冷徹上司の、甘い秘密。

Forth

13-4

「お、わかった。気を付けてなー」


「おう、また連絡する。……歩さん、行きましょう」


「……」



この空気で行かないという選択肢は無いだろう。



「チーフ、お疲れ様です！」


「……お疲れ様。二人とも気を付けて帰るんだよ」


「わかってまーす！」



元気な声に微笑みを返し、お金を置いてから野沢さんの後ろを歩いて外に出た。


夜の風は冷たくて、適度にアルコールで温まった体でも肌寒い。


成り行きで抜けてきたまではいいものの、果たしてこの後どうしようか。



「歩さん、この後時間あります？」


「え？あぁ、まぁ……」



煮えきらない返事にも、野沢さんはニコッと微笑む。


……きっと優しい人なんだろうな。


そう思って、なんだか気持ちが落ち込んだ。


……私、一体何やってるんだろう。


課長が好きなはずなのに、避けて避けて挙句に興味も無い合コンに来て。


リードしてくれる男性の誘いにも曖昧な返事しか出来なくて。


本当、何やってんだ私……。



「おすすめのお店があるんですよ。今から一緒に……って、歩さん？どうしました？」



振り向いた野沢さんは、急に立ち止まった私を不思議そうに見つめる。


それにどうしようもなく申し訳ない気持ちと、こんな自分が情けない気持ちでいっぱいになり。



「……ごめんなさい。私やっぱり帰りますね！」


「歩さん！？」



ガバッとその場で勢いよく頭を下げ、驚く野沢さんを放置したまま走ってその場を離れた。


失礼は承知の上。それでもこのままついて行くのは違うと思った。


そして駅まで走り、丁度来ていた地下鉄に飛び乗る。


空いていた座席に腰掛けてゆっくりと深呼吸をする。


どうにかしないと。でもどうすればいいんだろう。


地下鉄に揺られる体からは、すっかり酔いは覚めていた。