52 / 55
第五章
秘めた想い(2)
しおりを挟む
それから、二週間の月日が流れて。
「奈々美」
「龍之介くん。おはよう」
「今日からか、復学」
「うん。ちょっと緊張してるけど、龍之介くんもいるし頑張ってくる」
私は今日から白河高校へ復学することになり、朝から職員室に向かうために早めに着いたのに。昇降口で会った龍之介くんの姿に驚きつつも、すごく安心した。
「あぁ。なんか嫌なこと言われたら保健室に逃げとけ。それと俺にもちゃんと連絡入れること」
「うん。ありがと」
お互いが制服姿でこうして学校で出会うことが違和感でしかないものの、それも徐々に慣れていつしか当たり前のことに変わるだろう。
季節はすでに冬が間近に迫っている。
あと数ヶ月すれば、龍之介くんと同じ学年になる。
それなら四月から復学でも良かったものの、怪我も治っているのにずっと家にいるのも嫌で、立花さんからもらった制服の力も借りて少し頑張ってみることにしたのだ。
案の定龍之介くんと別れて職員室に向かうまでの道のりで視線をいくつか感じた。でも、今度こそ学校生活を楽しむんだと決めたから、何も怖くない。
ガラリと開けた職員室の中。広瀬先生が泣きそうな笑顔で私を出迎えてくれて。
「おかえりなさい、桐ヶ谷さん」
「広瀬先生、いろいろありがとうございました。心配かけちゃってごめんなさい」
「ううん。私も何も気付かなくてごめんなさい。今桐ヶ谷さんの元気そうな顔が見られてるから、それでいいの。またここに戻ってきてくれてありがとうね」
「……ありがとうございます。また今日からよろしくお願いします」
頭を下げると、広瀬先生だけでなく周りの先生からも口々に「おかえり」と言ってもらえた。
それが嬉しくて、でも言葉に言い表せなくて無言で感激していると
「桐ヶ谷さん、そういう時はね、"ただいま"って言えばいいの」
と手招きした広瀬先生に小声で教えてもらう。
「……ただいま、です」
こぼすように言うと、柔らかな拍手が私を包み込んでくれた。
教室に案内され、そのまま始まったホームルームで軽く私の復学の紹介をしてもらう。
広瀬先生のように笑顔を向けてくれる子もいれば、痛々しいものを見る視線を送ってくる子もいた。
でも、私はそれに笑顔を返す。
「お久しぶりです。今日から復学しました。迷惑かけちゃってごめんなさい。残り短い期間ですが、よろしくお願いします」
声なんて返ってこない前提での挨拶だったものの、なぜかパラパラと「おかえり」という声が聞こえて顔を上げた。
「おかえり、桐ヶ谷さん」
「大変だったね、怪我は治った?」
「元気そうで安心したよ」
「何かあったらいつでも言ってね?」
教室中から聞こえてくる声は、優しさに満ち溢れていた。
「……皆、ありがとう。ただいま」
その優しさに感動してしまい、朝から泣きそうになった。
「奈々美」
「龍之介くん。おはよう」
「今日からか、復学」
「うん。ちょっと緊張してるけど、龍之介くんもいるし頑張ってくる」
私は今日から白河高校へ復学することになり、朝から職員室に向かうために早めに着いたのに。昇降口で会った龍之介くんの姿に驚きつつも、すごく安心した。
「あぁ。なんか嫌なこと言われたら保健室に逃げとけ。それと俺にもちゃんと連絡入れること」
「うん。ありがと」
お互いが制服姿でこうして学校で出会うことが違和感でしかないものの、それも徐々に慣れていつしか当たり前のことに変わるだろう。
季節はすでに冬が間近に迫っている。
あと数ヶ月すれば、龍之介くんと同じ学年になる。
それなら四月から復学でも良かったものの、怪我も治っているのにずっと家にいるのも嫌で、立花さんからもらった制服の力も借りて少し頑張ってみることにしたのだ。
案の定龍之介くんと別れて職員室に向かうまでの道のりで視線をいくつか感じた。でも、今度こそ学校生活を楽しむんだと決めたから、何も怖くない。
ガラリと開けた職員室の中。広瀬先生が泣きそうな笑顔で私を出迎えてくれて。
「おかえりなさい、桐ヶ谷さん」
「広瀬先生、いろいろありがとうございました。心配かけちゃってごめんなさい」
「ううん。私も何も気付かなくてごめんなさい。今桐ヶ谷さんの元気そうな顔が見られてるから、それでいいの。またここに戻ってきてくれてありがとうね」
「……ありがとうございます。また今日からよろしくお願いします」
頭を下げると、広瀬先生だけでなく周りの先生からも口々に「おかえり」と言ってもらえた。
それが嬉しくて、でも言葉に言い表せなくて無言で感激していると
「桐ヶ谷さん、そういう時はね、"ただいま"って言えばいいの」
と手招きした広瀬先生に小声で教えてもらう。
「……ただいま、です」
こぼすように言うと、柔らかな拍手が私を包み込んでくれた。
教室に案内され、そのまま始まったホームルームで軽く私の復学の紹介をしてもらう。
広瀬先生のように笑顔を向けてくれる子もいれば、痛々しいものを見る視線を送ってくる子もいた。
でも、私はそれに笑顔を返す。
「お久しぶりです。今日から復学しました。迷惑かけちゃってごめんなさい。残り短い期間ですが、よろしくお願いします」
声なんて返ってこない前提での挨拶だったものの、なぜかパラパラと「おかえり」という声が聞こえて顔を上げた。
「おかえり、桐ヶ谷さん」
「大変だったね、怪我は治った?」
「元気そうで安心したよ」
「何かあったらいつでも言ってね?」
教室中から聞こえてくる声は、優しさに満ち溢れていた。
「……皆、ありがとう。ただいま」
その優しさに感動してしまい、朝から泣きそうになった。
1
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
世界が終わる前に、もう一度お別れのキスを
奏音 美都
ライト文芸
