最強の奴隷

よっちゃん

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侵入

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2人はガーゼア国の国境付近まで空中を高スピードで飛んで行き、近くの雑木林に降り立った。

ガーゼア国までは、隣国の同盟国である国を超えて行くため、出発時は朝方であったが、到着は夕方近くになっていた。

「ガーゼアの国王は警戒心がとても強く、国を中心とした半径数100キロメートルの範囲内で発生する魔力を24時間常時、感知している。誰のものとは分からずとも、大きい魔力は使わない方がいいだろう。」

「ガーゼアの国王さまは、どのくらい強いのかしら?」

「さぁな。俺も3000年近く生きて来て、王の姿を見たことがない。だが、ガーゼア国民の攻撃魔法は、全くもって素人だ。他国との同盟も結ばず、孤立した国として気にも止めていなかった。だが、数万人もの兵士を捕虜できる力があるとなると、何かあの国には秘密兵器でもあるのかもしれないな。」

2人は雑木林の影から、遠くに見えるガーゼア国を眺める。

「赤外線で無数に国全体を覆っているそうだけど、遠くから見るとそんな風には見えないわね。」

「あぁ。透視魔法で見れたのは、そこまでで、ガーゼア国内までは魔法が遮断されて見ることができなかった。」

夕方時の空は赤く染まり、雑木林の空にはカラスが沢山飛んでいた。

風が強まり、向かい風が2人の身体を吹き抜ける。

「なら、1つだけ私の知っている情報を教えてあげるわ。今日は、ガーゼア国では大きなお祭りが執り行われているわ。」

陛下は驚いた表情で彼女を見る。

「なぜそれを知っている?」

「私は、ただ何もせずに生きているだけではないのよ。この底知れぬ魔力は、持つべきして生まれた”意義″があるの。その″意義″を果たす上で、世界を正すための断片的な記憶や映像なら見ることができるわ。まぁ…今は私の話よりも、捕虜兵を助け出すことが先決のようね。私も、ガーゼア国がこれから何をしようとしているのか、未来は見ることができないの。今日は、毎年、同じ日に行われている神に生贄を1000体捧げる日なの。」

「そうか。始めて自分のことを話したな。お前のその存在意義というものを、落ち着いた時に、後で俺にだけは話せ。それで、その生贄が、我が国等の兵士たちということなのか?」

「いいえ。生贄になる人や順番は、生まれた時から国民に決められていて、ほとんどの人たちは、生贄に捧げられることを誇りに思っているわ。」

「そうか。祭りをしているなら、こちらにとっては、侵入するのに好都合だな。今から1ミクロンの粒子になって、赤外線に触れることなく通過して侵入するぞ。」

「えぇ。」

2人は魔法により、小さく肉眼では見えないほどの粒子となる。

この形を縮小する魔法は、難関ではあるが、魔力の大きさ自体は、その物体と同様に小さい。

粒子となった2粒は、速度を徐々に加速させながら、ガーゼア国へと向かった。

網状に張り巡らされている赤外線は、実物体では見えなかったものの、粒子にまで小さくなったことにより、大きく四角い赤い網穴をくぐり抜けるような感じで、2粒は赤外線を通過していった。

ガーゼア国の雰囲気は、お祭りというだけあって、騒がしく賑やかであった。

雪景色の街並みに、鋭い円錐型の住みづらそうな家が、ズラっと規則正しく建ち並んでいた。

街のそこら中から、陽気なジャズ曲が流れていて、沢山の人がランタンを片手に、身体を温めるかのようにお酒を飲んでいた。

雪で一面埋め尽くされている地面には、丸型の小さめの雪灯籠が並べられていて、幻想的な風景であった。


粒子になっている2粒は、人々の行き交う頭上から街中を通り抜け、国の中央に位置する城へ行き、城を囲む高い塀を難なく乗り越えて、城の裏側に周り込み粒子から元の姿に戻った。

人の姿に戻るや否や、2人は寒さで身震いをした。

「この国の外では全く雪が降っていなかったのに…。この雪景色は予想外ね。」

彼女は、微笑しながら陛下に言う。

「あぁ。それに、想像以上のお祭り騒ぎだったな。」

異国の地に降りたたった2人は、見慣れない景色に少し戸惑いを感じていた。


「お城の塀を登って来たものの、この国の情報は、お祭りを行っているということ以外は皆無ね。お城の正面に立っていた護衛は1人だったけれど、いくらなんでも護衛が希薄すぎるわね。」

「あぁ。俺も同じことを考えていた。そして、この城からは人の気配が全く感じられない。」

城の高さは、下から見上げてもてっぺんが見えないほど聳え立っていた。

城の窓は全部閉めきられており、城の壁全体はかなりの年季が入っているようであった。

「魔法は使わず、中へ入るぞ。」

陛下はそう言って、城の後ろに幾つかある内の木製のドアを蹴破って、一蹴りで開けて見せた。

「あら、随分と乱暴ね。」

そう不服を言いながら、陛下の後を追うように、彼女も城の中へと入っていった。




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