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第2章 いつか、あなたに会う日まで
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もし、あの時。
モンドが車の運転手で教会に同行していたら。
リアンはあんな目に遭わなかったと思う。
モンドは身体が大きくて、周囲を威圧出来た。
そう考えて、改めて思い出した。
2年程前からリアンの学校の行き帰りにモンドが付いていること。
領主夫妻に手を出そうとしたあり得ない愚か者達。
わたしは女だから見過ごされていたけれど、幼いリアンを舐めて、通学途中のあの子に汚い言葉を投げつけたりしていたのかも知れない。
「モンド、いつもありがとう。
これからもリアンを、よろしくお願いしますね」
モンドは何も口に出さず、帽子のヘリを少しあげて笑ってくれた。
前回のわたしは本当に何も見えていなかった。
今なら分かる。
内に居たら気付かない丘の上の邸の歪み。
これからは少しでも真っ直ぐになるように……建て直してみせる。
邸の入口に到着して、わたしはモンドから手荷物を受け取った。
たった1泊の里帰り。
人に持って貰う程の大きさでも重さでもない。
入口扉の前にはクリフォードとメイド長のカルディナが待っていてくれた。
内心1週間で帰宅したわたしに戸惑っているだろうに、ふたりとも表情に出さないのはさすがだ。
ふたりと王都の様子等、少しだけ話をしていたら、両親が現れた。
田舎の伯爵夫妻は腰が軽くて、娘の帰宅を玄関先まで迎え出てくれる。
このような重々しさのないところが、モニカの目にはどう映っていたのだろう。
「ジェリー! よく帰ってきた!」
何度でも言う、この家を出てたった1週間だ。
だが父は満面の笑顔でわたしを熱烈歓迎してくれる。
さて。
限られた滞在時間を無駄には出来ない。
当たり前のことだけれど、朝早くに王都を出ても午後のお茶の時間に到着となるのが精一杯だ。
寮からでは始発になど乗れない。
また、帰りも寮で夕食を取るなら、クレイトンを午前中には出なくてはならず。
わたしが母でも、不経済な真似をする娘を叱りたくなる。
わたしは両親からお茶に誘われたがお断りして、モニカを孤児院まで迎えに行くことにした。
「丁度、リアンの授業も終わるからレディモリッツもお誘いしようと思ったのよ。
貴女の好きなオレンジタルトも焼いたの。
どうして急に孤児院なんて……」
「領内のことをわたしは何も知らないので、先ずは年齢が近いモニカ目線で、と思ったのです」
高等学院に入学して、わたしは同じ立場の他の方達よりも自領のことを知らないのが恥ずかしくなりました。
今更ですが、これから学んでいきたいのです。
……これを、これからの毎月里帰りの理由にした。
交通費の迷惑はかけない。
そのためにシーズンズで働く。
勿論、学業は疎かにしない。
祖父が父に伝えてくれた理由を、改めて自分の口から両親に告げると、父は嬉しそうな顔をして、母は微妙な顔をしていた。
母からすると、わたしは将来ムーアで働くと決まっているのに、領内のことをそこまでして知る必要がある?なんだろう。
孤児院へモニカを迎えに行くモンドに声をかけて、荷馬車から二頭立て馬車に変更して乗せて貰った。
「お嬢様が帰っていらっしゃるのを、モニカお嬢様も楽しみにしておられたから、反対にお迎えに行かれたらお喜びなさると思いますよ」
馬車に乗り込むわたしに、モンドが手を貸してくれながら言う。
モニカがわたしの帰省を喜ぶなんて本心なわけないのだが、わたしは『嬉しい』とにっこり笑った。
モニカは慰問の時はいつも荷馬車で送迎して貰い、慎ましやかな印象を皆に与えているけれど。
普段は荷馬車には乗ったりしない。
モニカがいつも乗る……紋章入りの二頭立てでお迎えに行ってあげよう。
貴女の、わたしこそが伯爵家の後継である、という矜持を尊重して、ね。
聖女信者はモニカが慰問に通っていた孤児院出身者が多かった。
3年後に爆発した彼等が育った環境は目にしておきたかった。
