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Chapter2
2-3
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和葉は自分のデスクに座り、只管仕事に打ち込んでいた。
「(まさか、こんな偶然。この間会ったことでさえびっくりしたのに)」
会社で康平とまた遭遇することになるなんて。
溜息をついてからコーヒーを一口飲んで、またパソコンに向き合う。
「(今日は残業しないで帰ろう。ここにいると、なんだか落ち着かない)」
そんな様子を見ていた由美は首を傾げたものの、特に気にすることもなく視線を元に戻した。
数十分後、コーヒーが無くなった和葉はもう一杯入れようと席を立つ。
歩き出そうとした和葉に由美が
「和葉ちゃん、今日コーヒーの量多くない?大丈夫?」
と声をかけて。
「え?そうですか?……そういえばこれ何杯目だっけ……?まぁいいや」
由美への返事もそこそこに自問自答しながらマグカップを持って歩き出した和葉を見て、由美は眉を下げた。
「(どうしたんだろう)」
その時会議室のドアが開いて、由美はそちらに顔を向ける。
康平の後に哲平が出て来て、2人揃ってこちらに目をやった。
男性の目が離れた隙に哲平が由美に和葉はどこに言ったかと口パクで聞く。
するとあっち、と給湯室を指差した由美に頷いて、哲平は康平を送るべくエレベーターに向かった。
和葉が戻って来た時、2人はエレベーターに乗るところで。
音に気が付いた和葉が振り返ると、康平とバッチリ目が合った。
どちらも表情は変えずにただ見つめ合う。
哲平はそんな光景を見ていられなくて、さりげなくエレベーターの【閉】ボタンを静かに連打するのだった。
康平を玄関で見送った哲平は、これからどうするべきか考えながら十階に戻る。
康平の言っていたことがどうしても気になる。でも無理矢理聞くような軽い話ではなさそうだし、それはしたくない。
でも今のままじゃ、一生和葉から話してくれないことくらいわかっている。
知りたければ、結局は聞くしかないのだ。
「(知らなきゃ、救えない)」
よし、と意気込んで再びエレベーターに乗った。
和葉はエレベーターを見送った後、デスクに戻るとコーヒーを飲むことなくトイレに行った。
鏡を見ながら大きく息を吐く。
目をぎゅっと瞑ってゆっくり開いて、口角をクイっと上げてトイレを出た。
会議室のお茶を下げ、資料をまとめてテーブルを拭いていると哲平が入って来た。
「打ち合わせ、お疲れ様でした」
ニコッと笑いながら言って纏めた資料を哲平に手渡す。
「うん。ありがとう」
受け取った哲平はまた和葉が無理に表情を作っていることに気付いて、何を思ったか資料をまたテーブルに置いて両手で和葉の頰を優しく挟んだ。
いきなりのことにうわ、と体を反転させた和葉は、至近距離にある哲平の顔にビックリして言葉を詰まらせた。
哲平の目が、和葉の目を捉えて離さなかった。
「だから、無理に笑うなって」
そう言いながら無意識に下唇を親指で優しく撫でる哲平に、和葉は一瞬固まったかと思うと次の瞬間みるみるうちに顔が赤く染まっていった。
それを見た哲平も自分の行動に気付いてまた驚いて。
「……え!?あ、ごめん!」
バッ!と離れた哲平は後ろを向いて頭を掻き、和葉は顔を真っ赤に染めてふるふると首を横に振った。
「ちょ、っと頭冷やしてくる。本当ごめん。気にしないでっ」
資料を忘れたまま哲平は走って会議室を出て行って。
「(キス、されるかと思った……)」
和葉はへなへなとその場に座り込んだ。
「……本当、ずるいよ」
撫でられた下唇が、やけに熱をもっているように感じた。
「(俺は一体なんてことを……!)」
頰の火照りを取るためトイレで顔を洗う哲平を、偶然居合わせた他の男性社員は怪訝な表情で見つめた。
そんなことも気にならないほどに哲平は動揺していて。
顔から雫が落ちるのも気にせずに鏡に映る自分を見つめて、その後に自分の親指を見つめて。
さっきの和葉の赤い顔を思い出してしまい、また哲平もまたボンッと効果音が鳴ったように真っ赤になった。
ポケットに入れていたハンカチで顔を荒々しく拭く。
そして資料を会議室に忘れたことに気が付いて、溜息を吐きながらトイレを後にした。
そっと会議室に戻ると、既にそこには和葉の姿は無く。
資料も見当たらず、首を傾げながら自分のデスクに戻ると探していた資料が置いてあった。
一番上にポストイットが貼ってあり、
《お忘れ物です。》
と綺麗な文字で書いてあった。
それは紛れも無く和葉の字で、ポストイットを剥がして見つめていると
「……どうぞ」
後ろからコトン、とデスクに置かれたコーヒー。
顔だけ振り向くと和葉が何食わぬ顔でお盆を持っていて。
「あ、りがとう」
お礼を聞いた和葉は、作った笑みではなくクスッと笑って自分のデスクに戻って行った。
