48 / 112
第1章 今日、あなたにさようならを言う
48
しおりを挟む
これこそがオルの上手なところなんだ、と言う人は居るだろう。
ジェラルディン・キャンベルは厄介な性格だ。
自分が納得しなければ動かない。
自分で頭も口も回る、と思ってる小賢しい小娘。
ちょっと自分の顔がいいから。
その顔にわたしが弱いから。
それに加えて、大事なキーワードをさりげなく。
会話のなかに混ぜて聞かせて。
わたしが『それ』に気が付くように誘導した。
わたしを思い通りに出来るように。
オルシアナス・ヴィオンは、まんまとわたしの方から時戻しの魔法を掛けて、と頼ませることを成功した、と。
「どうしたの?
これが貴方の本当の目的、だったんでしょう?
言えばいいの、今なら簡単にわたしは頷くから。
『もし過去の時間をやり直したいなら、1度だけになるけれど、叶えてあげる』って」
オルが再び、わたしを睨んでいる。
彼はわたしの涙を拭ってくれたけれど、今は離れて。
それ以上触れては来なかった。
こんなはずじゃなかった。
こんな、まるで不倶戴天の敵同士のように睨み合って、対立しているふたり。
ここは『ありがとう。がんばってね』とさっさとわたしを3年前に送り込めばいい。
得意の耳当たりの良い言葉と、最後に甘いキスのひとつでも贈れば。
それから貴方は時送りの魔法で10年後に戻り。
モニカの毒を飲まなかったわたしを抱き締めて。
ただいま、と言えばいいの。
「男のくせに泣き虫ね。
泣き黒子のせい、にしないでね」
「……泣いてない」
「早くして。
ぐずぐずしてたら、10年後のわたしが死んじゃう」
「……やる気なしの怖がりなくせに無理するな」
「いいえ?
今は楽しみなくらい。
モニカとシドニーを、わたしの手でぶっ潰せる機会をくれてありがとう!と思ってるくらいだから、早くして」
わたしは怖い顔をしていたのを止めて、笑顔を見せてあげたのに、反対にオルはますますわたしから離れる。
無詠唱で3年前に。
これは逃げる気だ、と思った。
咄嗟に足が動いて、手が伸びた、彼の方へ。
自分でもどうしてそんなに素早く動けたのか分からない。
一気に近付いたわたしを巻き込むことを恐れたのか、オルが静止して。
わたしがオルのバスローブの端を掴まえることに成功した、その時だった。
またもや、わたしの部屋のドアが強く叩かれた。
あのジャガイモが、性懲りもなくまた来たのかと思った。
オルもそう思ったのか、今度こそ手を出しそうな勢いで彼がドアを開けたら、そこに居たのは息も絶え絶えなフィリップスさんだった。
「あ……あ……あぁー、よかった……ヴィオン、まだ居た……」
まだ居るんだ、と怒られるのではなく。
どうして、居てよかった?
余程急いで来たのか、11月だと言うのに、フィリップスさんは汗を流して。
ネクタイは捩れて、ハットもステッキも無し。
紙袋ひとつだけを手にしている。
オルが差し出した冷たい水を一気に飲み干したフィリップスさんはわたしに言った。
「クレイトンへの17:30発最終便の席を取りました。
90分後に迎えのキャリッジも予約済みです。
大学への休みの届けは、明日早々にすれば良いので、貴女は取り敢えず、2、3日分の荷物を作ってください」
これから最終便でクレイトンへ帰る?
母には夜に電話を入れたらいい、と言っていたんじゃ……
「リアン……フロリアン君が意識不明だ、とさっき電話が来て……。
至急、ノックスヒルに戻り、ご両親を支えてあげてください。
ヴィオン、着替えに適当に僕の服を持ってきた。
下着と靴下だけは新品だ。
だが靴だけはサイズが分からないから、紳士用のルームシューズを入れている」
リアンが意識不明?
