46 / 112
第1章 今日、あなたにさようならを言う
46
しおりを挟む
眠るわたしに、オルは魔力を流し続けた。
眠っていても、生きている。
それを維持するために。
だが、1ヶ月程前から、いくら魔力を流しても、上手く体内を巡っていないような気がした。
彼の主は、特別に王城の御典医にわたしを診察させた。
『そろそろか、と……』
言葉少なく、御典医はそう言った。
とうとうその時が来たのだと、周囲はオルを慰めた。
彼も同じ様に、その時が来た、と思った。
だが、違う意味で。
とうとうその時が来たのだと、思った。
今こそ、少年の頃からコツコツと調べ、何度も師匠と話し合い、主に話を通し、頭の中でシュミレーションしてきたあの魔法、時戻しの魔法を使う、その時が来た!と。
彼が時戻しで戻っている間は、師匠が責任を持って、代わりにわたしに魔力を流して生き永らえさせてくださっている、と言う。
自分が生きるか死ぬかの瀬戸際の話を聞かされていても実感がない。
オルの主や師匠が気遣ってくださっている自分の話なのに、御典医なんて出てくると、わたしではない誰かの物語を聞かされているような感覚になっていた。
それで、オルの話の腰を折るようで申し訳なかったけれど、わたしは口を挟んだ。
「どうして、13年前に?
勝手な話だけれど、今から8年前にモニカのご両親は亡くなったの。
貴方から見たら、18年前ね。
あの事故死を止めてくれたら、わたしとモニカは疎遠なままだった。
わたし達の関わりがなければ、毒は飲まずに済んでいたでしょう?
やはり18年は長過ぎて、無理なの?」
「18年戻る等、文献を紐解いても誰もなし得ていない。
報告がないと言うことは、もし、挑んだ先人がいたのだとしても、元には戻ってきていないんだ。
記されている最長記録は7年前だから、俺が戻った10年前さえ、師匠には無理じゃないか、と心配されていた。
とにかく、魔法は盲滅法にかけるものではなく、安全性の確証を持って行え、と俺達は魔法学院のガキの頃から叩き込まれる。
必ず文献で、そこに記された先人達の、成功と挫折の経験と結果の報告を読み込め、と教えられる」
「元に戻れる、が重要なのね?」
「その通り。
俺はずっと、学院の在学中から『時戻し』『時送り』の術について研究していたから、ギリギリ今の魔力量なら10年なら大丈夫だと思った。
だけど、実際は魔力切れでパピーになってしまった」
そうか、『戻し』があるから、『送り』もある。
それがセットで、彼は元居た23歳の場所へ戻れる。
「時戻しの魔法は決して万能じゃないのに、そう思わせる。
それ故に、時戻しを行うのは色々と取り決めがされていて、行う者は必ず魔法士の誓いを立てることが決められているんだ」
……もしかして、それはフィリップスさんが言っていた『破れば命がなくなる』という誓い?
「確かに、君の言うように、18年前に無事に戻れたとして。
前伯爵ご夫妻をあの列車に乗せないように、父上から言って貰うのは可能だ。
だが、代わりに彼等の乗った馬車は帰国途中に事故に遭うだろうし、また船旅にしてもその航路で何かは起こる。
君の父上が進言したからルートを変更して両親が亡くなれば、叔父がその死に関わっていた、と完全にモニカは疑う。
最初乗る予定だった列車が、同じ時刻に脱線事故を起こしていたとしても」
「モニカの両親がその日のその時刻に亡くなることは、必ず決まっていた?」
「それは絶対に変わらない。
俺達は時を巻き戻しても、人の生死には触れてはならない。
生死は神の領域で、絶対に手を出してはならないものなんだ」
「……人の生死に関わらない、と魔法士の誓いを立てたのなら、亡くなりかけているわたしを助けるために、時戻しを行うことはいいの?」
その時、この話を始めてから、初めてオルの瞳には輝きが戻ってきた。
「君はまだ死ぬ、と決まっていない。
そろそろ、と言われただけじゃないか!
だから、俺は賭けることにした」
……今度こそ、わたしは無神経だと、オルに嫌われるかもしれない。
だけど、彼の話を聞いて気付いてしまった。
わたしはそう言うことが耳に残るタイプだから。
「……可能だと思われる新記録の10年前に時戻しをして。
わたしの不妊かもという不安を取り除いて。
自分の代わりに3年前に時戻しをさせて……
という不確かなものに賭けることにしたの?」
「ディナ?」
「だって、わたしがあくまでも拒否する可能性の方が高かったでしょ?
貴方が言ったの、わたしは慎重だ、って!
そんな確実性の無いものに、賭けた?
わたしはさっき、何も隠さないで、と頼んだ。
それなのに、全て話してくれないのはどうしてなの?
貴方は何を隠してるの?」
わたしが何を言わんとしているのか。
気が付いたオルが、黙れ、と。
その目が訴えている。
「黙っているなら、わたしが代わりに言い当てましょうか?
貴方は魔法士の誓いを破ってまで!
