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「だから、あの結婚式で冬馬に会えた時、信じられなくて。夢なんじゃないかと思ったの」

「……なんだ。もしかして俺たち、ずっと同じこと考えて生きてきてたのか?」

「ふふっ、そうなのかも。そう考えたらおかしいね。恋愛がうまくいかないなんて悩んでたのがバカみたい」

「本当だな」


お互い、あの約束を糧に仕事を頑張って。
約束が叶わなくても、いつか会えた時に成長した自分を見てもらえるように、我武者羅に頑張った。

なんだ。最初から、私たちはずっと同じ方向を向いていたのか。あの約束を信じていればいいだけだったのか。こんなに悩む必要なんてなかったのか。

でも、だからこそ今再会して、こうやって一緒にいられるのかもしれない。

あの日々があったから、今こうして笑い合えているのかもしれない。

人生って、本当に何が起こるかわからないものなんだなあ。


「でも、そうか。だから雅弥はあの時あんなこと言ってたんだな……」

「え?」

「こっちに戻ってくる日、雅弥と何話してたんだって聞いてきただろ?」

「あぁ、うん」

「あの時、雅弥に言われたんだよ。『姉ちゃんがあんなに幸せそうに笑ってるの、初めて見た』って。『冬馬くんが姉ちゃんが甘えられる唯一の居場所になってあげてほしい。姉ちゃんは誰よりも幸せになるべき人だから』って。『姉ちゃん泣かしたら冬馬くんだろうと許さない』とも言われたな」

「……雅弥が、そんなこと?」

「あぁ」


雅弥がそんなことを言っていたなんて。
弟の成長が嬉しくもあり、少し寂しくもあり。


「……本当、昔からそうだけど、お前ら姉弟仲良すぎて見てて悔しいくらい妬けるわ」


私は本当に周りの人に恵まれている。



「……あれ、山田からだ」

「山田さん?」

「うん。ちょっとごめん」


二人で笑い合っている時にかかってきた電話。

冬馬はスマートフォンを耳に当てると雑な声で電話に出た。


「なに?……あぁ、その話なら今本人から直接聞いた。え?まぁ……ちゃんと言ってなかった俺にも比はあるから。うん、まぁそうだな。……わかった。伝えておく。俺こそ悪かったな」


電話の感じから、それが先日の話をしているのだと思って身体がこわばった。

すぐに電話を切った冬馬は、はぁ、とため息を吐いてからまた私を抱きしめる。


「……電話、私のこと?」

「あぁ。あの場にもしかしたらしずくがいたかもしれないって。もしかして話を聞かれてたら傷つけちゃったかもしれないから謝りたいって。だから伝えておくって言っといた」

「そっか……。私思わず逃げちゃったから、その時に気付いたのかな」

「お前の友達か?"しずく"って呼ぶ声が聞こえて、俺がそう呼んでたのも聞いてたからもしかしてって思ったらしい」

「ああ……なるほど」


由紀乃が走る私を呼んでたっけ。そこで気付いたのだろう。


「なぁしずく」

「ん?」

「一つ、提案があるんだけど」

「なに?」

「……一緒に住まないか?」

「それって、同棲するってこと?」


頷いた冬馬は、さらに続ける。


「お互い仕事で忙しいし、予定を合わせるのも大変な時期もある。そうしたら今回みたいになかなか会えなくて、もっと大きなすれ違いが起きることだってあると思うんだ」

「うん」

「それに、俺は純粋に毎日しずくの顔が見たい。声が聞きたい。まだ結婚じゃなくてもいい。一緒に住んで、少しでもしずくと一緒にいられる時間を多く作りたい」

「冬馬……」

「実は俺、近い将来独立することも考えてて。まだまだ夢みたいな話だけど、通常の仕事の他にその準備もするために今必死で勉強してる。これからもっと忙しくなるんだ」


三十歳の年から独立を考えてるなんて、本当にすごい。


「でもこれ以上しずくに会えない日が続くとか無理。今回みたいにしずくが泣いててもすぐに会いに行けないかもしれない。しずくが不安で一人で泣いてるなんて俺が耐えらんない。苦労もかけると思う。だけど、寂しい思いはさせたくない。だから、一緒にいたい」


冬馬の想いが、胸に染み渡る。

その想いを私が断るわけないじゃないか。


「うん。私ももっと冬馬と一緒にいたい」

「……しずく」

「苦労って言ったって、私たち昔からずっと忙しくて大変だったんだもん。今まで一人で背負ってたものが、二人になるだけ。半分こできるなら、絶対その方がいい。私も冬馬に会えなくて寂しかったし、頑張ってる冬馬を一番近くで支えたい」


だから、一緒に住もう。


「しずく。ありがとう」

「こちらこそ。ありがとう冬馬」


ぎゅううう、と苦しいくらいに抱きしめられて、甘い甘いキスをされて。

そのままベッドに移動して押し倒されて。

覆いかぶさった冬馬が私の服の中に手を入れる──と思ったものの。


「……冬馬?」

「……」


抱きしめたまま動かない冬馬の顔を覗き込めば、かすかな寝息が聞こえてきた。


「……ふふっ、寝ちゃったの?」


安心したのか、疲れが押し寄せたのか。

スイッチが切れたように私の上で眠ってしまい、段々と重くなってくる。どうにか起こさないように抜け出して、ゆっくりと布団をかけた。

脱いであったスーツのジャケットが皺にならないようにハンガーにかけて、冬馬の荷物もベッドの脇に置いておく。


「……充電もしとくか」


冬馬のスマートフォンをテーブルの上から持ってきて、充電器を挿す。

すると、


「……ふふっ、こんなとこまで私と一緒だ」


明るくなった待ち受け画面が、帰省した時の新幹線の中で撮った私とのツーショットで。

自分のスマートフォンと並べて、全く同じ画面を見て笑う。

同棲したら、こんな穏やかな時間が毎日続くのか。

それを想像して、思わず顔がにやける。

残っていた家事を終わらせて、私も布団に潜り込む。


「……毎日お仕事お疲れ様。おやすみ冬馬」


ちゅ、とその唇にキスをして、冬馬に擦り寄るように眠りに落ちた。


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