普段の聖女様を、熱心な信者となる子供達に教えて差し上げましょう。
モンドが車の運転手で教会に同行していたら。
リアンはあんな目に遭わなかったと思う。
モンドは身体が大きくて、周囲を威圧出来た。
そう考えて、改めて思い出した。
2年程前からリアンの学校の行き帰りにモンドが付いていること。
領主夫妻に手を出そうとしたあり得ない愚か者達。
わたしは女だから見過ごされていたけれど、幼いリアンを舐めて、通学途中のあの子に汚い言葉を投げつけたりしていたのかも知れない。
「モンド、いつもありがとう。
これからもリアンを、よろしくお願いしますね」
モンドは何も口に出さず、帽子のヘリを少しあげて笑ってくれた。
前回のわたしは本当に何も見えていなかった。
今なら分かる。
内に居たら気付かない丘の上の邸の歪み。
これからは少しでも真っ直ぐになるように……建て直してみせる。
邸の入口に到着して、わたしはモンドから手荷物を受け取った。
たった1泊の里帰り。
人に持って貰う程の大きさでも重さでもない。
入口扉の前にはクリフォードとメイド長のカルディナが待っていてくれた。
内心1週間で帰宅したわたしに戸惑っているだろうに、ふたりとも表情に出さないのはさすがだ。
ふたりと王都の様子等、少しだけ話をしていたら、両親が現れた。
田舎の伯爵夫妻は腰が軽くて、娘の帰宅を玄関先まで迎え出てくれる。
このような重々しさのないところが、モニカの目にはどう映っていたのだろう。
「ジェリー! よく帰ってきた!」
何度でも言う、この家を出てたった1週間だ。
だが父は満面の笑顔でわたしを熱烈歓迎してくれる。
さて。
限られた滞在時間を無駄には出来ない。
当たり前のことだけれど、朝早くに王都を出ても午後のお茶の時間に到着となるのが精一杯だ。
寮からでは始発になど乗れない。
また、帰りも寮で夕食を取るなら、クレイトンを午前中には出なくてはならず。
わたしが母でも、不経済な真似をする娘を叱りたくなる。
わたしは両親からお茶に誘われたがお断りして、モニカを孤児院まで迎えに行くことにした。
「丁度、リアンの授業も終わるからレディモリッツもお誘いしようと思ったのよ。
貴女の好きなオレンジタルトも焼いたの。
どうして急に孤児院なんて……」
「領内のことをわたしは何も知らないので、先ずは年齢が近いモニカ目線で、と思ったのです」
高等学院に入学して、わたしは同じ立場の他の方達よりも自領のことを知らないのが恥ずかしくなりました。
今更ですが、これから学んでいきたいのです。
……これを、これからの毎月里帰りの理由にした。
交通費の迷惑はかけない。
そのためにシーズンズで働く。
勿論、学業は疎かにしない。
祖父が父に伝えてくれた理由を、改めて自分の口から両親に告げると、父は嬉しそうな顔をして、母は微妙な顔をしていた。
母からすると、わたしは将来ムーアで働くと決まっているのに、領内のことをそこまでして知る必要がある?なんだろう。
孤児院へモニカを迎えに行くモンドに声をかけて、荷馬車から二頭立て馬車に変更して乗せて貰った。
「お嬢様が帰っていらっしゃるのを、モニカお嬢様も楽しみにしておられたから、反対にお迎えに行かれたらお喜びなさると思いますよ」
馬車に乗り込むわたしに、モンドが手を貸してくれながら言う。
モニカがわたしの帰省を喜ぶなんて本心なわけないのだが、わたしは『嬉しい』とにっこり笑った。
モニカは慰問の時はいつも荷馬車で送迎して貰い、慎ましやかな印象を皆に与えているけれど。
普段は荷馬車には乗ったりしない。
モニカがいつも乗る……紋章入りの二頭立てでお迎えに行ってあげよう。
貴女の、わたしこそが伯爵家の後継である、という矜持を尊重して、ね。
聖女信者はモニカが慰問に通っていた孤児院出身者が多かった。
3年後に爆発した彼等が育った環境は目にしておきたかった。
普段の聖女様を、熱心な信者となる子供達に教えて差し上げましょう。
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