102 / 112
第2章 いつか、あなたに会う日まで
51
しおりを挟む
わたしとモニカを囲んだ魔法士達を掻き分けて、やっとこちらに来れた祖父に、わたし達ふたりがまとめて抱き締められた瞬間。
空を覆いだした夕焼けよりも、辺りを照らす閃光が走ったかと思うと、大きな爆発音が聞こえて、地響きがした。
倉庫の中で爆発がしたのだ。
その直後に、また2発小さめの爆発音が続いた。
通りに面した何棟もの建物の窓ガラスが、一斉に震えて粉々に砕け飛んだが、わたし達の周囲には見えない結界が張られているように、全て頭上で方向を変えて落ちていく。
キラキラと光りながら細かいガラスのシャワーが落ちていく様な。
それ見上げて『綺麗……』と小さな声でモニカが呟いた。
とても素直な感想なんだけれど、声が小さいのは不謹慎だと自分でも思ったのだろう。
祖父とサイモンとモニカと、わたし。
4人で煙が漏れだした3発の爆発に耐えた倉庫を、見上げた。
「あのひと、大丈夫かな……」
「わたしの魔法士だもの。
あんな狂った奴に負けるわけ無い。
魔法の才能は結構あるの、って……前に本人も言っていたから」
わたしの、に力を込めてモニカに言うが。
それは自分にも言い聞かせるため。
倉庫の中に入っていった、ヴィオン師匠も戻ってきていない。
あんな3発も続いた爆発の中心に居て、ふたり(とあの狂人)は無事なのだろうか。
魔法士達は、倉庫の中に飛び込むこと無く、周囲の被害状況の把握に走り回っていて、端の建物から魔法で破壊箇所の修復作業にかかるのが見えた。
セントラル大通りからも離れていない場所の、こんなに大きな爆発なのに、通行人の被害が無かったり、野次馬が集まって来ないことが不思議で。
祖父に聞いたら『3年先取り』の場所を祖父が師匠に伝えたところ、直ぐにその場でオルとふたりで、一帯に結界を張ったのだと言う。
それはここウェアハウス通りを通っているつもりで大きく迂回しているのに、本人にはその意識はなくて、通った記憶が残る、という高度なものらしい。
「お前の魔法士は想像していたより……
王族の魔法士のレベルは底が知れん」
底が知れん、と言った祖父の表情は。
以前邸の第3応接室で、時戻しをしたわたしを認めた時に見せた表情に似ていた。
初めて間近に見る魔力に目を見張るばかりのわたし達だが、やがて祖父がわたしとモニカに謝った。
現在20歳のヨエルが魔法学院教官なので安心していて、万が一こちらの動きに気付かれても、自分が狙われるのは覚悟していた、と言う。
まさか33歳のヨエルが時戻しを行って関係者を順番に粛清していくとは思っていなかったそうだ。
午後に魔法庁から緊急連絡があり登城したら、逃亡したヨエルを追ってきた23歳のオルとヴィオン師匠を紹介されたそうだ。
祖父の予定では、侯爵とヨエルを訴えるのは来週の27日だったのに、ふたりの犯罪が既に魔法庁の機密文書扱いで残されて、13年後に侯爵夫妻が逮捕されたのは、思いも寄らないことだったらしい。
今の自分達が行ったことによって結果が変わるはずだったのに、まだ行っていないことで先が変わってしまったことが、よく分からなくて。
祖父もとにかく混乱していて『これが大人のオルシアナスか』と説明を受けながら、それだけが頭が占めて、オルの為人を観察することに気を取られてしまった、と少し悔しそうに話してくれた。
逮捕に向かった侯爵夫妻が死後何時間か経っていた惨殺死体で見つかった、との報せが入り、慌ててムーアの邸に帰ると、戻ってきたサイモン達と顔を合わせて。
わたしとモニカが『3年先取りした場所に』『赤い瞳のオルの師匠』と行ったことを聞いたのだ。
祖父がそれからも何か言いたそうにしていたのに、そこからわたしの意識は離れた。
こんな孫で申し訳なかったけれど、話を聞きながらも、目はずっと倉庫を見ていた。
爆発が終わって、時間が経っているのに。
何の動きもないのが、怖かった。
祖父にもそれが伝わったのか、詳しい説明は後回しにすると決めてくれたようだ。
オルの安否に気を取られているわたしを、そっとしてくれている。
倉庫の中の様子が全然分からない。
とうとう我慢出来なくて、支え合っていたモニカの腕から離れてそちらに進み始めた時。
入口が崩れて、オルと師匠が姿を現した。
とにかく早く、オルの元へと行きたくて。
どんどん足が早くなり、彼に向かって駆け出したわたしを、止める人は誰も居ない。
細身で華奢な師匠に抱えられるように出てきた一回り大きなオルのローブは血で真っ赤に染まり。
彼に肩を貸している師匠の服は、何故か少しも汚れていなくて。
