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Chapter4

4-5

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いつかも来た、駅の裏の公園のベンチ。

いつかと同じように二人で腰掛け、いつかと同じように哲平が買ってくれた缶コーヒーを今度はその場で開けてちびちびと飲む。

お互い無言で、暗闇の中に光る街灯を見つめていた。


「……どうしてここに?」

「ここなら人いないし、今後藤を一人にしちゃいけないと思ったから」

「……何でですか?」

「後藤が消えちゃいそうだったから」

「消えないって言ったじゃないですか」


ふふ、と微笑んでそう言う和葉に、哲平も微笑む。


「それでも、消えちゃいそうって思ったものは仕方ないだろ。……一人にしたらどっか行っちまいそうな顔してたんだよ」


和葉は全くそんなつもりはなかったものの、心配してくれているのがひしひしと伝わってきた。


「中西さんはどうして、何も聞かないんですか?」


康平と別れてからずっと思っていたことを聞いた。

すると哲平は


「聞いてほしいの?聞いたら答えてくれるわけ?」


と棘のある言い方をする。


「それは……」

「ほら。聞くだけ無駄。そりゃ知りたいよ。聞けるもんなら聞きたいよ。でも後藤が話してくれなきゃ、意味が無いから」


和葉はそれを聞き、哲平がどれだけ優しいのかを痛感する。

同時に自分がどれだけ浅はかなことを聞いたのかも痛感した。

何も言えなくなってしまった和葉は缶コーヒーの残りを一気に飲み、空き缶を体の横に置く。

どちらも口を開くことはなく、そのまま沈黙が流れた。


「……俺には何ができる?」

「……え?」

「俺にできることって、何?」


唐突に発した言葉に、和葉は驚いて横を向く。すると哲平も和葉の方を向いていて目が合った。


「後藤が言いたくないなら聞かない。
ただそんな風に落ち込んだり無理に笑う後藤は見たくない。だから後藤を救いたいとか、そんな大それたことは俺には言えないけどさ。何か小さなことでもいいから、力になりたいとは思うよ」

「……何で、どうしてそんな……」

「何で、って。そんなの決まってるだろ。好きだから」


これでもかというほどに目を見開いた和葉を見て、哲平はフっと笑う。

街灯のぼんやりとした光が当たったその笑い方がやけに色っぽくて妖艶で。

ゾワリと鳥肌が立つほどに体が震え、耳まで真っ赤に染まる。


「え、え?あ、あの。え?」

「ハハッ。慌てすぎだろ。……何、知らなかった?」


そう悪戯に笑った哲平に、和葉は頰の熱を取るように両手で仰いだ。


「ぜ、全然。知りません、でした……」

「部署内ではかなり有名だったみたいなんだけど。知らなかったの後藤だけじゃないか?」

「そんな……」


ドクン、ドクンと激しく脈打つ心臓に手を当て、深呼吸を繰り返して心を落ち着かせる。


「(こういうのって、返事、しなきゃダメなんだよね)」


和葉にとってはあまり経験の無いことにかなり戸惑う。


「あ、あの。私は……」


しどろもどろに言葉を発しようとする和葉を哲平は笑って制した。


「告白の答えが欲しくて言ったんじゃないから安心して」

「……へ?」

「俺は、後藤のために俺にできることが知りたい。返事はいいからそれを教えて」

「……」


和葉の揺れる目を見れば、どう断ろうかと思って考えていたと容易に想像がついた。


「(簡単に振られてたまるかってーの)」


何かしら力になってやりたい。

自分にできることをして、少しでも助けたい。

自分の前では無理をしないで本当の笑顔でいてほしい。

今哲平が思うことは、それだけだった。

和葉はそんな哲平を見て、思う。


「(私のために、中西さんができる、こと)」


意思の宿った哲平の目はしっかりと和葉を捉えて離さない。

その目に吸い込まれてしまいそうだった。

助けてって、言ってしまいそうになった。

哲平の目に微かに映った自分の姿を見て、そっと口を開いた。


「……待っててください」

「ん?」


この人なら、全てを受け止めてくれるかもしれない。全てを受け入れてくれるかもしれない。

それでも、今はまだ怖くて。勇気が出なくて。踏ん切りがつかなくて。


「いつか、いつか必ず、お話しします。だから待ってて、ください。……って言ったら、ずるいでしょうか。卑怯でしょうか。重いでしょうか」


潤んだ目で見上げた和葉を見て、哲平はついに衝動を抑えきれずに和葉をぎゅっと抱きしめた。

背の高さからは想像できないほど華奢な体に腕を回す。するとビクッと飛び上がるように反応したかと思うとすぐに固まって。

その反応がまた可愛く思えるもんだから、我ながら重症だと笑った。


「本当、その言い方はずるいわー……そんな言い方されたら俺待つしかねぇじゃん」


はぁ、と哲平が和葉の肩口で深く息を吐くと和葉はホッとしたようにそっと両目を閉じるのだった。

数分してから名残惜しい気持ちを無理矢理振り払い、哲平は和葉から体を離した。

和葉の髪の毛からシャンプーの香りがふわりと広がる。

その香りにまた理性が飛びそうになるものの、それをグッと堪えた。


「話してくれるまで待ってるから。今度飲み会ない日でも、食事……誘っていいですか……」


段々語尾に向かって下を向き声が小さくなっていく哲平に和葉はクスクス笑う。


「是非」


今日一番の綺麗な和葉の笑顔に、哲平は思わず赤面して顔を手で抑える。


「え?どうかしました?」

「いや、ちょっ、まっ、見るなっ」

「えー?何ですかー?何で逃げるんですかー?」

「今はダメっ、見るなって」


赤い顔を見られたくなくて片手で和葉を制しながらどうにか逃げる哲平と、そんな哲平の顔をニヤけながら覗き込もうとする和葉。

次第に2人とも笑いがこみ上げてきて、しばらく2人でクスクスと笑い合っていた。
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