最強の奴隷

よっちゃん

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変化

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その日を境に2人の距離は次第に近づいていき、お互い徐々に心を開いていった。

それから月日が流れ、3ヶ月後のこと。

いつもと変わらない、静かな朝。

彼女が目を覚まして、ベットから身体を起こすと、いつも見る皇室内の様子が少し変化していた。

左端と右端の両極端に置かれていたはずのベット。
その右側にあった陛下のベットが、皇室の部屋中央のど真ん中に置かれていた。

そして家具の位置も、やや中央寄りに配置され、無かったはずの食事用の縦15メートルほどある大きめのテーブルが、プールとベットの縦中間あたりの位置に置かれていた。

彼女はベットから降りて、陛下の寝ているベット中央まで歩いて近づく。

皇室の広さは横縦共に100メートル程であるため、左端から中央に行くだけでも50メートルはあるため、40秒程はかかる。

中央まで行くと、部屋の中央に引かれていた境界線の糸が無くなっていることに気づく。

彼女は不思議そうに、中央からみる皇室の景色を眺めてから、陛下の寝ているキングベットの左端に腰掛ける。

陛下は、彼女側に背中を向けて横になっていた。

「おはよう。」

手を伸ばしてもギリギリ届かなそうな距離で寝ている陛下の背中に向かって、彼女は声をかける。

「あなたが、人の気配に気付かずに起きない訳がないわ。起きているんでしょう?」

彼女は、クスッと笑いながら問いかけた。

「あぁ。」

陛下は背中を向けたまま、寝起きの少しかすれた声で返す。

「これは、どの様な心境の変化なのかしら。」

「ん…。なんのことだ?」

「2人で決めた境界線がなくなって、あなたのベットが元あった境界線のちょうど真ん中くらいにある様だけど。」

「あぁ。お前が来る前と同様に戻しただけだ。別に何の心境の変化もない。」

「へぇ。そうなの。これが国境だったら、戦争ね。」

彼女は少しからかうように言う。
陛下は、まだ身体を起こさないまま横になっていた。

「お前は俺の奴隷だ。ここが国境だったとしても、両方俺の領土だ。」

「あら。敵対する相手に、そんなに安心しててもいいのかしら?国境がなくなったのなら、敵がいきなり襲撃してくるかもしれないわよ。」

「あぁ。なら襲撃してみろ。」

彼は背中を向けたまま、そう言い放つ。
その無防備な背中には、孤独さが窺えた。

そこに【ポポポポポッ!】という高音が鳴り響く。
シャボン玉の形をした、通信機の音だった。

陛下は、即座に上半身を起こし、魔法で髪型、服装を整えて、通信機の方に魔力を込めると、シャボン玉が大きく広がり、中に軍服を着た上級階級兵士の顔が浮かび上がった。

「なんだ。」

いつもと声質の違う陛下の低音の声が、静かな皇室に響き渡る。
明らかに不機嫌そうな声であった。

「陛下、朝早くから申し訳ございません。緊急の連絡がございまして、申し上げてさせていただきます。」

「あぁ。」

「我が国の敵対国ガーゼアに向かった兵士2万名の者たちが、消息を立ちました。更に、同盟国の兵士たちも、ガーゼア国にて行方がわからなくなっているという状況です。同盟国からは、本日中にでも新たに兵を送り込むとの通達が先程ございました。しかしながら、防御魔法に特化したガーゼア国に追兵するのは、愚策だと思いまして、陛下の考えをお伺いしたくございます。」

「ガーゼアは、攻撃魔法は微力であるが、科学系や防御系魔法の才能は群を抜いている。魔力を感知する防衛赤外線が、数ミクロンの幅で、網状に国全体を囲うという防御魔法が最近完成したとのことで、偵察に行かせたのだが、捕虜されたか。」

「はい。現在、テレポート魔法を遮断されてしまい、空間通過できないようになっております。」

「そうか。追兵を送るとなると、赤外線に魔力を感知される。こちらの捕虜が多いとなると、不利だな。1ミクロンの粒子になって、網状の隙間を通り超え、中の様子を偵察してから捕虜を取り返し、ガーベアを潰す。」

「陛下、1ミクロンの小ささになるのは超高度魔法でございます。わたし共、上級兵でも難しいかと思われます。。」

「そうか……。なら、俺が行く。同盟国にも、そう伝達し追兵を止めよ。」

「なっ、、!陛下をお1人で、敵国へ行かせる訳にはいきません。」

「俺の決定だ。口答えするな。それに、もう1人連れて行くから心配するな。」

「はっ!大変申し訳御座いませんでした。どうかご無理だけはされないよう、お願い致します。」

「あぁ。俺が不在の間、この国はリーベル、お前に任せる。頼んだぞ。」

「はっ!かしこまりました!」

通信を切り、静まり返る皇室。
陛下は、ベットサイドに腰掛けている彼女の方に視線を送る。

「直ぐに出掛ける支度をしろ。ドレスは着替えて軍服を着ろ。」

彼は魔法で宮殿にあるドレッサールームから、新品の軍服を2着、テレポートさせて、ベットサイドと自分の手元に置く。

「それは、私も一緒に、その敵国へ乗り込めってことかしら?」

「あぁ。」

「いいわ。でも私は、あくまであなたを補助するのであって、私が判断し行動することはないし、私が歴史を変える様な魔法は使わないっていうのは頭に入れておいてね。」

「…?どういうことだ?」

「まぁ、めんどくさがり屋の戯言程度に捉えてくれればいいわ。」

彼女と陛下は、一瞬で軍服に着替えて、皇室奥の部屋の窓まで魔法で飛んでいき、外へ出て、宮殿を後にした。

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