これから自分の命を懸けて、3年前に戻ろうとしてる、って!」
眠っていても、生きている。
それを維持するために。
だが、1ヶ月程前から、いくら魔力を流しても、上手く体内を巡っていないような気がした。
彼の主は、特別に王城の御典医にわたしを診察させた。
『そろそろか、と……』
言葉少なく、御典医はそう言った。
とうとうその時が来たのだと、周囲はオルを慰めた。
彼も同じ様に、その時が来た、と思った。
だが、違う意味で。
とうとうその時が来たのだと、思った。
今こそ、少年の頃からコツコツと調べ、何度も師匠と話し合い、主に話を通し、頭の中でシュミレーションしてきたあの魔法、時戻しの魔法を使う、その時が来た!と。
彼が時戻しで戻っている間は、師匠が責任を持って、代わりにわたしに魔力を流して生き永らえさせてくださっている、と言う。
自分が生きるか死ぬかの瀬戸際の話を聞かされていても実感がない。
オルの主や師匠が気遣ってくださっている自分の話なのに、御典医なんて出てくると、わたしではない誰かの物語を聞かされているような感覚になっていた。
それで、オルの話の腰を折るようで申し訳なかったけれど、わたしは口を挟んだ。
「どうして、13年前に?
勝手な話だけれど、今から8年前にモニカのご両親は亡くなったの。
貴方から見たら、18年前ね。
あの事故死を止めてくれたら、わたしとモニカは疎遠なままだった。
わたし達の関わりがなければ、毒は飲まずに済んでいたでしょう?
やはり18年は長過ぎて、無理なの?」
「18年戻る等、文献を紐解いても誰もなし得ていない。
報告がないと言うことは、もし、挑んだ先人がいたのだとしても、元には戻ってきていないんだ。
記されている最長記録は7年前だから、俺が戻った10年前さえ、師匠には無理じゃないか、と心配されていた。
とにかく、魔法は盲滅法にかけるものではなく、安全性の確証を持って行え、と俺達は魔法学院のガキの頃から叩き込まれる。
必ず文献で、そこに記された先人達の、成功と挫折の経験と結果の報告を読み込め、と教えられる」
「元に戻れる、が重要なのね?」
「その通り。
俺はずっと、学院の在学中から『時戻し』『時送り』の術について研究していたから、ギリギリ今の魔力量なら10年なら大丈夫だと思った。
だけど、実際は魔力切れでパピーになってしまった」
そうか、『戻し』があるから、『送り』もある。
それがセットで、彼は元居た23歳の場所へ戻れる。
「時戻しの魔法は決して万能じゃないのに、そう思わせる。
それ故に、時戻しを行うのは色々と取り決めがされていて、行う者は必ず魔法士の誓いを立てることが決められているんだ」
……もしかして、それはフィリップスさんが言っていた『破れば命がなくなる』という誓い?
「確かに、君の言うように、18年前に無事に戻れたとして。
前伯爵ご夫妻をあの列車に乗せないように、父上から言って貰うのは可能だ。
だが、代わりに彼等の乗った馬車は帰国途中に事故に遭うだろうし、また船旅にしてもその航路で何かは起こる。
君の父上が進言したからルートを変更して両親が亡くなれば、叔父がその死に関わっていた、と完全にモニカは疑う。
最初乗る予定だった列車が、同じ時刻に脱線事故を起こしていたとしても」
「モニカの両親がその日のその時刻に亡くなることは、必ず決まっていた?」
「それは絶対に変わらない。
俺達は時を巻き戻しても、人の生死には触れてはならない。
生死は神の領域で、絶対に手を出してはならないものなんだ」
「……人の生死に関わらない、と魔法士の誓いを立てたのなら、亡くなりかけているわたしを助けるために、時戻しを行うことはいいの?」
その時、この話を始めてから、初めてオルの瞳には輝きが戻ってきた。
「君はまだ死ぬ、と決まっていない。
そろそろ、と言われただけじゃないか!
だから、俺は賭けることにした」
……今度こそ、わたしは無神経だと、オルに嫌われるかもしれない。
だけど、彼の話を聞いて気付いてしまった。
わたしはそう言うことが耳に残るタイプだから。
「……可能だと思われる新記録の10年前に時戻しをして。
わたしの不妊かもという不安を取り除いて。
自分の代わりに3年前に時戻しをさせて……
という不確かなものに賭けることにしたの?」
「ディナ?」
「だって、わたしがあくまでも拒否する可能性の方が高かったでしょ?
貴方が言ったの、わたしは慎重だ、って!
そんな確実性の無いものに、賭けた?
わたしはさっき、何も隠さないで、と頼んだ。
それなのに、全て話してくれないのはどうしてなの?
貴方は何を隠してるの?」
わたしが何を言わんとしているのか。
気が付いたオルが、黙れ、と。
その目が訴えている。
「黙っているなら、わたしが代わりに言い当てましょうか?
貴方は魔法士の誓いを破ってまで!
これから自分の命を懸けて、3年前に戻ろうとしてる、って!」
12
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
黒の創造召喚師
幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます!
※2021/02/28 続編の連載を開始しました。
■あらすじ■
佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。
そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる