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三年越し

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「叔父さんには?どうするんだ?一応話すのか?」


傑くんに聞かれて、梨香子さんも心配そうに私を見つめる。


「あの人は……正直、どうしようかずっと悩んでる。けど実の親だし、報告しないわけにはいかないよなって思ってる」

「そりゃそうだよな。まぁ安心しろ。その時は俺が親父経由で叔父さんと連絡とってやるよ。どうせ連絡先知らないだろ」

「うん。……ありがとう」


その後凛花ちゃんが寝ている間に三人でお茶を飲みながら天音の話をしたり、起きた凛花ちゃんと遊んだりあやしてみたり。

迷惑になるからと夕方になる前に帰ろうと思っていたものの、梨香子さんに引き止められてなんと夕食までご馳走になることに。傑くんが凛花ちゃんを見ている間にお寿司の出前をとる。

天音に二人の家にいて夕食までご馳走になると連絡すると、仕事が終わり次第迎えにきてくれるらしい。

梨香子さんに伝えたらニヤニヤしながらからかわれた。


「じゃあ天音くんの分も出前取ろうか。そうしたら唯香ちゃんの負担も減るし」

「いやいや、私たちにそんな気遣わないでくださいね?」

「いいの。せっかく来てくれたんだし、それくらいさせてね」

「……ありがとうございます」


梨香子さんの好意をありがたく受け取り、どうにか出前金額の半分を出させてもらうことで合意した。

天音は仕事を急いで終わらせてきたらしく、お寿司が届いてから一時間ほどで百瀬家に到着した。

まさか自分の分まで用意されているとは思っていなかったらしい天音は、お寿司を見て嬉しそうに声を上げる。


「天音くん、こっち、唯香ちゃんの隣どうぞ」

「俺まで良かったのか?」

「うん。二人の話も聞きたかったし」


梨香子さん、さては天音からも話を聞き出す気だな……?

天音が余計なことを言わないように先に釘を刺しておくべきだった。

しかし天音は梨香子さんからの質問攻めに思いの外当たり障りなく答えていった。

もちろん三年前のあの日、傑くんと梨香子さんを部屋まで運んだ後は一緒に飲んだだけだと濁してくれた。

……いや、別にバレたところで何があるわけでもないんだけどね?私のメンタルが持たないからね……。


「……ありがとう」


天音に小さくお礼を言うと、


「お礼に後で唯香からキスして」

「なっ……」


耳元でそっと囁かれて、一瞬にして私は真っ赤に染まる。

それを見て天音は楽しそうに微笑んでいて、私たちの様子に梨香子さんは「らぶらぶね~」とからかい、傑くんは「あっま……ダメ、俺こいつらのこういうシーン胸焼けして見れないかも……」と失礼極まりない発言を残して「梨香子、凛花寝かしてくるから俺の分も寿司食っていいよ」と凛花ちゃんを抱っこして寝かしつけに行った。


「昔から二人を知ってるから、照れくさいのね。傑がごめんなさい」

「いえ。傑くんは昔からああいう人ですから」

「だな。梨香子さんにだけだろ、あいつが甘くて優しいのは」

「そうかな?」

「そうです」


天音と二人で頷き合う。

お寿司を食べ終えた頃に二人に挨拶して百瀬家をあとにした。

天音の運転で現在の自宅であるタワマンに帰る。

ここに引っ越してきて一ヶ月が経過したものの、この豪華さには全く慣れない。

天音には気負いするなとかもっと楽にしろとか寛いでいいからとか言われるけれど、多分あと数ヶ月しないとここで寛ぐなどまず無理だ。

だって、私はこんなところに住んだことがない。同じお金持ちでも、傑くんの家は低層階。ついこの間までアパートに住んでいた身としてはこんなタワーマンションなんて夢のまた夢で、すぐに慣れろという方が難しいもの。

でもキッチンには少しずつ慣れてきて、ほぼ毎日私が自炊している。


「今日も弁当ありがとう。うまかった」

「良かった」


渡された空っぽのお弁当箱を水に浸けてから、二人並んでソファに腰掛ける。自然と天音に身を寄せると、慣れたように私の頭を自分の肩に寄せた。


「楽しかったか?」

「はい。凛花ちゃんも可愛いし、梨香子さんと久しぶりに話せて嬉しかったです」

「そっか、良かったな」


梨香子さんとは頻繁に連絡はとっているものの、やはり実際に会うと会話も弾むもの。すごく楽しかった。

梨香子さんと話したことや傑くんの反応を喋っていると、不意に沈黙が私たちを包む。


「……じゃあ、約束通り唯香からキスしてもらおうかな」


イタズラな声に私は言葉を詰まらせる。


「……私了承した記憶は無いですよ……」

「ほら、早く。それとも一緒に風呂入る?」

「えっ……」

「どっちか選んで。じゃないとどっちもにするけど」

「それはダメ!私が恥ずかしい!」


飛び起きるように天音から離れるものの、今度は体の向きを変えられて正面から抱きしめられた。

ドクドクと、お互いの鼓動の音が混ざり合う。

それを聞いて、天音も私にドキドキしてくれているのだ、と改めて思う。

こんな余裕そうな顔をしているのに。私は全く余裕が無いのに。

そう思って見上げると、


「時間切れ。俺が我慢できない」


ニヤッと笑って私にキスをする。


「……口開けて」


唇が触れた状態で喋るから、吐息が入り込んできてくすぐったい。

うっすらと口を開けると、熱い舌がねっとりと私の口内を犯していく。


「……ほら、唯香から」

「でも……」

「お願い」

「……っ」


不意にされた"お願い"と、愛おしさが溢れている優しい笑顔。

そんな顔をされたら、まるで私がわがままを言っているみたいだ。

その笑顔を数秒見つめて、天音は諦めてくれる気もないし離れるつもりもないと悟ってしまう。


……どうにでもなれっ!


意を決してギュッと目を瞑り、触れるだけのキスをする。


「っ、恥ずかしいから、私にはこれが限界っ」


顔を真っ赤に染め上げて下を向く。

しかし次の瞬間、グイッと顎を持ち上げられたかと思えば、すぐに深いキスが私の呼吸を奪う。


「ふぁっ……んあ、んぅぅ……」


何度も角度を変えながら、私の唇を味わうようなキス。甘くて甘くて仕方ない。


「……今はまだ許すけど。今度はこれくらいのな」

「なっ……む、無理!」

「拒否権はねーよ。……じゃあ、このまま風呂行きますか、お姫様?」

「ひめっ……え!本気で一緒に入るんですか!?」

「当たり前だろ」


当然のように言い放ち、慌てる私の身体を横抱きにして颯爽と洗面スペースへ向かう天音。

もちろん、天音と一緒にお風呂に入って何も無いわけがなく。

上がる頃には私はのぼせてしまっており、天音はすこぶる上機嫌でそのままベッドにまで拉致られるのだった。
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