立ち竦むわたしを支えようとしたオルに、フィリップスさんが紙袋を押し付けた。
ちゃんと状況理解が出来ないまま、とにかくフィリップスさんの言うことに従えばいいのだ、と思い始めたわたしの肩を抱いたオルが。
「まさか今日……」
呆然として、そう呟いたのを聞いた。
ジェラルディン・キャンベルは厄介な性格だ。
自分が納得しなければ動かない。
自分で頭も口も回る、と思ってる小賢しい小娘。
ちょっと自分の顔がいいから。
その顔にわたしが弱いから。
それに加えて、大事なキーワードをさりげなく。
会話のなかに混ぜて聞かせて。
わたしが『それ』に気が付くように誘導した。
わたしを思い通りに出来るように。
オルシアナス・ヴィオンは、まんまとわたしの方から時戻しの魔法を掛けて、と頼ませることを成功した、と。
「どうしたの?
これが貴方の本当の目的、だったんでしょう?
言えばいいの、今なら簡単にわたしは頷くから。
『もし過去の時間をやり直したいなら、1度だけになるけれど、叶えてあげる』って」
オルが再び、わたしを睨んでいる。
彼はわたしの涙を拭ってくれたけれど、今は離れて。
それ以上触れては来なかった。
こんなはずじゃなかった。
こんな、まるで不倶戴天の敵同士のように睨み合って、対立しているふたり。
ここは『ありがとう。がんばってね』とさっさとわたしを3年前に送り込めばいい。
得意の耳当たりの良い言葉と、最後に甘いキスのひとつでも贈れば。
それから貴方は時送りの魔法で10年後に戻り。
モニカの毒を飲まなかったわたしを抱き締めて。
ただいま、と言えばいいの。
「男のくせに泣き虫ね。
泣き黒子のせい、にしないでね」
「……泣いてない」
「早くして。
ぐずぐずしてたら、10年後のわたしが死んじゃう」
「……やる気なしの怖がりなくせに無理するな」
「いいえ?
今は楽しみなくらい。
モニカとシドニーを、わたしの手でぶっ潰せる機会をくれてありがとう!と思ってるくらいだから、早くして」
わたしは怖い顔をしていたのを止めて、笑顔を見せてあげたのに、反対にオルはますますわたしから離れる。
無詠唱で3年前に。
これは逃げる気だ、と思った。
咄嗟に足が動いて、手が伸びた、彼の方へ。
自分でもどうしてそんなに素早く動けたのか分からない。
一気に近付いたわたしを巻き込むことを恐れたのか、オルが静止して。
わたしがオルのバスローブの端を掴まえることに成功した、その時だった。
またもや、わたしの部屋のドアが強く叩かれた。
あのジャガイモが、性懲りもなくまた来たのかと思った。
オルもそう思ったのか、今度こそ手を出しそうな勢いで彼がドアを開けたら、そこに居たのは息も絶え絶えなフィリップスさんだった。
「あ……あ……あぁー、よかった……ヴィオン、まだ居た……」
まだ居るんだ、と怒られるのではなく。
どうして、居てよかった?
余程急いで来たのか、11月だと言うのに、フィリップスさんは汗を流して。
ネクタイは捩れて、ハットもステッキも無し。
紙袋ひとつだけを手にしている。
オルが差し出した冷たい水を一気に飲み干したフィリップスさんはわたしに言った。
「クレイトンへの17:30発最終便の席を取りました。
90分後に迎えのキャリッジも予約済みです。
大学への休みの届けは、明日早々にすれば良いので、貴女は取り敢えず、2、3日分の荷物を作ってください」
これから最終便でクレイトンへ帰る?
母には夜に電話を入れたらいい、と言っていたんじゃ……
「リアン……フロリアン君が意識不明だ、とさっき電話が来て……。
至急、ノックスヒルに戻り、ご両親を支えてあげてください。
ヴィオン、着替えに適当に僕の服を持ってきた。
下着と靴下だけは新品だ。
だが靴だけはサイズが分からないから、紳士用のルームシューズを入れている」
リアンが意識不明?
立ち竦むわたしを支えようとしたオルに、フィリップスさんが紙袋を押し付けた。
ちゃんと状況理解が出来ないまま、とにかくフィリップスさんの言うことに従えばいいのだ、と思い始めたわたしの肩を抱いたオルが。
「まさか今日……」
呆然として、そう呟いたのを聞いた。
40
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる