最後の想い出を、君と。

青花美来

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その日の夜に見た夢は、とても幸せな夢だった。

小さい頃からの、晶との日々。

幼稚園の時に晶の家族が引っ越してきて、同じ公園からバスに乗るようになった。

それからずっと、幼稚園でも帰ってきてからも一緒に遊んで、仲良くなって。

当たり前のように小学校は毎日一緒に通った。

毎日のように喧嘩して、でも次の日には何故か仲直りしてていつも通りふざけてて。

気がついたら隣にいるのが当たり前で、晶がそばにいないことなんて考えたこともなかった。

高校に入って初めて全然会わない日々になって、それまでのことが当たり前じゃなかったことに初めて気がついた。

初めて、晶への淡い気持ちに気がついた。

だけど、その頃には晶は女の子からものすごくモテるようになっていて、到底私じゃ釣り合わないような遠い存在になっていた。

だから、本当はずっと描きたかったのに、頼めなかった。

自分が死ぬかも知れないって思って初めて勇気を出せたくらいには、私は臆病で情けない人間だった。

晶は私が人物画を描きたいと言ったことに驚いていたけれど、私はやっと描けると思って本当に嬉しかったんだ。

胸に秘めたまま、言葉にできない晶への想い。


"一ヶ月だけでいいから、付き合ってほしい"


ドッキリだって言って誤魔化したけど、あれは本心だった。

晶が頷くわけがないと知った上で、病気になってますます言葉にすることができなくなったこの気持ちを、この感情を。

あんな形で試して。叶わないとわかったらドッキリだと誤魔化して。

我ながら卑怯だなと思う。

だけど、絵を描きたいと思ったのも本心。

一ヶ月だけでいいから付き合ってみたかったのも、また本心。

絵を描きながら、たまにご飯を食べに行ったり他愛無い話をしたり一緒に並んで歩いたり。

まるで付き合ってるみたいな気持ちになり、本当に幸せだった。

そのおかげで、絵にも感情をそのままぶつけることができた。

幸せな一ヶ月間だった。

晶、ありがとう。直接言葉にできなくて、試すようなことを言ってごめんね。直接絵を渡せなくて、ごめんね。

プロになる姿を見届けられなくて、本当にごめんね。

でも、私はいつまでも晶のことが大好きだし、誰よりも応援してるよ。

ありがとう。

夢の中の私は、ずっと笑顔だった。

今日も晶の声が聞こえる。ごめんね、もうそっちに戻れそうもないや。


――きだ


え?何?


――好きなんだよっ!戻ってこい!沙苗!


あぁ、やっぱりこれは夢だ。

だって、晶がそんなこと言うはずがないもの。

ね?そうでしょ?晶。

……でも。仮にさっきの声が夢じゃないのだとしたら。


「……晶、大好きだよ」



どうか、この声があなたに届きますように。


優しく包み込むような、光。


私はゆっくりと、そこに手を伸ばす。


お父さん、お母さん、晶。


自分勝手で、わがままでごめんなさい。みんな大好きです。





――幸せな人生を、どうもありがとう。

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