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第一章
新たな出会い(5)
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記憶喪失のことは、美優ちゃんには言っていない。
だから、龍之介くんにも言うつもりはない。
いくらここで仲良くしていても、それはあくまでも同室の患者同士だからだ。ここに入院している間だけの関係。
退院したら、それぞれの世界に帰っていくのだから当たり前だろう。
そんな関係の人に打ち明けたところで、無駄な同情を買うだけだ。
もしかしたら、退院した後はもう二度と会うことも無いかもしれないし。
……でもそれはそれで、少し寂しいかも。
「奈々美?どうかしたか?」
「……ううん。私も早く外出たいなあって思ってた」
「そうだな。じゃあそのために、リハビリ頑張らないとな?」
「うん」
目が覚めてから一歩も外に出ていない今の私には、この病室の中が世界の全てだ。
ここから出る日を、私は無事に迎えられるのだろうか。
そして、ここから出た後。私にはどんな世界が待っているのだろうか。
それを考えると少し怖いけれど、自分を思い出すためには必要なことだと思うから。
「奈々美ちゃん!お兄ちゃん!ただいまー」
ドアから声が聞こえて振り向くと、車椅子に乗った美優ちゃんが帰ってきた。
「おかえり美優ちゃん」
「お兄ちゃん、奈々美ちゃんとちゃんとお話しした?」
「あぁ、したした。したよ。だから今こっちにいるんだろうが」
「そっか!良かった。お兄ちゃんあんまり友達いないみたいだし、奈々美ちゃん、迷惑じゃなかったら仲良くしてあげてね」
「……お前なぁ。一言余計なんだよ。別に俺ちゃんと友達いるし」
龍之介くんの呆れたような視線にも動じない美優ちゃんは、私にニヤニヤした視線を送る。
「でもほとんど毎日私のお見舞い来てくれるんだよ?友達いなさそうじゃない?」
「ふざけんな。誰が母さんの代わりにお前の服届けてると思ってんだよ」
「はーい。いつも感謝してますー。どーもアリガトウゴザイマス」
「お前俺のこと馬鹿にしてんだろ」
「そんなことないよー、尊敬してるよー、感謝してるよー」
「……はぁ」
そんなやりとりに、思わず笑ってしまう。
クスクスしていると、二人揃ってこちらに視線を向けた。
「二人とも面白いね。……龍之介くん、私あんまり友達いないし、龍之介くんも仲良くしてくれると嬉しいな」
「……奈々美まで……ったく、仕方ねぇなあ」
照れているのか、雑に頭を掻く龍之介くんは丸椅子を持って美優ちゃんのベッドの方に戻る。
車椅子からベッドに移るのを手伝っているようで、時折からかわれているのか「お前はうるさい」と頰をつねっては「痛い痛い」と美優ちゃんが騒いでいた。
「ほーら、病院内はお静かに!じゃ、二人とも。検査結果出たら呼ぶからちょっと待っててね」
立花さんに返事をして、ドアが閉まった瞬間に三人で吹き出す。
「ははっ、怒られちゃった」
「お前がうるさいからだろ?俺まで叱られるんだからやめろよ」
「そう言いながらお兄ちゃんも笑ってんじゃん」
「うるせっ、いいだろ別に」
「ふふっ、二人とも本当仲良いね」
「良くねぇから!」
「ははっ!また怒られちゃうよ」
立花さんにこの間言われた。
"奈々美ちゃん、最近笑顔が増えてきて私も嬉しい"
自分ではあまり気付かないけれど、確かにこうやって声を出して笑うようになったのは、美優ちゃんがここに来てからだ。
他愛無い話でこんなに笑えるなんて。
美優ちゃんには感謝しかない。
だから、龍之介くんにも言うつもりはない。
いくらここで仲良くしていても、それはあくまでも同室の患者同士だからだ。ここに入院している間だけの関係。
退院したら、それぞれの世界に帰っていくのだから当たり前だろう。
そんな関係の人に打ち明けたところで、無駄な同情を買うだけだ。
もしかしたら、退院した後はもう二度と会うことも無いかもしれないし。
……でもそれはそれで、少し寂しいかも。
「奈々美?どうかしたか?」
「……ううん。私も早く外出たいなあって思ってた」
「そうだな。じゃあそのために、リハビリ頑張らないとな?」
「うん」
目が覚めてから一歩も外に出ていない今の私には、この病室の中が世界の全てだ。
ここから出る日を、私は無事に迎えられるのだろうか。
そして、ここから出た後。私にはどんな世界が待っているのだろうか。
それを考えると少し怖いけれど、自分を思い出すためには必要なことだと思うから。
「奈々美ちゃん!お兄ちゃん!ただいまー」
ドアから声が聞こえて振り向くと、車椅子に乗った美優ちゃんが帰ってきた。
「おかえり美優ちゃん」
「お兄ちゃん、奈々美ちゃんとちゃんとお話しした?」
「あぁ、したした。したよ。だから今こっちにいるんだろうが」
「そっか!良かった。お兄ちゃんあんまり友達いないみたいだし、奈々美ちゃん、迷惑じゃなかったら仲良くしてあげてね」
「……お前なぁ。一言余計なんだよ。別に俺ちゃんと友達いるし」
龍之介くんの呆れたような視線にも動じない美優ちゃんは、私にニヤニヤした視線を送る。
「でもほとんど毎日私のお見舞い来てくれるんだよ?友達いなさそうじゃない?」
「ふざけんな。誰が母さんの代わりにお前の服届けてると思ってんだよ」
「はーい。いつも感謝してますー。どーもアリガトウゴザイマス」
「お前俺のこと馬鹿にしてんだろ」
「そんなことないよー、尊敬してるよー、感謝してるよー」
「……はぁ」
そんなやりとりに、思わず笑ってしまう。
クスクスしていると、二人揃ってこちらに視線を向けた。
「二人とも面白いね。……龍之介くん、私あんまり友達いないし、龍之介くんも仲良くしてくれると嬉しいな」
「……奈々美まで……ったく、仕方ねぇなあ」
照れているのか、雑に頭を掻く龍之介くんは丸椅子を持って美優ちゃんのベッドの方に戻る。
車椅子からベッドに移るのを手伝っているようで、時折からかわれているのか「お前はうるさい」と頰をつねっては「痛い痛い」と美優ちゃんが騒いでいた。
「ほーら、病院内はお静かに!じゃ、二人とも。検査結果出たら呼ぶからちょっと待っててね」
立花さんに返事をして、ドアが閉まった瞬間に三人で吹き出す。
「ははっ、怒られちゃった」
「お前がうるさいからだろ?俺まで叱られるんだからやめろよ」
「そう言いながらお兄ちゃんも笑ってんじゃん」
「うるせっ、いいだろ別に」
「ふふっ、二人とも本当仲良いね」
「良くねぇから!」
「ははっ!また怒られちゃうよ」
立花さんにこの間言われた。
"奈々美ちゃん、最近笑顔が増えてきて私も嬉しい"
自分ではあまり気付かないけれど、確かにこうやって声を出して笑うようになったのは、美優ちゃんがここに来てからだ。
他愛無い話でこんなに笑えるなんて。
美優ちゃんには感謝しかない。
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