一なつの恋

環流 虹向

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海が見える小さい公園で1人、夜空を眺め朝が明け始めたことに気づいて砂浜に降りてから何時間経っただろうか。

こんなに朝が明けていれば電車もバスもどこも始まっているけど、まだ乗る気になれない。

まだ、みんなに会おうって思えない。

今日になったら行くって決めてたけど、やっぱりまだ何もする気になれない。
学校に行くのも、奏たちと会うのも、歩くのも、立ち上がることさえ嫌になる。

俺は足元の流木を手に取り、砂浜に姐さんの絵を描くけど風が強くてせっかく描いても歪んでしまう。
消えていくその姐さんがあの日の夜を俺に思い出させてまた涙が出てくる。

俺は流木を投げ捨てて1人うずくまり泣き疲れて眠れるのを待っていると、不審者だと思われたのか俺の肩を誰かが叩いた。

俺は下を向いたまま、顔を少しあげた。

一「ちょっと…、眠くて。座ってました。」

「そっか。」

と、その女の声は幼い頃ずっと一緒に遊んでくれた女の子の声で、声がした方へ顔をあげると音己ねぇがいつものようにすっぴんでだる着のまま俺の隣に座った。

一「…なんでいるの?」

俺が質問すると音己ねぇは海が見たかったからと答えて、近場のコンビニで買ったのか俺に冷たい牛乳パックをくれた。

俺は貰った牛乳パックにストローを挿して乾ききった喉を潤す。

こんなに牛乳って甘いものだったんだな。
この間含んだ時は味なんて考えもしてなかった。

一「音己ねぇ、仕事は?」

俺は音己ねぇの喉を鳴らすサイダーの音を聞きながら質問する。

音己「ニートでーす。」

一「…は?この間、決まったって言ってたじゃん。」

音己「セクハラじじぃの首絞めたらクビにされた。」

袋からモナカアイスを出し、両手に糖分を抱えながら無職になったと平然に言う音己ねぇ。

一「…腹減った。」

音己「半分な。」

と言って、割って渡されたのは小さい方のモナカアイス。

こんな時でさえ自分を優先してしまういつも通りの音己ねぇが好き。

俺は貰ったモナカアイスを食べてると音己ねぇの携帯が大音量で鳴り、音己ねぇはのんびりと電話に出た。

音己「…ん?いた。」

音己ねぇはモナカアイスをバリバリと食べながら電話の相手と話す。

音己「まだ。後で帰る。」

と、淡白に電話を切って最後の1口を食べ切った音己ねぇ。

一「誰から?」

音己「男。」

仕事は無くなったけど彼氏が出来たのかと思い、羨ましくて俺はまた涙腺が緩む。

音己「なんか食べに行く?」

一「…今の時間、空いてるとこある?」

音己「知らない。」

音己ねぇは立ち上がり、スウェットのショートパンツについた砂を叩き俺に手を伸ばす。

音己「行こ。」

一「…うん。」

俺は音己ねぇの手を掴み、引かれるまま海岸近くの駐車場に行くと停められていた音己ねぇ愛車のベスパにはヘルメットが2つ置いてあり、1つを手渡される。

音己「江ノ島?」

一「音己ねぇの好きなとこで。」

音己「分かった。」

俺は音己ねぇの後ろに乗り、連れていかれるまま湘南の道を走った。




→ TSUNAMI
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