一なつの恋

環流 虹向

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奏が来ると聞いた夕方から俺は病院に行ってくると行って外に出たまま、いつものハイカラ町に来ていた。

そこには馬鹿騒ぎしている俺と同年代の奴ら、平日から酔ってる呑み会帰りのおじさん、フリフリの可愛い服をツインコーデしてホストに向かう女たち、いろんな人が街に溢れかえっていて1人でもぼーっと眺めているだけで気が紛れる。

そんなことしたって時間が無駄なのは分かってるけど、何も考えたくないし少しでも何か頭を使えば昨日の姐さんのことを思い出して涙が勝手に出てくる。

開店前に姐さんの店の前で待ってみたけど、姐さんは風邪で休むからと社員の人が開け作業に来ていた。

きっと俺を避けるためだろう。

さっき携帯のバッテリーが切れていたるあくんからメッセージが来て一安心したけど、友達と遊んでるとこに合流するかと聞かれた。
けれど、今新しく出会った人と会話する気にもあまりなれなくて断ってしまった。

俺はマスクで涙を隠しながら、バルのテラス席で朝食のブラッティマリーを呑みながら手帳を開く。

300枚近くあるページは大体埋まってしまっていて、あとは汚れまみれの裏表紙くらいしか昨日の出来事をまとめるスペースがない。

俺は汚い裏表紙に自分が姐さんに出来ること、姐さんが俺に何を求めたかをまとめることにしてみた。

限りあるスペースにしばらく書き綴っている中で思ったことが1つ。

俺があの日、頭を打つような真似なんかしなければきっと医者の道を歩んでた。
真面目に勉強して、たくさんの人の命を救いたいとか語って、音己ねぇとも疎遠にならないで済んだし、もしかしたら姐さんの病気さえなんとか出来たかも知れないのに。

なんでこうも俺は生きるのが下手なんだろう。

自分の好きなことは必ず誰かを救うようなものでも、誰かの助けになる訳でもない。

ただの自画自賛するだけもの。

それが俺の承認欲求を満たしてくれると思ってここまでやってきたけど、大半の奴らは全く別の意図を考えそれが公式であるかのように語る。

それがとても悔しい。

どんなに自分を表現しようとしても大衆の声には本人の思いが嘘になってしまう時がある。

大衆が俺の作品から出る孤独感が好きと言ってたくさんフォローしてくれたけど、そんなの思って描いたことはない。

俺は俺自身をたくさんの人から見てほしいと思ってただ描いて、話して、想いを乗せたのに期待違いの評価をしていく。

俺は好きなことをやっても自分を好きになれない。
好きな人が出来ても好きをちゃんと渡せてあげれない。

こんな俺はいない方が誰の気を使わせることもなくなるから存在しない方がいいんだろう。

俺は書き途中の手帳とペンをカバンに投げ入れて立ち上がり、酒を一気に飲み干しあてもなく街を歩き始める。

これから何しよう。

俺は思いつきで電車を調べて藤沢行きの切符を買う。

今から遠くに行こうと思ってもこのくらいの距離しか行けない。

昨日せっかく稼いだ生活費を少し削って俺は1人ロマンスカーに乗って朝焼けの海を見に行くことにした。




→ 夜の恋は
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