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感謝祭4
しおりを挟むパディオス陛下が彼女に視線を送る中、彼女は黙々と歩き、奴隷たちの列に参列する。
ステージ上に上がると、横一列に並べられている丸椅子に腰掛ける。
彼女以外の奴隷たちは、緊張のあまり俯き、目を閉じている。
奴隷たちは客席に対して背を向けているため、背後の様子は知る由もない。
「それでは国王様方はステージ上に上がっていただき、お気に召した奴隷を1人選んでいただき、ペアを作ってください。奴隷の容姿を確認したい場合は、ご遠慮なくご確認ください。選ばれた奴隷は客席に対して正面になるように、向き直して座ってください。最後まで選ばれなかった奴隷は、速やかにステージ上から退出してください。それでは国王様方、よろしくお願い致します。」
司会がアナウンスをかけるや否や、パディオス陛下を除く国王たちは、鼻息を荒げてステージ上に続く階段を上る。
「おい、司会。俺は舞踏会には参加しないが、ステージ上の上座に座っていいのか?」
パディオス陛下は声を張り上げて、司会の男に対して質問する。
毎年続く定例会の舞踏会では、何も言わずにステージ上の奥中央に用意されている上座(王座椅子)に勝手に座る陛下が、今回に限って何故そんな質問をしてくるのかが理解できずに、司会の男は一瞬キョトンとした顔を見せる。
「もっ…、もちろんでございます!現在奴隷が座っている椅子の奥に上座をご用意しておりますので、各国王様方がペアの選択後に、そちらへご移動していただく形でして…。言葉足らずで、大変申し訳ございません。」
司会の男は、マイクを通しておそるおそるパディオス陛下に説明する。
パディオス陛下は立ち上がり、立ち止まっている他国の国王たちを追い抜かしてステージに上がる。
「あ…あの、パディオス陛下?」
司会の男は、不安そうにパディオス陛下を見つめる。
「あぁ?もう座ってても構わないだろ。」
「もっ、もちろんで御座います!」
パディオス陛下は司会の男に睨みを飛ばしてから、ステージ上の奥にある上座へと足を運び、ドスンと勢いよく腰を掛ける。
客席に対して背を向けて座っている奴隷たちと、上座に座るパディオス陛下とは対面する形となり、パディオス陛下の顔を正面から見る事のできる奴隷たちは嬉しさのあまり喜びの声をあげる。
他国の国王たちは、パディオス陛下の異常行動に真意が掴めず、足を止めたまま茫然と立ち尽くす。
「俺は舞踏会には出ないが、みんな楽しんでくれ。」
パディオス陛下の、彼らしくない発言に、他国の国王は動揺するも、また動き出し歩みを進める。
パディオス陛下の凛々しく眉目秀麗な容姿に、彼女を除く奴隷たちはうっとりと見惚れて、先程まで下を向いていた視線は、パディオス陛下に集中して注がれる。
自分(パディオス陛下)が舞踏会に参加しないと彼女の耳に入るも、彼女が席から微動だにしないのを見ると、陛下の不安は更に増強する。
No.2のガントラ国王は、迷いなく彼女の背後に歩み寄り右手で肩を叩く。
「よぉ、姉ちゃん。あんたに決めたぜ。」
彼女はパディオス陛下に背中を向ける様にして、丸椅子を回転させて、ガントラ国王の方を向く。
彼女はガントラ国王に向けて、ニコリと微笑む。
他の奴隷たちの心の中では、ガントラ国王の相手を免れたという安堵と喜びの気持ちで、心がいっぱいになる。
「1組目のペアが決定致しました!ガンドラ国王と……」
『ガタッ!!』
司会の男がアナウンスする中、パディオス陛下は勢いよく上座から立ち上がる。
司会の男は、何か自分がパディオス陛下の癇に障ることをしたのではとビクビクしながら震え上がる。
「気分が変わった。俺も舞踏会に参加する。」
パディオス陛下のその言葉に、会場一同は響めき出す。
何事が起きているのか呑み込めないまま、パディオス陛下の意見を踏み躙らないように、司会の男は言葉を絞り出す。
「そっ、それでは順番変わりまして、まず始めにパディオス陛下より奴隷の選択をお願い致します。」
ガントラ国王は、パディオス陛下が彼女を選ぶであろうことを予期して、彼女の側から身を引き、数歩下がってパディオス陛下を見守る。
パディオス陛下は、不機嫌そうな顔を浮かべながら彼女の元まで歩み寄る。
彼女の前に背中を向けて立つも、何も喋らないパディオス陛下に向けて、司会の男は動揺しながら声をかける。
「あのっ、パディオス陛下。お相手は奴隷10番ということで、よろしいでしょうか?」
「あぁ?誰でもいいが、こいつで構わない。」
パディオス陛下は声を荒げながら、腕を組み司会にそう告げる。
彼女に対して大きな背中を向けるも、高身長かつ男らしさが滲み出る後ろ姿からは、とてつもない威圧感を放っていた。
「かしこまりました!それでは、1組目のペア、決定でございます!」
他の奴隷たちからは、嫉みと憎しみの感情を持った視線が彼女に対して向けられる。
彼女は、他の奴隷たちが嫌がっていたNo.2のガントラ国王の相手をして、夜になったら彼女の持つ魔力でガンドラ国王を気絶をさせて一晩やり過ごす計画であったが、パディオス陛下の突然の行動に計画が崩されるも、その顔には少し嬉しげな表情が浮かんでいた。
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