9 / 50
第一章
新たな選択肢(1)
しおりを挟む
宣言通り、先生は焼肉屋さんに連れて行ってくれた。
「みゃーこは飲んでいいからね」
メニューを開きながら何を頼もうか見ていると、先生にアルコールメニューを渡された。
「え、いいよ。先生飲まないのに私だけなんて」
そのまま先生の車で来たため、先生は飲めない。
「俺のことは気にしなくていいから」
「でも……」
私一人で飲むのは、やっぱり気が引ける。
「……実は俺さ、あんまり酒飲めないの」
「え?そうなの?意外」
酒豪とまではいかないけれど、お酒強そうな顔してるのに。
「弱いのにたくさん飲んじゃって、酔っ払って記憶無くして皆に迷惑かけるから、今職場から酒禁止令出されてんのさ」
「……一体何やらかしたら禁止令出されんのよ」
「……ははは、それは俺も聞きたいくらい」
だから、俺はいいの。みゃーこにまで迷惑かけるわけにいかないから、と。
どこまでが本当の話かはわからないけれど、先生がそこまで言うなら、とハイボールを注文。
好きなお肉をいくつか頼んで、先生も自分の好きなものを頼んで。
すぐに運ばれてきた私のハイボールと先生の烏龍茶。
ジョッキを合わせて、乾杯した。
「みゃーこって意外と酒強いタイプ?」
「んーん。そんなに。でもお酒は好き。こういう居酒屋の空気も好き」
「わかる。俺もこの空気好き。おかわり好きなの飲んでいいからね」
「うん。ありがとう」
先生は本当に嬉しそうに笑う。もしかしたら先生は、誰かがお酒を飲んでいるところを見るのが好きなのかもしれない。
お肉が運ばれてきて、二人で網に乗せる。
お肉の色がだんだん変わるのを見つめていると、先生が口を開いた。
「そういえば、こっちに帰ってくるんなら、仕事はどうする?」
「……それも、探さないとなって思ってる。だからどっちにしてもすぐに帰ってくるのは無理かなぁ」
東京での仕事を辞めるのは簡単だ。事務職だから私の代わりなんていくらでもいるし、辞めたいって言えばすぐに辞めさせてくれると思う。
でも、さすがに無職状態でこっちに帰ってくるのはリスクが大き過ぎた。
転職サイトのアプリをいくつかインストールしようかと思って調べていると、先生は少し悩んだ様子を見せる。
そして、何を思ったか驚きの言葉を口にした。
「……じゃあさ、うちで働けば?」
「……は?」
意味がわからなくて聞き返す。
「うちの学校で働けばいいじゃん」
「……え、いや、私教員免許持ってないし……」
高卒で就職したから、特別な資格は何も持っていない。
「ははっ、学校は教員だけが働いてるわけじゃないだろ」
「あ、それもそうか」
確かに言われてみれば。それもそうだ。
用務員さんもいるし、購買のおばちゃんもいる。
他には……えーっと。どんな仕事があったっけ?
「うちの学校事務の人が二人いるんだけど、そのうち一人がもうすぐ産休に入るからって臨時で欠員募集かけるんだよ。まぁその人が戻ってくるまでの期間限定なんだけど。もしかしたらそのまま雇ってくれるって言うかもしれないし。特別な資格も必要無いし。まぁ大卒じゃないってのはあるかもしれないけど、そこは俺がどうにかするから。みゃーこは事務職経験者だから多分採用されやすいと思うんだけど。……どう?興味あるなら俺が話付けるけど」
学校事務。聞き慣れない言葉に即答はできなかったものの、ありがたい提案だった。
「……どんなお仕事か、とか。学校事務って言われてもパッと出てこないから、一度詳しく話は聞いてみたいかも」
業種も明らかに違うし、本当に今までのスキルが役に立つのか少し不安は残る。
「わかった。それもそうだな。じゃあちょっと教頭にそういう仕事の説明も兼ねて面接出来ないか聞いてみる」
「……いいの?」
「もちろん。俺もみゃーこがうちで働いてくれるならこの上なく嬉しいし。だから俺に任せて」
「ありがとう。先生」
とんとん拍子で次の仕事の案が出て、この街に帰ってくるのがまた一つ、現実的になってきた。
履歴書と職務経歴書を用意しないと。ああいうのは書くのが苦手だから時間をかけてやろう。
明日の帰りに買いに行こうか。
先生に言うと、「じゃあ明日は買い物行くか」と当たり前のように付き合ってくれることになった。
「そんなつもりで言ったんじゃないのに」
「言っただろ?俺がみゃーこともっと話したいんだって」
「……明日も?」
「明日も。本当は明後日もその次も。ずーっと」
優しい表情に見つめられて、私が照れてしまって先に目を逸らした。
面白そうに笑う先生。
やっぱり先生は私をからかって遊んでいるようだ。元生徒を弄ぶなんて、なんて厄介な教師だろう。
「みゃーこは飲んでいいからね」
メニューを開きながら何を頼もうか見ていると、先生にアルコールメニューを渡された。
「え、いいよ。先生飲まないのに私だけなんて」
そのまま先生の車で来たため、先生は飲めない。
「俺のことは気にしなくていいから」
「でも……」
私一人で飲むのは、やっぱり気が引ける。
「……実は俺さ、あんまり酒飲めないの」
「え?そうなの?意外」
酒豪とまではいかないけれど、お酒強そうな顔してるのに。
「弱いのにたくさん飲んじゃって、酔っ払って記憶無くして皆に迷惑かけるから、今職場から酒禁止令出されてんのさ」
「……一体何やらかしたら禁止令出されんのよ」
「……ははは、それは俺も聞きたいくらい」
だから、俺はいいの。みゃーこにまで迷惑かけるわけにいかないから、と。
どこまでが本当の話かはわからないけれど、先生がそこまで言うなら、とハイボールを注文。
好きなお肉をいくつか頼んで、先生も自分の好きなものを頼んで。
すぐに運ばれてきた私のハイボールと先生の烏龍茶。
ジョッキを合わせて、乾杯した。
「みゃーこって意外と酒強いタイプ?」
「んーん。そんなに。でもお酒は好き。こういう居酒屋の空気も好き」
「わかる。俺もこの空気好き。おかわり好きなの飲んでいいからね」
「うん。ありがとう」
先生は本当に嬉しそうに笑う。もしかしたら先生は、誰かがお酒を飲んでいるところを見るのが好きなのかもしれない。
お肉が運ばれてきて、二人で網に乗せる。
お肉の色がだんだん変わるのを見つめていると、先生が口を開いた。
「そういえば、こっちに帰ってくるんなら、仕事はどうする?」
「……それも、探さないとなって思ってる。だからどっちにしてもすぐに帰ってくるのは無理かなぁ」
東京での仕事を辞めるのは簡単だ。事務職だから私の代わりなんていくらでもいるし、辞めたいって言えばすぐに辞めさせてくれると思う。
でも、さすがに無職状態でこっちに帰ってくるのはリスクが大き過ぎた。
転職サイトのアプリをいくつかインストールしようかと思って調べていると、先生は少し悩んだ様子を見せる。
そして、何を思ったか驚きの言葉を口にした。
「……じゃあさ、うちで働けば?」
「……は?」
意味がわからなくて聞き返す。
「うちの学校で働けばいいじゃん」
「……え、いや、私教員免許持ってないし……」
高卒で就職したから、特別な資格は何も持っていない。
「ははっ、学校は教員だけが働いてるわけじゃないだろ」
「あ、それもそうか」
確かに言われてみれば。それもそうだ。
用務員さんもいるし、購買のおばちゃんもいる。
他には……えーっと。どんな仕事があったっけ?
「うちの学校事務の人が二人いるんだけど、そのうち一人がもうすぐ産休に入るからって臨時で欠員募集かけるんだよ。まぁその人が戻ってくるまでの期間限定なんだけど。もしかしたらそのまま雇ってくれるって言うかもしれないし。特別な資格も必要無いし。まぁ大卒じゃないってのはあるかもしれないけど、そこは俺がどうにかするから。みゃーこは事務職経験者だから多分採用されやすいと思うんだけど。……どう?興味あるなら俺が話付けるけど」
学校事務。聞き慣れない言葉に即答はできなかったものの、ありがたい提案だった。
「……どんなお仕事か、とか。学校事務って言われてもパッと出てこないから、一度詳しく話は聞いてみたいかも」
業種も明らかに違うし、本当に今までのスキルが役に立つのか少し不安は残る。
「わかった。それもそうだな。じゃあちょっと教頭にそういう仕事の説明も兼ねて面接出来ないか聞いてみる」
「……いいの?」
「もちろん。俺もみゃーこがうちで働いてくれるならこの上なく嬉しいし。だから俺に任せて」
「ありがとう。先生」
とんとん拍子で次の仕事の案が出て、この街に帰ってくるのがまた一つ、現実的になってきた。
履歴書と職務経歴書を用意しないと。ああいうのは書くのが苦手だから時間をかけてやろう。
明日の帰りに買いに行こうか。
先生に言うと、「じゃあ明日は買い物行くか」と当たり前のように付き合ってくれることになった。
「そんなつもりで言ったんじゃないのに」
「言っただろ?俺がみゃーこともっと話したいんだって」
「……明日も?」
「明日も。本当は明後日もその次も。ずーっと」
優しい表情に見つめられて、私が照れてしまって先に目を逸らした。
面白そうに笑う先生。
やっぱり先生は私をからかって遊んでいるようだ。元生徒を弄ぶなんて、なんて厄介な教師だろう。
1
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
★第17回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました★
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
【表紙:Canvaテンプレートより作成】
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
とろける程の甘美な溺愛に心乱されて~契約結婚でつむぐ本当の愛~
けいこ
恋愛
「絶対に後悔させない。今夜だけは俺に全てを委ねて」
燃えるような一夜に、私は、身も心も蕩けてしまった。
だけど、大学を卒業した記念に『最後の思い出』を作ろうなんて、あなたにとって、相手は誰でも良かったんだよね?
私には、大好きな人との最初で最後の一夜だったのに…
そして、あなたは海の向こうへと旅立った。
それから3年の時が過ぎ、私は再びあなたに出会う。
忘れたくても忘れられなかった人と。
持ちかけられた契約結婚に戸惑いながらも、私はあなたにどんどん甘やかされてゆく…
姉や友人とぶつかりながらも、本当の愛がどこにあるのかを見つけたいと願う。
自分に全く自信の無いこんな私にも、幸せは待っていてくれますか?
ホテル リベルテ 鳳条グループ 御曹司
鳳条 龍聖 25歳
×
外車販売「AYAI」受付
桜木 琴音 25歳
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる