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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 そこに居てはいけないふたり。
 サイモンとクララのデイビス兄妹……

 何でこんなところに居るの?
 サイモンは馬鹿なの?
 男子寮から離れているとは言え、次々にウチの女生徒が帰って来てるのよ?


 今日は本当に、何て日だ!
 

 サイモンと顔を合わしたモニカ。
 ちょっと待って?
 ふたりが初めて会うのは、クレイトンにサイモンを招待した来年の6月かと思っていたのに。
 前年の11月には会っていたの?


「ねぇ、彼誰なの?」


 モニカはわたしに手を上げたサイモンを不審に思ったようだ。
 あの人が貴女の夫になるあのシドニー・ハイパーですよ、とは言えないから、サイモンとして紹介をするしかない。


 本当に不思議なのは、サイモンが言っていた通り、眼鏡を掛けて地味な服を着て変な形の帽子をかぶり、クララを抱いたシドニー王子に、女子寮の皆が気がついてないことだ。
 一瞬『誰だ?』と視線は向けても、直ぐに外して通りすぎていく。
 メリッサだけは、信じられないものを見たように、固まった。
 そしてわたしの顔を見て『どう言うことなの、後でいいから理由を教えて』と小さな声で囁いた。

 わたしだって、サイモンが今日ここに来た理由が知りたいよ……
 じぃじもアーネストさんも、彼を自由にし過ぎです。
 クララも一緒で、危険度指数は倍増しているのに!



「あの方は先輩です、ちょっと待ってて……」

「え、あの女の子はクララじゃない?
 王都に居るの?」


 そうか、今月の慰問を終えたモニカは、クララが孤児院を退院したことを知らないんだ。


「あ、あのね、彼はクララのお兄さんで……」

「ジェリーの先輩が? そんな偶然てある?」

 
 あるんだよ! 信じられないだろうけれど!
 もう何が何だか。
 わたしがもたもたしている内に、向こうからやって来た。


「あー、お姉ちゃん達、皆!
 嬉しい!」

「こんにちはクララ」

「元気にしていた?クララちゃん」

 モニカにだけでなく、ハント嬢にも、サイモンに抱かれたままでクララが手を伸ばした。
 ヴァイオレットお姉様まで、クララちゃん? 孤児院に行ったことが?
 驚くわたしにお姉様が微笑んだ。


「申し遅れてごめんなさい。
 母が働かせて貰っていて、わたしも何度かお邪魔したことがあるんです。
 母はサーラ・ハントと申します」


 ヴァイオレットお姉様のお父様のハント様は、王城から東部地方に派遣された行政官で、爵位こそ父より下位の領地なしの子爵家だが、いずれは王都に戻る中央官僚のエリートだ。

 その奥様が孤児院で、子供達のお世話をしていた!
 サイモンも驚いたようで、クララを降ろして、眼鏡と帽子を取ってお姉様に丁寧に頭を下げた。


「お母様には妹が、大変お世話になりました。
 先日はお忙しくされていたのに、私もお手数をおかけ致しました」

「子供達が大好きな母なんです。
 微力ながらお役にたてたのでしたら、幸いでございました。
 わたくし、ヴァイオレット・ハントと申します」

「私のほうこそ、ご挨拶が遅れました。
 サイモン・デイビスと申します」

「わたしはモニカ・キャンベルと申します。
 お見知りおきくださいませ」


 お姉様との間に入ってきたモニカの自己紹介にサイモンが、身体を引いた。
 偽りの愛を囁いた相手の出現に、思わず避けてしまったように見える。
 モニカの方はサイモンを警戒して、大事な友人を守ろうとしているように見える。
 相手が因縁のシドニー・ハイパーだとは知らないモニカの余所行きの笑顔が、従妹として見てて辛い。


 あからさまに身を引かれたモニカも、微笑みだけは固定しているが、目元がきつい。
 モニカはわたしと違って、王子様系金髪碧眼好きの面食いではなかったか。
 来年の6月、サイモンとモニカはどこかで出会って恋に落ちたりするのかな、と思っていたが、この感じではふたりの相性はあまり良くない様に見える。
 前回は利害関係の一致で結ばれたカップルだったのか。
 


 とにかくサイモンがシドニー・ハイパーだとモニカに知られてはいけない。
 彼のその名前を知っているのはこの場ではメリッサだけだが、彼女は事情が分からない限り、余計なことは言わない賢いひとなので、大丈夫だと思う。
 現に目の前で王子がサイモンだと自己紹介しても、黙ってくれていた。
 あぁ、だから大好きなの、メリッサが。


 ここではサイモンの用事を聞いて、速やかに撤収して貰おう。


「あのね、一昨日お兄ちゃん誕生日だったの。
 それでね、お祝いのケーキをどこか食べに行こう、って、ジェンお姉ちゃんを誘いに来たのよ」


 ジェン?
 デイビス兄妹の間では、わたしはジェンになってるの?
 これも前回の、来年の秋より時期が早い。
 もしかして、何かが狂い始めているの?


「クララ、今日はふたりだけで行こうか。
 ジェンお姉ちゃんはお友達と一緒だし」

 この場に、特にモニカとは一緒に居たくないのだろう、サイモンがクララを抱き直して、帰ろうとした。
 そうだった、一昨日の11月20日にはサイモンの誕生日があって……
 祖父には伝えて……いなかった?
 週末の24日にはお祝いをしようと、祖父と話していたはずなのに、贈り物もまだ買っていない。
 


「あ、あの、夜また、電話します。
 お誕生日おめでとうございま……」




 せっかく誘いに来てくれたのに、申しわけないけれど。
 このままモニカと同席はまず過ぎる。
 それが分かっていて素直に帰ってくれそうなサイモンに、おめでとうと言いかけて。
 
 そこにまた。

 背後から新たな声がかけられて。


「ジェラルディン・キャンベル?
 ねぇ、ディナ!」



 ディナ?
 ディナ!

 わたしをそう呼ぶのは、ひとりだけ……

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