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Chapter4
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「お疲れ様でした~っ!」
残暑が汗を滲ませる九月の半ば。
今日は和葉発案の企画がひと段落ついたことを祝っての部署全員での飲み会だった。
今日も哲平はちゃっかり和葉の隣をキープしている。
皆で乾杯し、労いの言葉をかけてくれる先輩社員一人一人に和葉はお礼を言う。
ビールを飲みつつその姿を見ながら哲平は微笑み、由美はそんな哲平をニヤニヤしながら見つめていた。
和葉が由美と哲平の所に戻って来た時にはすっかり由美は出来上がっていた。
「和葉ちゃーん。本当に頑張ったねぇぇぇ!」
労いの言葉とともに抱きついてくる由美を受け止めた和葉は半分呆れながらもやはり嬉しいのか笑っていて。
その笑顔を見て哲平も思わず抱きしめたくなったもののグッと理性を働かせた。
そして飲み会が終わると和葉と哲平はあのバーに行くのが恒例のようになっていた。
二人で並んで歩くのはおろか、まともに二人でゆっくりと話をするのも久し振りなような気がしてお互いに少し緊張していたのか会話はいつにも増して少ない。
それでも気まずいと言うよりはぎこちないという雰囲気で。
側から見ればひたすらもどかしいだけであった。
バーに着くといつものようにソファー席に腰掛け和葉はベリーミックスを、哲平はギムレットを頼んだ。
運ばれてきたグラスを持って小さく乾杯する。
一口飲んでグラスを置き、揃ってソファーに身を沈めた。
「私、大人数での飲み会ってあまり得意ではないんですけど、中西さんとここで一緒にコレ飲みながらお話しするの好きなんですよね」
「っっ!!」
ふと和葉が発した言葉にびっくりして飲んでいたギムレットを吹きそうになり、哲平は慌てておしぼりで口許を抑える。
「ん?どうかしましたか?」
「いやっ、なんでもないっ、何でもない。ちょ、っと咽せただけ」
「?」
哲平にとってどれだけ衝撃的な発言だったかを和葉は全く理解しておらず、ニコニコしながらグラスに口を付ける。
「(ほんっと、自覚が無いから質悪い)」
哲平はギムレットを煽るように飲み干した。
哲平はいつもより多くお酒を飲んでいた。
しかし、いくら飲んでも酔うことができない。理由はわかっている。
今日和葉に気持ちを伝えようと決意してきたは良いものの、実際本人を目の前にするとどうしようもない緊張に襲われてしまいアルコールを入れて適度に酔った状態じゃないと言えない気さえしていた。
それなのにいくら飲んでも頭は冴えていて。
自分でもこんなヘタレるとは思っていなかった哲平は決意を揺るがせながらもう一杯、次はハイボールを注文するのだった。
和葉は哲平の飲むペースがいつもより早いことには気が付いていたものの、何を考えているかは全く見当も付いておらず
「(そんなに飲みたい気分だったのかな?)」
と首を傾げるだけだった。
「そろそろ行きましょうか」
「あぁ……うん。そうだな」
哲平は結局は気持ちを伝えることができないまま会計を済ませて店を出る。
頭は冴えているものの、それなりに飲んだからか顔は赤みを帯びていた。
駅に向かって歩いていると向こうからサラリーマンの集団がやってきて。その中の一番後ろに見知った顔を見つけ、和葉は足を止めた。
「どうした後藤?……あ、山口さん」
哲平の声に康平も顔を上げた。
和葉は康平を見て、少し違和感を感じた。
いつもより覚束ない足取り、同僚だろうか、彼を支える男性もいた。
誰が見てもかなり酔っ払っていた。
康平は和葉を見つけると眉間に皺を寄せ、その後哲平を見つけてその赤みを帯びた顔を見てもう一度和葉を見る。
次の瞬間、
「おい山口!」
康平は同僚の手を解いていきなり和葉に掴みかかってきた。
「なっ!ちょっと山口さん!?」
「山口!お前何してんだっ!!」
「お前っ!!酒飲んだりしてねぇだろうな!?」
すごい剣幕で胸倉を掴まれた和葉は驚いて息が詰まった。
「っ……大丈夫。飲んでませんよ」
哲平と康平の同僚が無理矢理二人を引き剥がす。
道のど真ん中だったからか、かなりの視線を集めた。
和葉は首元を抑え、息を整える。その間も怯えた様子などどこにもなく、ただ前を見据えていた。
「お前がっ、誰といようとどこで何をしようと俺には関係ねぇし正直どうでもいい。本当は顔も見たくねぇ!……でもっ、これだけは守れ。アイツに!アイツに負担をかけることだけはすんじゃねぇっ!」
同僚に羽交い締めにされながらもそう怒鳴る康平に、哲平に肩を抱かれた和葉は微かに目の奥を揺らしながらも
「……わかってる。わかってるから。大丈夫だよ」
再会してから初めて敬語ではなく昔のように言い、しっかりと頷いた。
同僚に無理矢理連れて行かれた康平を見送り、和葉は哲平の方を見て眉を下げた。
「……また見苦しいところを見せてしまってすみません……」
「いや、俺は全然……。むしろ後藤は大丈夫か?」
「……はい。大丈夫です」
そう言うものの和葉の顔からは笑顔が消え、何かを考えるように押し黙ってしまった。
このまま返すわけにも行かないと思い、少し考えてから口を開いた。
「ちょっと歩くか」
「……え?」
「ほら。行くぞ」
