上 下
1 / 30
再会

1

しおりを挟む
都心から電車で十五分ほど。高級住宅地と名高いその土地に、一棟のそれはそれは煌びやかな建物がある。


【二階堂総合病院】


名前だけ聞けば、よくある普通の総合病院のように思えてしまうそこは、今とても話題になっている病院だ。

おそらく、初めてここに足を踏み入れた人物は皆、口を揃えてこう言うだろう。

"ここはホテルかお城か何かか?"と。

中が見えないようになっている厳かな雰囲気の外観。そのエントランスの向こうには柔らかな光が差し込む広いロビー。その向こうにあるレセプションにはきっちりと髪を束ねた容姿端麗な女性が二人。

右には大きなエレベーターが三機。左には面会用の通用口。そこにいる初老の男性は、どこぞのコンシェルジュのよう。

天井にはシャンデリアが輝き、静かなピアノのクラシックが流れている。

とても病院とは思えないここは、所謂"VIP御用達"の総合病院だ。

政財界の重要人物や大物芸能人、さらには世界的に名の知れた大企業の重役などを主な顧客としており、そのVIPのプライバシーを守るべく、万全のセキュリティーが敷かれているのが最大の強みだ。

お見舞いに行けるのは事前に患者が許可した人か、近親者の中でも限られた人だけだと言うから驚きだ。

そんなVIP御用達、いや、VIP専用と言ってもいいかもしれない病院の中を、私は恐る恐る突き進む。

外は夏の日差しが肌を焼くようにジリジリと強く照りつけていたけれど、ここは程良く冷房が効いていて一気に汗が引く。

思わずため息のような息を吐くけれど、ここにお見舞いに来たわけでもないし、まして患者でもない。もちろんVIPなわけがない私は、この空間に存在していること自体が場違いなのはわかっている。

しかし、呼ばれてしまったのだから仕方ないじゃないか。

きょろきょろと辺りを見回して、自分のスマートフォンとロビーを見比べている私。

おそらく大分怪しく見えているのだろう。

レセプションから出てきた女性の一人が、私の元へ歩いてきた。


「いかがなさいましたか?お見舞いですか?患者様ですか?」


凛とした綺麗な立居振る舞いに、凡人の私は圧倒される。


「い、いえ……。あの、脳外科医の百瀬 傑ももせ すぐるに会いたいんですけど……」


萎縮しているのが丸わかりで情けないものの、馬鹿みたいに声が震えた。


「……百瀬先生ですか?失礼ですが、どちら様でしょうか。本日お客様がいらっしゃるとは私共は伺っておりませんが、アポイントはお取りでしたか?」


一気に目が鋭くなった女性に、私の肩が跳ねる。


「あ、……申し遅れました。私、百瀬傑の───」


続きを言おうとしたところで、


「───唯香ゆいか!」


と、私を呼ぶ声が聞こえて振り向いた。


「百瀬先生!」


女性が驚きの声をあげて一礼する中、私はその無駄に高い身長と奥二重の垂れ目を睨み付ける。


「……傑くん!遅い!」

「ごめん唯香。オペが思ってたより長引いた」

「ロビーまで迎えに来てくれるって言うから来たのに。私ここ来たの初めてなんだから、ちゃんと待っててくれないと困るよ」


なるべく目立たないように小声で文句を言う私をまぁまぁと嗜めるこの男に、私は一つため息をこぼす。


「悪かったって。ほら、行くぞ」


事態を飲み込めていないレセプションの女性に


「お騒がせして申し訳ございませんでした」


と深々と頭を下げてから、すでに歩き出した傑くんの後ろを追いかけるように足を進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

天才小児外科医から溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
天才小児外科医から溺愛されちゃいました

あなたに私の夫を差し上げます  略奪のち溺愛

雫石 しま
恋愛
叶製薬株式会社の愛娘、叶 木蓮(25歳)と叶 睡蓮(25歳)は双子の姉妹。姉の睡蓮は企業間取引で和田医療事務機器株式会社の長男、和田 雅樹(30歳)と婚姻関係を結んだ。そして喘息を患う睡蓮の主治医、この4人が織りなす恋愛不倫物語。 双子の姉妹と二人の男性が織りなすお昼のメロドラマ風、恋愛、略奪、四角関係、不倫のハッピーエンドです。

スパダリな彼はわたしの事が好きすぎて堪らない

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰、眉目秀麗、成績優秀なパーフェクトな彼。 優しくて紳士で誰もが羨む理想的な恋人だけど、彼の愛が重くて別れたい……。

彼と私と甘い月

藤谷藍
恋愛
白河花蓮は26歳のOL。いつも通りの出勤のはずが駅で偶然、橘俊幸、31歳、弁護士に助けられたことからお互い一目惚れ。優しいけれど強引な彼の誘いに花蓮は彼の家でバイトを始めることになる。バイトの上司は花蓮の超好みの独身男性、勤務先は彼の家、こんな好条件な副業は滅多にない。気になる彼と一緒に一つ屋根の下で過ごす、彼と花蓮の甘い日々が始まる。偶然が必然になり急速に近づく二人の距離はもう誰にも止められない? 二人の糖度200%いちゃつきぶりを、こんな偶然あるわけないと突っ込みながら(小説ならではの非日常の世界を)お楽しみ下さい。この作品はムーンライトノベルズにも掲載された作品です。 番外編「彼と私と甘い月 番外編 ーその後の二人の甘い日々ー」も別掲載しました。あわせてお楽しみください。

1つ屋根の下で大嫌いなあいつとの同棲生活

鳴宮鶉子
恋愛
結婚適齢期なのに恋人がいないからと大嫌いなあいつとお見合いさそられ、しかも同棲生活をさせられる事になり……。

再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~

松本ユミ
恋愛
夏木美桜(なつきみお)は幼なじみの鳴海哲平(なるみてっぺい)に淡い恋心を抱いていた。 しかし、小学校の卒業式で起こったある出来事により二人はすれ違い、両親の離婚により美桜は引っ越して哲平と疎遠になった。 約十二年後、偶然にも美桜は哲平と再会した。 過去の出来事から二度と会いたくないと思っていた哲平と、美桜は酔った勢いで一夜を共にしてしまう。 美桜が初めてだと知った哲平は『責任をとる、結婚しよう』と言ってきて、好きという気持ちを全面に出して甘やかしてくる。 そんな中、美桜がストーカー被害に遭っていることを知った哲平が一緒に住むことを提案してきて……。 幼なじみとの再会ラブ。 *他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正した完全版になります。 性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。

残業シンデレラに、王子様の溺愛を

小達出みかん
恋愛
「自分は世界一、醜い女なんだーー」過去の辛い失恋から、男性にトラウマがあるさやかは、恋愛を遠ざけ、仕事に精を出して生きていた。一生誰とも付き合わないし、結婚しない。そう決めて、社内でも一番の地味女として「論外」扱いされていたはずなのに、なぜか営業部の王子様•小鳥遊が、やたらとちょっかいをかけてくる。相手にしたくないさやかだったが、ある日エレベーターで過呼吸を起こしてしまったところを助けられてしまいーー。 「お礼に、俺とキスフレンドになってくれない?」 さやかの鉄壁の防御を溶かしていく小鳥遊。けれど彼には、元婚約者がいてーー?

処理中です...