エンディングノート

環流 虹向

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BIRTHDAY

ふたりの秘事

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成くんの車で昔信之が住んでいた街に私を運んでもらった。

今日の私は信之といられない時間を信之と思い出のある場所で過ごすことにした。

成「寒くない?」

と、成くんは冬の海からくる風を浴び、少し体を震わしながら私にマフラーをかけてこようとしてきた。

明人「ううん。冷たいのが首に当たるの好きなんだ。」

私はわざと冬を感じられるように空けてる首元に信之以外の温もりが来ることを拒否する。

成「そっか。風邪ひかないでよー。」

と、マフラーを巻き直した成くんは近場のコンビニで買った肉まんを食べながら暖を取り始めた。

成「そういえば明人って実家帰んないの?」

明人「2月に帰る予定。成くんは?」

成「俺は時間ある時、頻繁に帰ってるからお盆以外の行事ごとでわざわざ帰んなくていいかなって。」

意外と家族大切にしてるんだ。
ちょっとだけきって思ったわ。

明人「意外。仕事と遊びしかしてないと思った。」

成「そんなことないよーん。明人と仕事とお出かけが俺の大切なこと。」

明人「え?家族は?」

成「お出かけの中に含まれてる。」

上がった株がもう暴落したわ。
これはさすが過ぎる。

成「…明人、あの日なにかされた?」

と、私は成くんの市場価格に頭が痛くなってると成くんは肉まんを食べ終え、私にホットレモンを渡しながらそう聞いてきた。

明人「あの日?」

成「お別れ会のごはん作ってくれた日。」

…そういえば、使った分のゴムを戻してなかったかも。

あの日はもう全部が真っ暗で自分の意識がほろほろしてたからよく分かんないな。

明人「…あんま覚えてない。お腹痛かったし、眠かったから覚えてない。」

私は手にあるホットレモンであの日鍋つかみの手袋から感じたグラタンの温かいお皿を思い出し、涙が出そうになるのをぐっと抑える。

成「シーツ、ちょっと血ついてた。…女の子の日だったのかな。」

明人「うん。汚してごめんね。」

成「ううんっ。いいよ。洗えば落ちるから。」

そう言って成くんはいつまでもホットレモンを飲まない私の肩を抱きしめた。

成「莉音とは縁切った。謝れない人好きじゃないし、明人の元彼ってだけで腹立つたし、明人に嫌なことする人嫌いだから。」

明人「…せっかく、友達になったのに。」

成「友達にするなら信之さんみたいな人がいいな。たくさん感謝伝えたり出来る人好きなの。」

明人「わたしも…、すき。」

成「うん。好き。」

成くんは私が静かに溢れ出てしまう涙を肌心地のいいニットで何も言わずに拭き取ってくれる。

明人「…信之に、いわないでっ。」

1人の秘密だと思っていた私は信之にバレて傷ついてほしくないから、全部を知ってしまった成くんにお願いする。

成「うん。俺からは言わないよ。2人だけの秘密。」

明人「ありがと…っ。」

私はあの日の心の拠り所が出来て、あの日からずっと寂しさを生み出していた元凶を流れ落とすように涙が出る。

成「あとでお汁いっぱいのラーメン食べに行こうね。」

明人「…うん。」

私は成くんの腕の中であの日を捨てるようにして、目から気持ちを全て吐き出した。


…………
今だけ、成くんよきだよ。
…………


環流 虹向/エンディングノート
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