さりげなく和葉の手を掴んで足を進めた哲平に、和葉の体も強制的に前に進む。
引かれた手が、熱を帯びた。
残暑が汗を滲ませる九月の半ば。
今日は和葉発案の企画がひと段落ついたことを祝っての部署全員での飲み会だった。
今日も哲平はちゃっかり和葉の隣をキープしている。
皆で乾杯し、労いの言葉をかけてくれる先輩社員一人一人に和葉はお礼を言う。
ビールを飲みつつその姿を見ながら哲平は微笑み、由美はそんな哲平をニヤニヤしながら見つめていた。
和葉が由美と哲平の所に戻って来た時にはすっかり由美は出来上がっていた。
「和葉ちゃーん。本当に頑張ったねぇぇぇ!」
労いの言葉とともに抱きついてくる由美を受け止めた和葉は半分呆れながらもやはり嬉しいのか笑っていて。
その笑顔を見て哲平も思わず抱きしめたくなったもののグッと理性を働かせた。
そして飲み会が終わると和葉と哲平はあのバーに行くのが恒例のようになっていた。
二人で並んで歩くのはおろか、まともに二人でゆっくりと話をするのも久し振りなような気がしてお互いに少し緊張していたのか会話はいつにも増して少ない。
それでも気まずいと言うよりはぎこちないという雰囲気で。
側から見ればひたすらもどかしいだけであった。
バーに着くといつものようにソファー席に腰掛け和葉はベリーミックスを、哲平はギムレットを頼んだ。
運ばれてきたグラスを持って小さく乾杯する。
一口飲んでグラスを置き、揃ってソファーに身を沈めた。
「私、大人数での飲み会ってあまり得意ではないんですけど、中西さんとここで一緒にコレ飲みながらお話しするの好きなんですよね」
「っっ!!」
ふと和葉が発した言葉にびっくりして飲んでいたギムレットを吹きそうになり、哲平は慌てておしぼりで口許を抑える。
「ん?どうかしましたか?」
「いやっ、なんでもないっ、何でもない。ちょ、っと咽せただけ」
「?」
哲平にとってどれだけ衝撃的な発言だったかを和葉は全く理解しておらず、ニコニコしながらグラスに口を付ける。
「(ほんっと、自覚が無いから質悪い)」
哲平はギムレットを煽るように飲み干した。
哲平はいつもより多くお酒を飲んでいた。
しかし、いくら飲んでも酔うことができない。理由はわかっている。
今日和葉に気持ちを伝えようと決意してきたは良いものの、実際本人を目の前にするとどうしようもない緊張に襲われてしまいアルコールを入れて適度に酔った状態じゃないと言えない気さえしていた。
それなのにいくら飲んでも頭は冴えていて。
自分でもこんなヘタレるとは思っていなかった哲平は決意を揺るがせながらもう一杯、次はハイボールを注文するのだった。
和葉は哲平の飲むペースがいつもより早いことには気が付いていたものの、何を考えているかは全く見当も付いておらず
「(そんなに飲みたい気分だったのかな?)」
と首を傾げるだけだった。
「そろそろ行きましょうか」
「あぁ……うん。そうだな」
哲平は結局は気持ちを伝えることができないまま会計を済ませて店を出る。
頭は冴えているものの、それなりに飲んだからか顔は赤みを帯びていた。
駅に向かって歩いていると向こうからサラリーマンの集団がやってきて。その中の一番後ろに見知った顔を見つけ、和葉は足を止めた。
「どうした後藤?……あ、山口さん」
哲平の声に康平も顔を上げた。
和葉は康平を見て、少し違和感を感じた。
いつもより覚束ない足取り、同僚だろうか、彼を支える男性もいた。
誰が見てもかなり酔っ払っていた。
康平は和葉を見つけると眉間に皺を寄せ、その後哲平を見つけてその赤みを帯びた顔を見てもう一度和葉を見る。
次の瞬間、
「おい山口!」
康平は同僚の手を解いていきなり和葉に掴みかかってきた。
「なっ!ちょっと山口さん!?」
「山口!お前何してんだっ!!」
「お前っ!!酒飲んだりしてねぇだろうな!?」
すごい剣幕で胸倉を掴まれた和葉は驚いて息が詰まった。
「っ……大丈夫。飲んでませんよ」
哲平と康平の同僚が無理矢理二人を引き剥がす。
道のど真ん中だったからか、かなりの視線を集めた。
和葉は首元を抑え、息を整える。その間も怯えた様子などどこにもなく、ただ前を見据えていた。
「お前がっ、誰といようとどこで何をしようと俺には関係ねぇし正直どうでもいい。本当は顔も見たくねぇ!……でもっ、これだけは守れ。アイツに!アイツに負担をかけることだけはすんじゃねぇっ!」
同僚に羽交い締めにされながらもそう怒鳴る康平に、哲平に肩を抱かれた和葉は微かに目の奥を揺らしながらも
「……わかってる。わかってるから。大丈夫だよ」
再会してから初めて敬語ではなく昔のように言い、しっかりと頷いた。
同僚に無理矢理連れて行かれた康平を見送り、和葉は哲平の方を見て眉を下げた。
「……また見苦しいところを見せてしまってすみません……」
「いや、俺は全然……。むしろ後藤は大丈夫か?」
「……はい。大丈夫です」
そう言うものの和葉の顔からは笑顔が消え、何かを考えるように押し黙ってしまった。
このまま返すわけにも行かないと思い、少し考えてから口を開いた。
「ちょっと歩くか」
「……え?」
「ほら。行くぞ」
さりげなく和葉の手を掴んで足を進めた哲平に、和葉の体も強制的に前に進む。
引かれた手が、熱を帯びた。
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