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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 先月と同じ時間にクレイトンに到着した。
 今回違うのは、車内で朝食も食べたし、3時間程仮眠が取れた。
 さぁ、オルに会いに行くぞ!と気合いを入れる。


 だけど夜にはモニカとの対決も待っていて。
 どんなに上手く話を持っていても、モニカは泣き叫ぶだろう。
 わたしが彼女にどんなきっかけで対決するのか、知っているのは母だけで。
 口止めしたのはわたしだけど、父がどう言うか分からないし、リアンやクリフォードも驚かせるだろうと思う。
 だけどここは心を鬼にして(モニカからしたら、わたしは自分に対して前から鬼になっていた、と言いたいだろうけれど)

 モニカに伝えるのだ。
 いい加減にして、あの伯爵夫人が使うべき部屋から出ていけ、と。



 モンドに荷馬車で孤児院まで送って貰う。
 先ず、ノックスヒルではなく孤児院に行くことは、母から了解を得ている。


「モニカお嬢様がそのままお帰りになるそうです」


 わたしと入れ違いに、孤児院から帰るということ?
 どれ程わたしが嫌なんだ。
 面白い……今夜も部屋に閉じ籠るつもり?
 籠ったって追い出しにかかるわよ?


「お嬢様にご報告がありまして。
 ……あの、あのですね、12月にエマと結婚をします……
 やっと決まりました」

 エマと! モンドが結婚!
 彼がずっとエマのことを好きなのは知っていたが、そうなんだ、気持ちは通じていたのね。
 いつからお付き合いしていたのかは知らないけれど、喜ばしくて、積年のモンドの奮闘を思い返していたら、モンドが別の解釈をする。


「お嬢様も、俺の方がエマより年下だから、頼りないと賛成出来ないですか?」


 何を言う、わたしはこれから6歳年下の少年を手懐けようと、がんばる女だ。
 モンドとエマは3つ位違うだけだ。
 全然気にならないし、オルと言い、フィリップスさんと言い、いい男は年上好きが多いのよ、だからモンドもいい男なんだね、と言いたい程なのに。


「全然そんなこと思ってない!
 すごく嬉しくて色々思い出しちゃって、直ぐに言葉に出来なくて、ごめんなさい!
 本当におめでとうございます!
 エマのように素敵な女性を捕まえて……モンドはさすがね?」


 モンドはそれを聞くと、大きな息を吐いて笑顔になった。
 わたしも気付く。
 モニカがモンドに匂わせを行わなかったはずはない。
 だけどそれが彼に通じなかったのは、エマが居たからなのね。
 うーん、年上の女性好き、凄い。
 ああいうあざとさには靡かないんだね。




 大変気分が良いまま、孤児院に到着した。
 入口にはモニカと腕を絡ませたマーサが立っていて、ふたり揃ってわたしを睨んでいた。


「お久し振りね!モニカとマーサ!
 相変わらずベタベタと仲がいいわね?」

 ご機嫌なわたしが挑発するように言っても、モニカは何も言わないが。
 マーサの方は言い返してくる。


「何よ、あんたなんか……あたしが従妹なら良かったのに、って。
 いつもモニカ様は言ってるの!」

「そうなの?
 いつもってことは、月に1度の慰問の日かな?
 それ以外の日にも会ってるの? 何回言われたの?
 でも、現状では従妹にはなれないから、モニカの言うことは適当に聞き流してね?」


 モニカが女伯爵になってから、マーサを引き取る話は進めてくれたら良いんじゃないかな。
 それか、今から荷馬車に同乗して、モニカとふたりで両親に直談判する?
 だけど、多分モニカは本気でそんなこと思っていないから、丘の上の邸には貴女を入れないと思うよ?
 ……とまでは、さすがに言えない。


 モニカは静かにマーサの腕を外して『帰るわ』と、彼女に言った。
 でも、それだけだ。
 もうそれ以上、マーサに声をかけること無く、荷馬車に乗り込んだ。
 唇をきつく噛んだマーサが内に駆けこんだが、その後ろ姿さえモニカは一瞥もしなかった。


 さようなら、モニカ。
 次は伯爵夫人のお部屋で会いましょう。


 ◇◇◇


 内では丁度、昼食が終わって、幼い子供達はお昼寝、少し大きな子供達は片付けや掃除をしていた。
 やることがあるから、マーサ以外の子供達はお見送りに出てなかったのね。


「おー、ジェリー!
 車まだ買わねーの?」

 ベンが早速来てくれた。


「来年だって言ったよね?
 毎月、それを言ったら、ぶっ飛ばす」


 わたしが彼から先月に言われた言葉で言い返すと、ベンがゲラゲラ笑ってくれる。
 そして、わたしが尋ねる前に教えてくれた。


「ジェリーさぁ、オルに何かしたの?
 あの日からあいつの様子変わってさ」

「な、何も無かったよ!」

 首筋に噛みつかれたのを誰かに見られた?
 でも、わたしが噛みついたのなら犯罪だけれど、わたしが噛みつかれただけで……


「顔なんか変わってないのにさぁ、鬱陶しい前髪あげてさ、姿勢良くなってさぁ、そしたらいきなり女共が騒ぐようになってさ、バカじゃねぇ?」

「……あの子、元は良いから」

 焦りで口元がひきつる。
 女共が騒ぐ? 駄目だ駄目だ、わたしのオルだぞ。
 わたしの呪いが発動してしまうぞ。
 慌てて周りを見渡した。
 わたしのオルはどこ?


「あいつ、もうここを出ていったよ。
 あれから急に魔法判定受けてさ、ものすごく魔力がある、って、そのまま。
 魔法学院に最年少で入学だって」


 茫然自失とはこのことだ。
 確かに帰る前に父に、孤児院に居るオルシアナスくんの魔法判定を申し込んでください、とは頼んで帰った。
 けれど、普通は申し込んでも、3ヶ月から半年は待たされるのだ。
 頼んでその月中に判定受けて、そのまま入学!

 あり得ない、あり得ない。
 やっと会えたのに、あの日だけ?


 のほほんとしているだけ、と思っていた父の意外な実力を、わたしはまだ知らなかった。


「それとさぁ、クララの兄ちゃん来てるぞ。
 あいつ、ジェリーの男かよ?」
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