【完結】やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかったわたしは今度こそ間違えない

Mimi

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第2章 いつか、あなたに会う日まで

39(モニカ視点)

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 当主夫人の部屋はノックスヒルで一番日当たりも風通しもいい部屋。
 だけど、夜はひとり。
 わたし以外は廊下の角を曲がった並びの4部屋を使っていた。


 広い部屋の立派なベッド。
 膝を抱えて丸くなって。
 わたしはひとりの夜を、そこで過ごした。


 雷が鳴り、風が吹き荒れる嵐の夜も、ひとりだった。
 丘の上に一軒だけ建つ邸は、嵐が来れば最悪。
 遮るものが何もなく、雨風が直撃して、邸を軋ませる。
 生まれ育ったノックスヒルだけど、13年住んでいても、怖いものは怖かった。
 幼い頃から嵐の夜は、お母様に抱き締めて貰って眠ったのよ。

 嵐が来た翌日、起こしに来てくれたエマに貴女達の様子を尋ねた。


 2つ年下の11のジェリーと、7つ年下の6歳のリアン。
 リアンはさすがに雷に驚いて、叔母様の部屋で一晩過ごしたそうだけれど、ジェリーは平気で眠っていた、と聞いて。

 2つ年上のわたしが怖いと言って、叔母様の部屋へ逃げ込まなくて正解だった、と思った。


 その他にも叔母様は、物事をどんどん変えていかれたわね。
 お祖父様より優しかったお医者のマクレガーのおじいちゃん先生が来なくなった。
 貰っていた沢山の飲み薬も無くなって、『お日様に当たらなくっちゃ、それが一番よ』と言って、外に連れ出されることが増えた。

 叔母様と貴女達とエマ、それに新しく入ってきた4つ年上のモンドが時々加わって、領内の森を散策したり、湖で釣りをしたりしたの覚えてる?

 森で兎を見掛けて、可愛いねって貴女に言ったら、兎って美味しいよね、なんて言ったでしょ。
 兎を食べるなんて信じられなくて、つい泣いてしまったら、叔母様が食べるのを止しましょう、と仰るから。
 貴女が好きだったのに、泣かなければ良かった、とずっと後悔してた。
 ……それで貴女に嫌われて『あんな子追い出して』と叔母様にお願いされるのが怖かったの。


 それ以降は嫌なものを言うより、好きなものだけを大袈裟に言おうと決めたの。
『鴨が好き』って言ったら、叔母様も叔父様も嬉しそうな顔をなさったから、それが正解だと分かった。


 それから外国語の先生が来ることになって。
 お試しだからと、わたしと貴女がふたりで授業を受けたけれど、モリッツ先生はこの国の言葉を一言も話してくださらないので、ふたりで顔を見合わせて、混乱するだけだったわね。
 本当に苦痛な授業を2回受けさせられて、叔母様が『続けてみない?』と聞くので、お断りしたの。
 貴女には聞いてくれなかったんでしょ?
 嫌々続けさせられていて、可哀想に思ってたのよ。

『他には何か習いたいものはない?』と聞かれたので、特に無かったけれど、叔母様が焼くお菓子は美味しかったから、それを教えて貰うことにしたの。
 叔母様がとても喜んでくださったので、帝国語のことではがっかりさせたけれど、これは正解だった。


 帝国語を習い始めて半年が過ぎた頃、辛そうだった貴女がいきなり片言で話せるようになりだしたわね。
 流暢にではなかったけれど、とうとう先生と意思の疎通が出来るようになったの、と嬉しそうに言っていたのを、今でも覚えてる。
 その時初めて、わたしは失敗したのかも、と思った……
 わたしも同じ様に、諦めないで半年続けていたら? 
 話せるようになった?



 同じ頃叔父様から中等学校卒業後の進路として、王都の高等学院の話を聞いたの。
 昔とは違って淑女科や騎士科は廃止されて、普通科しかないこと。
 入学試験を受けなくてはいけないことや、学生寮に入ること。
 王都に住んでる自宅通学組は、中等部からの内部進学だけど成績は大したことないから、恐れなくていいこと。
 地方から来ている寮生は、地元の秀才が来ているから、切磋琢磨して成績があがること。
 女性だからと言って、男子生徒に遠慮などしなくていいこと。

 叔父様は素晴らしいことのように仰ったけれど、わたしには無理だと思った。
 だから、隣の領地のマナースクールに通いたいと伝えたの。
 クレイトンでお家に余裕がある女の子は、皆そこへ通うから。 
 遠慮は要らない、と言われたけれど、遠慮などしていない。
 ここに居たい、と言い続けたの。


 毎週土曜の帝国語のレッスンが同じ邸内で行われているのが苦痛だった。
 10歳を過ぎたら、リアンも参加していて、習得のスピードは貴女より早いらしいし。
 それから逃げたくて第1土曜は孤児院、第3土曜は病院の慰問。
 第2第4は刺繍のレッスンを入れて、なるべく邸には居ないようにしていたの。



 ムーアの親戚が時々来たり、反対に招待されることもあったわね。
 皆さん親切で最初は楽しいのだけれど、宴も半ばを過ぎれば、大人達は商売の話を始める。
 そしてその中に、わたしと同じ年頃の子供達も混ざりだして意見を言ったりする。
 ムーアの子供達が優秀過ぎて怖かった。


 わたしはそれに参加出来ないの。
 入るな、と言われたことはないけれど、理解出来ないから。
 ぼろを出さずに済むように、余計なことは言わないで、微笑んでみせた。
 小さい子供達の面倒を見る、女らしくて優しい子だと思って貰えるなら、それでいい。
 それだけでいいから……ムーアじゃなくても、ここに居ても良いですか、って皆さんの前で言いたかった。



 皆さんからいただくプレゼントもそうだった。
 わたしには、素敵なドレスやアクセサリー、最新の恋愛小説。
 ジェリーには、訳の分からない分厚い本や望遠鏡。




 邸に設置された電話。
 叔父様から使用方法を説明された。
 叔母様が時間に気を付けて、ってわたしにも注意したけれど。
 わたしは電話を使ったことはなかったの。


 貴女には王都からお祖父様や従兄弟達から電話が来るし、掛けていたし。
 だけど、わたしには誰も掛けてこない。
 わたしには掛ける相手も居ない。 


 ずっと一緒に居たのに、わたしと貴女の世界は離れてしまった。

 貴女が欲しいと願うものを、わたしも欲しい、と今度こそ努力すれば。
 わたし達はまた近付ける?


 段々意味もないのに笑うのに疲れてきて、ここはわたしの家だったのに、どうしてこんなに怯えなければいけないの。
 ずっと愛想を振りまかないといけないの、理不尽じゃないの、って。


 そんな鬱憤が貯まると、外で吐き出した。
 だけど後から聞かれても『そんなこと、言ってません』って逃げられるように言葉や相手は選んでいたつもりだった。


 そんな大事になると思わなかったの。
 ちょっと可哀想に、って存在を認識して欲しかっただけ。

 その結果リアンに怪我をさせるなんて。
 叔父様にも叔母様にも、クリフォード達からも見棄てられて、ここでひとりぼっちになるなんて。


 皆に……今まで聞かせた話は違うんです、と言えば変わるの?

 誰に、どこまで回ったのか、分からない。


 もうわたしには、何が正解なのか分からない。

 分かっているのは。

 ムーアの子供じゃなくて、ごめんなさい。


 
 それだけは、確か……
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