵とヨエルを訴えるのは来週の27日だったのに、ふたりの犯罪が既に魔法庁の機密文書扱いで残されて、13年後に侯爵夫妻が逮捕されたのは、思いも寄らないことだったらしい。


 今の自分達が行ったことによって結果が変わるはずだったのに、まだ行っていないことで先が変わってしまったことが、よく分からなくて。

 祖父もとにかく混乱していて『これが大人のオルシアナスか』と説明を受けながら、それだけが頭が占めて、オルの為人を観察することに気を取られてしまった、と少し悔しそうに話してくれた。


 逮捕に向かった侯爵夫妻が死後何時間か経っていた惨殺死体で見つかった、との報せが入り、慌ててムーアの邸に帰ると、戻ってきたサイモン達と顔を合わせて。
 わたしとモニカが『3年先取りした場所に』『赤い瞳のオルの師匠』と行ったことを聞いたのだ。


 祖父がそれからも何か言いたそうにしていたのに、そこからわたしの意識は離れた。
 こんな孫で申し訳なかったけれど、話を聞きながらも、目はずっと倉庫を見ていた。
 爆発が終わって、時間が経っているのに。

 何の動きもないのが、怖かった。


 祖父にもそれが伝わったのか、詳しい説明は後回しにすると決めてくれたようだ。
 オルの安否に気を取られているわたしを、そっとしてくれている。

 倉庫の中の様子が全然分からない。
 とうとう我慢出来なくて、支え合っていたモニカの腕から離れてそちらに進み始めた時。

 入口が崩れて、オルと師匠が姿を現した。


 とにかく早く、オルの元へと行きたくて。
 どんどん足が早くなり、彼に向かって駆け出したわたしを、止める人は誰も居ない。


 細身で華奢な師匠に抱えられるように出てきた一回り大きなオルのローブは血で真っ赤に染まり。
 彼に肩を貸している師匠の服は、何故か少しも汚れていなくて。 


 真っ赤なオルと真っ白な師匠の元に駆け付けた。

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