絶対に叶わぬ恋だと思ってた。世界が今日、滅びると知るまでは……
今の私たちでは、一緒になれないことは分かってる。
諦められなくても、諦めなくちゃいけない、叶わぬ恋。
もし……もしも、世界が明日終わってしまうとしたら、
その前に、もう一度だけお別れのキスをして欲しい。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない
猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました
2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました
※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です!
殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。
前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。
ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。
兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。
幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。
今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。
甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。
基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。
【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】
※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。
世の中色々な人がいる、ということに時々疲れる。
月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
世の中色々な人がいる。ハッピーな時に聞いたら素敵な言葉だ。まだ見ぬ世界が広がっていて、これから色んな人に出会う可能性があるのだから。
でも色々な人がいるということは、色々考慮しないといけないわけで。善なのか悪なのか判断のつかないこともある。世界に善も悪もないけれど。
追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。
cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。
ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。
その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。
理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。
しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。
ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。
ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。
「あの人にも幸せになる権利はあるわ」
ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。
レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。
直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。
タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。
馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。
「収穫量が思ったように伸びなくて」
もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。
★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。
★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
語りカフェ。人を引き寄せる特性を持つマスターの日常。~夜部~
すずなり。
ライト文芸
街中にある一軒のカフェ。
どこにでもありそうな外観のカフェは朝10時から昼3時までの営業だ。
五席しかない店内で軽食やコーヒーを楽しみに常連客が来るカフェだけど、マスターの気分で『夜』に店を開ける時がある。
そんな日は決まって新しいお客が店の扉を開けるのだ。
「いらっしゃいませ。お話、お聞きいたします。」
穏やか雰囲気のマスターが開く『カフェ~夜部~』。
今日はどんな話を持った人が来店するのか。
※お話は全て想像の世界です。(一部すずなり。の体験談含みます。)
※いつも通りコメントは受け付けられません。
※一話完結でいきたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる