冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来

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Third

11-4

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「綾人とは同期なのよ」


「へぇ……」


「お前は相変わらずうるさいな」


「何よ、良いじゃない。久し振りに会ったんだから」



ねぇ?とこちらに振られて、反射的に愛想笑いを一つ。



「金山、コイツのことは無視して良いから」


「酷い!金山ちゃん、綾人から嫌がらせとかされてない?大丈夫?」


「勝手に馴れ馴れしくするな」


「あら、焼きもち?」


「ちがっ……そんなんじゃないから」


「ふふっ……恥ずかしがっちゃって」



会話を聞いただけで、二人が気心知れた仲だというのがよくわかる。


普段見ないような課長の雰囲気とフレンドリーな恭子さんからの圧に、笑うことしかできない。



「もう、折角美味しいスイーツさっき買ってきてたからお裾分けしようと思ったのに」


「……」



目の色が変わったような課長に、私はどうしてか心臓がズキンと痛む。



「金山ちゃん知ってた?綾人ったら昔っから甘い物が大好きでねー、なのに馬鹿にされるから黙っておいてくれって言って……」


「おい、ペラペラ喋るな」


「何よ、良いでしょ減るもんじゃないんだから」


「いいから」



……なんだ。課長の秘密知ってるの、私だけじゃなかったんだ。



「あ、そうそう。私ね、今度そっちの支社に一時的に戻ることになったの」


「……なんだ、左遷か?」


「ははっ、まさか。そっちの開発部からのヘルプ要請があってね。私が行くことになったの。今日はその下見。明後日一回こっちに帰ってきてから来週もう一回そっち行くの。三ヶ月くらいになると思う」


「結構長いな」


「うん。だから長いことホテル取って今日荷物置いておこうと思って」



だからこれ、とスーツケースを指差した恭子さん。


その顔が凄く嬉しそうで。



「まぁ、綾人とは違う部署だから会うこともあんまり無いかもしれないけど」


「そうだな」



課長も、会社では見ないような少しだけ柔らかい表情をしている。


チクリと痛む胸に手を当てる。



「そうだ!今日の夜空いてる?久し振りに綾人とも話したいし、ご飯でもどう?」


「あぁ……今日はもう直帰予定だから別に良いけど」


「やった!じゃあ後で連絡するね!」



ぱあっと笑った恭子さんが、凄く眩しく見えた。




「……すみません、私ちょっとお手洗いに行ってきますね」


「……金山?」


「はーい、行ってらっしゃーい」



恭子さんの明るい声を背に、思わずその場から逃げ出した。


トイレの洗面台の前で、ふぅ、と息を吐く。


当たり前じゃないか。旧知の中なら、知っていてもおかしくないじゃないか。


……どうして私は、こんなにもショックを受けているのだろうか。



「……まさか、ね」



ズキズキと痛む胸を抑えて、目の前の鏡を眺める。



「……ははっ、酷い顔」



だらしなく眉の下がった自分の顔を見て、



「そんなわけ、無いと思ってたんだけど」



朝、キスされた唇をそっと指で撫でてからぽつり、呟く。



──好き、なのかも。



胸に秘めた想いが、動き出した。


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