真っ赤なオルと真っ白な師匠の元に駆け付けた。
空を覆いだした夕焼けよりも、辺りを照らす閃光が走ったかと思うと、大きな爆発音が聞こえて、地響きがした。
倉庫の中で爆発がしたのだ。
その直後に、また2発小さめの爆発音が続いた。
通りに面した何棟もの建物の窓ガラスが、一斉に震えて粉々に砕け飛んだが、わたし達の周囲には見えない結界が張られているように、全て頭上で方向を変えて落ちていく。
キラキラと光りながら細かいガラスのシャワーが落ちていく様な。
それ見上げて『綺麗……』と小さな声でモニカが呟いた。
とても素直な感想なんだけれど、声が小さいのは不謹慎だと自分でも思ったのだろう。
祖父とサイモンとモニカと、わたし。
4人で煙が漏れだした3発の爆発に耐えた倉庫を、見上げた。
「あのひと、大丈夫かな……」
「わたしの魔法士だもの。
あんな狂った奴に負けるわけ無い。
魔法の才能は結構あるの、って……前に本人も言っていたから」
わたしの、に力を込めてモニカに言うが。
それは自分にも言い聞かせるため。
倉庫の中に入っていった、ヴィオン師匠も戻ってきていない。
あんな3発も続いた爆発の中心に居て、ふたり(とあの狂人)は無事なのだろうか。
魔法士達は、倉庫の中に飛び込むこと無く、周囲の被害状況の把握に走り回っていて、端の建物から魔法で破壊箇所の修復作業にかかるのが見えた。
セントラル大通りからも離れていない場所の、こんなに大きな爆発なのに、通行人の被害が無かったり、野次馬が集まって来ないことが不思議で。
祖父に聞いたら『3年先取り』の場所を祖父が師匠に伝えたところ、直ぐにその場でオルとふたりで、一帯に結界を張ったのだと言う。
それはここウェアハウス通りを通っているつもりで大きく迂回しているのに、本人にはその意識はなくて、通った記憶が残る、という高度なものらしい。
「お前の魔法士は想像していたより……
王族の魔法士のレベルは底が知れん」
底が知れん、と言った祖父の表情は。
以前邸の第3応接室で、時戻しをしたわたしを認めた時に見せた表情に似ていた。
初めて間近に見る魔力に目を見張るばかりのわたし達だが、やがて祖父がわたしとモニカに謝った。
現在20歳のヨエルが魔法学院教官なので安心していて、万が一こちらの動きに気付かれても、自分が狙われるのは覚悟していた、と言う。
まさか33歳のヨエルが時戻しを行って関係者を順番に粛清していくとは思っていなかったそうだ。
午後に魔法庁から緊急連絡があり登城したら、逃亡したヨエルを追ってきた23歳のオルとヴィオン師匠を紹介されたそうだ。
祖父の予定では、侯爵とヨエルを訴えるのは来週の27日だったのに、ふたりの犯罪が既に魔法庁の機密文書扱いで残されて、13年後に侯爵夫妻が逮捕されたのは、思いも寄らないことだったらしい。
今の自分達が行ったことによって結果が変わるはずだったのに、まだ行っていないことで先が変わってしまったことが、よく分からなくて。
祖父もとにかく混乱していて『これが大人のオルシアナスか』と説明を受けながら、それだけが頭が占めて、オルの為人を観察することに気を取られてしまった、と少し悔しそうに話してくれた。
逮捕に向かった侯爵夫妻が死後何時間か経っていた惨殺死体で見つかった、との報せが入り、慌ててムーアの邸に帰ると、戻ってきたサイモン達と顔を合わせて。
わたしとモニカが『3年先取りした場所に』『赤い瞳のオルの師匠』と行ったことを聞いたのだ。
祖父がそれからも何か言いたそうにしていたのに、そこからわたしの意識は離れた。
こんな孫で申し訳なかったけれど、話を聞きながらも、目はずっと倉庫を見ていた。
爆発が終わって、時間が経っているのに。
何の動きもないのが、怖かった。
祖父にもそれが伝わったのか、詳しい説明は後回しにすると決めてくれたようだ。
オルの安否に気を取られているわたしを、そっとしてくれている。
倉庫の中の様子が全然分からない。
とうとう我慢出来なくて、支え合っていたモニカの腕から離れてそちらに進み始めた時。
入口が崩れて、オルと師匠が姿を現した。
とにかく早く、オルの元へと行きたくて。
どんどん足が早くなり、彼に向かって駆け出したわたしを、止める人は誰も居ない。
細身で華奢な師匠に抱えられるように出てきた一回り大きなオルのローブは血で真っ赤に染まり。
彼に肩を貸している師匠の服は、何故か少しも汚れていなくて。
真っ赤なオルと真っ白な師匠の元に駆け付けた。
1
お気に入りに追加
610
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる