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三日後の水曜日。今週は土曜日が出勤のため水曜日がお休みだ。

今日は偶然にも冬馬もお休みらしく、昨日から泊まりに来ている。

朝食を食べ終えて洗い物を済ませると、冬馬が徐ろに着替え始めた。


「たまには出かけるか」

「いいの?」

「当たり前だろ。いつも何もしてやれてないから、たまにはな」

「ありがとう!嬉しい!」

「しずくはどこか行きたいとこあるか?」

「んー……そうだなあ」


その誘いは嬉しいけれど、いざそう聞かれると中々行きたいところなんて出てこないものだ。

あまり遠くなくて日帰りで行けるところ。二人で楽しめるところ。のんびりできるところ。

天気も良いし、どうせなら観光名所もいいだろうか。

いろいろと考えた結果、スカイツリー付近を見て回ることに。


「クリスマスも出かけられなかったしな。ゆっくりできていいかも」

「でしょ?定番だけど行ったことなくて。私、一度来てみたかったんだ」


東京に来たからにはいつか行きたいと常々思っていたものの、中々タイミングが無く行ったことがなかったスカイツリー。

電車に乗って間近でそのスカイツリーを見ようと真下に来た私たち。見上げても全部見えない高さに圧倒されてしまう。

展望デッキに登ると、経験したことのない高さに一瞬足がすくんだ。

冬馬と手を繋ぎながら、ゆっくりと窓の方へ近付く。


「すごい……」


東京の街を一望できる美しい光景は、昼間でも圧巻だった。

どこまでも続く建物の数々。それがあまりにも小さいからまるでジオラマを見ているみたいで。

普段私たちが住んでいる街をこんな高さから見られるなんて、信じられない。


「すごい!スカイツリーの影ができてる」

「本当だ。すげぇな。こんな風にも見えるのか」


快晴だからか、一直線に伸びる影はスカイツリーの独特な形をくっきりと映し出していた。

時間で影の向きも変わるのだろう。すごく綺麗。


「あ!ねぇあっち!東京タワーも見れるんだって!行ってみよ!」

「ん、わかった」


別の場所を指差すと、冬馬は仕方ないなあと言いたげについて来てくれる。


「あ、あれじゃない?なんかちっちゃく見えるね」

「まぁここから少し離れてるし、そもそもこの展望デッキの方が高いからな」

「東京タワーも十分高くてすごいのにね」


ここから見ると、東京タワーですらミニチュアのおもちゃのようだ。

その後も富士山はどれだと探してみたり、地面が見えるガラス張りの床の上が怖くて歩けなくていい大人が悲鳴をあげそうになったり。

一頻り騒いで、疲れて併設されているカフェで少し休む。


「あっちが俺たちの職場の方だな」

「ふふっ、さすがに小さすぎて何も見えないだろうね」

「だな」


コーヒーを飲みながら見える景色を堪能する。

さらにこれが夜になれば一面綺麗な夜景に変わるだなんて、どれだけ神秘的なんだろう。


「こうやって見ると世界って本当に広いなって思うよな」

「……うん。私も、こんな広い世界でまた冬馬と再会できたのって、すごいことなんだなって思う」

「そうだな」


由紀乃が私たちのことを運命的だと言っていたけれど、こうやって広い世界を見ていると本当にそうなんじゃないかと思う。

お互いがどこにいるかもわからない状態で、この広い世界で再会する確率はどれくらいなんだろう。

きっと、限りなくゼロに等しいんじゃないだろうか。

そう考えるとたまらなく不思議で、今ここにいることが奇跡的で。この瞬間が本当に幸せで。

この幸せを大切にしたいと、心から思う。



まだ見足りない気持ちはあったものの、後ろ髪引かれる思いで次に向かうためにエレベーターに乗る。

今日の冬馬は白いタートルネックのトップスにチェスターコートを合わせていて、とても爽やかでかっこいい。

周りからの視線を集めていることに気づいているのかいないのか、冬馬はいつもと全く変わらない。

私が隣にいて、浮いたりしていないだろうか。

少し心配になる。


「ん?どうした?」


その端正な顔立ちを見上げていると、不思議そうに首を傾げる冬馬。

その仕草がなんだか可愛らしく見えて、笑みが溢れた。


「ううん、なんでもない」

「……変なやつだな」


冬馬が呟いた時に到着したエレベーター。
冬馬に手を引かれ、降りていく。

繋がれた右手が、暑いくらいだ。



その後は併設されている水族館に行ったり、少し場所を移動してプラネタリウムを見に行ったり。

雲のようにふわふわのシートに並んで寝転んで見る満天の星空は息が漏れるほどに美しかった。

夜は夜景が一望できるレストランに行き、コース料理に舌鼓を打った。

おそらく世間で言われる王道のデートコースだったものの、そういう経験が少ないからか、私も冬馬も終始笑顔でとても楽しい時間を過ごすことができた。

その帰り、冬馬の家に戻って少しゆっくりしてから明日の仕事のために家に帰る準備をしている時。


「どうした?俺の服になんかついてる?」

「あ、ううん。そういうわけじゃないの。……その、ちょっとシャツ一枚貸してほしくて」

「シャツ?別にいいけど、どうかしたか?」


ソファにかけてあったTシャツを手に取っていると不思議がられた。

そりゃあそうだろうと思いつつも、「実は……」とその理由を告げた。


「……」

「や、やっぱ気持ち悪いかな……。冬馬の匂い嗅いでると、すごく安心するの。こう、抱きしめられてるって言うか、包み込まれてるみたいで。あったかくて、優しくて。だから一人で眠るのがどうしても寂しくなっちゃって」


冬馬が何も言ってくれないから、私が焦って饒舌になってしまう。

どうしよう、引かれちゃったかな……。気持ち悪いかな……。

冬馬の反応が怖くて、顔を上げられない。
次第に深いため息が聞こえ、びくりと肩が跳ねた。


「……本当、お前可愛すぎる」

「……え?」

「なんだよそれ。ただでさえ今日しずくが帰るの嫌でこのまま泊まってってほしいくらいなのに、そんなこと言われたらもう帰したくなくなるじゃん」


雑に頭を掻く冬馬の顔はほんのりと赤い。


「……気持ち悪くない?」

「どこがだよ。気持ち悪いわけないじゃん。むしろ可愛すぎて今困ってる。え、泊まってく?このまま抱いていい?帰すのマジで嫌なんだけど」

「いやっ、えっと……」

「俺の匂いに包まれたいって?なんだよそれ煽ってんの?俺の服抱きしめて眠りたいって……うわ、もうそれ想像するだけでヤバい」


ガバッと抱きしめられる。


「本当可愛い。なんでそんなに可愛いの?」


私の肩にぐりぐりと顔を押し付けてくる冬馬は、何かに耐えるかのようにずっと私を抱きしめて離さない。


「あー……なんで明日仕事なんだよ。もう本当帰したくない。どうしよう」

「私も本当は帰りたくないけど、仕方ないね」

「ほら、そうやってまた煽る」

「そんなつもりはっ」

「はぁー……本当好き。大好き」


結局冬馬は最後まで私に泊まっていくように言ったものの、それに甘えたら本当に明日寝坊して仕事に支障をきたしてしまいそうだから帰ることにした。

私にTシャツを一枚貸してくれて、無事にその日の私の腕の中には冬馬の服が。

家に帰ってもこれなら寂しさが薄れる。

近いうちに、これが冬馬自身に変わる日を楽しみに。そう思いながら冬馬の匂いに包まれて毎日ぐっすり眠るのだった。

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