最強の奴隷

よっちゃん

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素直

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パティオス陛下は少しふらつく足取りで、彼女の待つ皇室へ行く。

皇室のドアを開けると、暇そうに奥の広いプールで寛いでいる彼女の姿が目に入る。

陛下は魔法を使い、着ている服を脱ぎ、水着姿に一瞬で着替える。

そして、彼女の浸かるプールへと真っ直ぐ歩み寄る。

「こんな時間に、寒くないのか?」

陛下はプール中央で、水泳用着姿で身体を浮かしている彼女に向かって声をかける。

「寒くないわ。温水プールにしておいたもの。」

そう彼女の返答を聞くと、安心した様子で、陛下もゆっくりと温水プールに浸かり、彼女の元へと近づいて行く。

「あら。顔が真っ赤ね。沢山飲んで来たのかしら?あまりお湯に浸からない方がいいんじゃないの?」

「ん?あぁ。大丈夫だ。心配するな、俺は酒で酔ったことはない。」

「フフッ…。そう。目も虚に見えるけど。」

「あぁ。ガンドラに貰ったガムを口にしてから、なんだか目が回っていてな。」

「そう。ガムで酔うこともあるのね。」

彼女はクスッと笑いながら、水中に立ち、濡れた髪の毛を上に結び上げる。

「信じてねぇだろ…。」

陛下はムスッとした表情を見せながらも、彼女の前に立ち尽くし、近距離を保つ。

「ガンドラ国王は眠りについたの?」

「ん…。あぁ。今頃は客室で爆睡しているだろ。」

「そう。ありがとう。」

陛下の臍部の辺りまである温水プールの水位は、彼女では胸郭部までの水位であった。

陛下は少しクラクラとし出した意識を正常に保とうと、プールの奥にある滝の方に目をやり、遠くを見つめる。

「今回は催眠をかけたが、次にある定例会の時はそうはできない。国王たちの相手も、奴隷の立派な仕事だからな。誰だって嫌な仕事や、好きな仕事はあるだろ。嫌なことだけを避けて通るのはお門違いだ。この宮殿に入り、奴隷契約を交わした時点でそれも含めて避けることはできない。内容的には倫理に欠けるかもしれないが、時としてそれは必要だ。まぁ、俺には必要ないし、理解もできねぇがな。」

陛下は片手で前髪をかき上げながら、静かな声で彼女を諭すように語りかける。

「そうね。今日は感情的に動き過ぎたわ。私は日の当たる存在に、なってはいけないのに。」

「そんなことはないだろ。」

「……昨日はごめんなさい。本当はあんなこと、思ってないわ。あなたの奴隷期間が終了したら、自分の住処に戻って、今後の余生は代々託されてきた責務を全うして生きていくつもりよ。あなたと会ってから、私の中のこの世界に対する中立性が揺らぎ始めている気がするの。言われた通り、奴隷期間である以上、明日からは奴隷の業務を全うすることにするわね。」

彼女は陛下の顔を見上げながらも、優しい口調で語りかける。

「なんだよそれ…。勝手に自己解決すんな。」

「…え?」

「俺は…。……ッ。」

陛下は言葉を詰まらせて、彼女から視線を逸らす。

「俺は、お前…いや、ルビーのことが必要だ。正直、お前が来てから毎日お前のことばかり考えてる。だから…。」

彼女は目を大きく見開いて陛下を見つめる。
陛下は話しながら彼女に視線を戻すと、その大きな眼差しを前にして恥ずかしさが込みあがる。

「……ッ。。だから、俺はお前とこれからも一緒に居たい。」

そう言って、陛下は姿勢を落として彼女に優しくキスをする。

彼女は驚きのあまり、じっと姿勢を崩さずに立ち尽くしていた。

陛下はそのまま彼女に抱きかかるように眠りに入る。

「……え…?」

いきなり睡魔が到来し、眠りにつく陛下に彼女は驚きつつも、嬉しさと混乱の交わう気持ちが込み上げてきた。

「もう。やっぱり、お酒が回ってるんじゃない。」

彼女は魔法で雲型のマットをプールの水上に作り出し、陛下を支えながら一緒にマットの上にのる。

更に魔法で、雲のマットの上にフカフカのマットレスと枕と毛布を作り出して、温水プールの水面上で、滝の音を聞きながら陛下の横に肩を並ばせる。

陛下の紅潮した顔を眺めながら、彼女は優しく微笑む。

普段は冷徹で冷たい陛下が、今は隙だらけの無防備な姿であり、彼女に対してだけは唯一気が許せる憩いの時間であった。

「ルビー…ね。」

彼女は陛下のスヤスヤ眠る顔を眺めながら、哀しそうな表情を浮かべる。

「こんな気持ちは初めてよ。私を必要としてくれて、ありがとう。」

彼女は眠りについている陛下に声をかけながら、陛下の顔に軽く触れる。

その時、彼女の脳裏に突然魔界からのコールが鳴り響く。

彼女は瞳を閉じて、そのコールに応答する。

『やぁ、001番。邪魔したかな?』

『いえ。何の御用でしょうか?』

脳裏内のコールの主は、魔王からであった。
魔王は脳裏にコールをすることで、その相手の下界での様子を透視することができる。

『あぁ。お前は、よく知っていることではあると思うが、3日後の夕刻に120番の新しい任命式を行う。もちろんお前への罰則も用意してある。詳しくは、任命式にて伝える。それでは。』

そう簡潔に言い残して、通信は途絶える。

幸せな一時が一瞬にして変わり、複雑な気持ちへと切り替わる。

それでも、“今だけは”と思い、陛下の横に身体を並べて彼女も深い眠りについた。
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