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第一章

現実(1)

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目が覚めた時に、記憶が戻ってきているんじゃないかと期待していた。

それか、全部夢だったんじゃないかと、期待していた。

しかし翌朝目が覚めた私を襲ったのは、やはり何も覚えていない自分。

全身の痛みとそれに伴う検査、怪我のため自分では何もできない羞恥心と情けなさ、そして孤独だった。

病室は個室で、お医者さんや看護師さんが来ない限りいつも一人ぼっちだった。

普段の私がどんな人間だったのかは今はわからないものの、この非日常に思える状況の中では、とてつもなく心細く寂しい空間だった。

検査が落ち着いて、少し怪我が良くなれば大部屋に移動になるそうだ。

私の担当看護師だという立花さんがベッドごと検査室に運んでくれている時に聞いた話では、私の名前は桐ヶ谷 奈々美キリガヤ ナナミというらしい。文字数の多い名前だ。

歳は十七。性別は女。

渡された泥で少し汚れた学生証を見るに、高校二年生のようだ。

私は事故により右手と右足の骨折に加えて左半身の打撲、全身の擦り傷と切り傷、さらに頰には数針縫う怪我をしており、治療はしてもらったものの頰には跡が残ってしまうかもしれないと立花さんが言っていた。

これだけの怪我をしていて内臓に損傷が無かったのが不幸中の幸いらしい。

じゃあその事故というのはどういうものだったのだろうか、聞こうにも"記憶に関することは急がないほうがいい"と言われてしまい、誰も教えてはくれなかった。

交通事故に遭ってしまったのだろうか。

怪我の具合から見るに、右半身に大きな衝撃があった様子。

とは言え、しばらく入院になるらしいからいつでも聞くタイミングはあるだろう。怪我の具合が少し落ち着いた頃にもう一度聞いてみよう。もしかしたら、記憶が戻った時にそれも全部思い出すかもしれないし。

朝から続いた検査が一区切りついた頃には、既に窓の外はオレンジ色に染まっていた。

季節は初夏。カレンダーによると、六月の中旬だ。

「今年も暑くなりそうだね」と立花さんがため息混じりにこぼしていた言葉を思い出す。

私はそのオレンジ色を食い入るように、しばらく見つめていた。
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