思わずニヤける口許を隠すように下を向いて座った哲平とにこにこと戻ってくる和葉を見比べて、由美は嬉しそうに微笑んだ。
「(まさか、こんな偶然。この間会ったことでさえびっくりしたのに)」
会社で康平とまた遭遇することになるなんて。
溜息をついてからコーヒーを一口飲んで、またパソコンに向き合う。
「(今日は残業しないで帰ろう。ここにいると、なんだか落ち着かない)」
そんな様子を見ていた由美は首を傾げたものの、特に気にすることもなく視線を元に戻した。
数十分後、コーヒーが無くなった和葉はもう一杯入れようと席を立つ。
歩き出そうとした和葉に由美が
「和葉ちゃん、今日コーヒーの量多くない?大丈夫?」
と声をかけて。
「え?そうですか?……そういえばこれ何杯目だっけ……?まぁいいや」
由美への返事もそこそこに自問自答しながらマグカップを持って歩き出した和葉を見て、由美は眉を下げた。
「(どうしたんだろう)」
その時会議室のドアが開いて、由美はそちらに顔を向ける。
康平の後に哲平が出て来て、2人揃ってこちらに目をやった。
男性の目が離れた隙に哲平が由美に和葉はどこに言ったかと口パクで聞く。
するとあっち、と給湯室を指差した由美に頷いて、哲平は康平を送るべくエレベーターに向かった。
和葉が戻って来た時、2人はエレベーターに乗るところで。
音に気が付いた和葉が振り返ると、康平とバッチリ目が合った。
どちらも表情は変えずにただ見つめ合う。
哲平はそんな光景を見ていられなくて、さりげなくエレベーターの【閉】ボタンを静かに連打するのだった。
康平を玄関で見送った哲平は、これからどうするべきか考えながら十階に戻る。
康平の言っていたことがどうしても気になる。でも無理矢理聞くような軽い話ではなさそうだし、それはしたくない。
でも今のままじゃ、一生和葉から話してくれないことくらいわかっている。
知りたければ、結局は聞くしかないのだ。
「(知らなきゃ、救えない)」
よし、と意気込んで再びエレベーターに乗った。
和葉はエレベーターを見送った後、デスクに戻るとコーヒーを飲むことなくトイレに行った。
鏡を見ながら大きく息を吐く。
目をぎゅっと瞑ってゆっくり開いて、口角をクイっと上げてトイレを出た。
会議室のお茶を下げ、資料をまとめてテーブルを拭いていると哲平が入って来た。
「打ち合わせ、お疲れ様でした」
ニコッと笑いながら言って纏めた資料を哲平に手渡す。
「うん。ありがとう」
受け取った哲平はまた和葉が無理に表情を作っていることに気付いて、何を思ったか資料をまたテーブルに置いて両手で和葉の頰を優しく挟んだ。
いきなりのことにうわ、と体を反転させた和葉は、至近距離にある哲平の顔にビックリして言葉を詰まらせた。
哲平の目が、和葉の目を捉えて離さなかった。
「だから、無理に笑うなって」
そう言いながら無意識に下唇を親指で優しく撫でる哲平に、和葉は一瞬固まったかと思うと次の瞬間みるみるうちに顔が赤く染まっていった。
それを見た哲平も自分の行動に気付いてまた驚いて。
「……え!?あ、ごめん!」
バッ!と離れた哲平は後ろを向いて頭を掻き、和葉は顔を真っ赤に染めてふるふると首を横に振った。
「ちょ、っと頭冷やしてくる。本当ごめん。気にしないでっ」
資料を忘れたまま哲平は走って会議室を出て行って。
「(キス、されるかと思った……)」
和葉はへなへなとその場に座り込んだ。
「……本当、ずるいよ」
撫でられた下唇が、やけに熱をもっているように感じた。
「(俺は一体なんてことを……!)」
頰の火照りを取るためトイレで顔を洗う哲平を、偶然居合わせた他の男性社員は怪訝な表情で見つめた。
そんなことも気にならないほどに哲平は動揺していて。
顔から雫が落ちるのも気にせずに鏡に映る自分を見つめて、その後に自分の親指を見つめて。
さっきの和葉の赤い顔を思い出してしまい、また哲平もまたボンッと効果音が鳴ったように真っ赤になった。
ポケットに入れていたハンカチで顔を荒々しく拭く。
そして資料を会議室に忘れたことに気が付いて、溜息を吐きながらトイレを後にした。
そっと会議室に戻ると、既にそこには和葉の姿は無く。
資料も見当たらず、首を傾げながら自分のデスクに戻ると探していた資料が置いてあった。
一番上にポストイットが貼ってあり、
《お忘れ物です。》
と綺麗な文字で書いてあった。
それは紛れも無く和葉の字で、ポストイットを剥がして見つめていると
「……どうぞ」
後ろからコトン、とデスクに置かれたコーヒー。
顔だけ振り向くと和葉が何食わぬ顔でお盆を持っていて。
「あ、りがとう」
お礼を聞いた和葉は、作った笑みではなくクスッと笑って自分のデスクに戻って行った。
思わずニヤける口許を隠すように下を向いて座った哲平とにこにこと戻ってくる和葉を見比べて、由美は嬉しそうに微笑んだ。
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