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雲の上に
110:00:12
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「紅茶しかない。ごめん。」
と言いながら稜平さんは鉄瓶でお湯を沸かし、私にホットティーを作ってくれた。
幸来未「ありがとう。砂糖ある?」
稜平「砂糖は麻薬だから置いてない。」
幸来未「…麻薬?」
稜平「糖分は過剰摂取すると依存症になって、体をどんどん壊してくの。だから自分の家には米とフルーツくらいしか糖があるものは置いてない。」
そう言って、稜平さんはそばにあったフルーツボールからりんご1つを取り出し、器用にカットして夜景がよく見える窓のそばにあったローテーブルに置いてソファーに座った。
私もその隣に座り、久しぶりに渋味を強く感じる紅茶を一口飲んでミルクもないのかなと考えてしまう。
稜平「…砂糖はないけど、はちみつなら貰い物であったかも。」
私の眉を伸ばした稜平さんは私の甘いもの好きを察し、キッチンの戸棚からとっても小さな瓶に入った黄金のはちみつを持ってきた。
稜平「俺は使わないからあげる。」
幸来未「…ありがと。初めてはちみつ入れるかも。」
私はとろっとしている黄金のシロップを紅茶に落とし、いつもの砂糖と同じ甘さになりそうな分量を入れていると稜平さんがその手を止めた。
稜平「え?入れすぎじゃない?」
幸来未「え?これが普通だよ?」
私はカップの地底にあるはちみつがカップを底上げしている量を見て、まだひとスプーン分足りないのを確認する。
稜平「こんな入れたら白砂糖じゃなくても、依存症になるよ。」
と、稜平さんは私からはちみつの瓶を奪い、蓋を閉めてしまった。
私は思った味にならなかった紅茶を一口飲み、初めて紅茶とはちみつの蜜の香りを口いっぱいに広げる。
その顔がまださっきよりマシと思った稜平さんは紅茶を一気に半分飲んで、りんごを一欠片食べた。
稜平「凛太郎は依存のせいで今は文無しなんだ。だから俺の所で雇ってたけど、限界が来てるのかも。」
そう寂しそうに呟いた稜平さんはまたりんご一欠片食べた。
幸来未「でも、今さっきまでエリアマネージャーだったし、店長勤めてるならそれなりにお金は稼げてるんじゃないの?」
稜平「稼いでも出ていっちゃうの。なんでだと思う…?」
なんで…?
稼いでも文無しってことはギャンブルとかショッピングな気がするけど、ギャンブルはあんまり得意そうじゃなかったし、ショッピングはブランドっぽいものやお高めな小物を一切着けてこなかった凛太郎さんにはあんまり考えられない。
ってことは、お金を使って何か残るものを買ってないってことになるけど、何になるんだろう…。
私がしばらく考えていると、稜平さんは開いた片手を私の前に出した。
稜平「ミウ、エリカ、セナ、ノノ、ユリア。凛太郎の子どもを育ててる母親の名前。」
名前を言うたびに指を折り曲げた稜平さんは全ての指を折り曲げた手を自分の膝に置き、小刻みに震わす。
幸来未「…え?凛太郎さんって何歳?」
稜平「今年21になる年だね。」
…どういうこと?
男の人って18歳じゃないと結婚出来ないし、子どもって十月十日で生まれるってどこかで聞いたことあったけど。
幸来未「5回も結婚したってこと?」
稜平「凛太郎は1回もバツついてないよ。」
分かんない。
もう、分かんない。
凛太郎さんはただお兄さんの稜平さんに甘えたいだけの人だと思ってたけど、何も分からなくなった。
稜平「しかも短期間の浮気でもないんだよね。そこが凛太郎の最悪なとこ。」
幸来未「浮気以上に最悪なことあるの?」
稜平「幸来未がそんなこと言っちゃうの?」
と、稜平さんは冗談めかしたことを言ったけど、私は全く笑えなかった。
幸来未「付き合った人と好きな人が別だっただけだよ。好き同士だったのに、他の人に好きを持ってかれるよりマシだよ。」
稜平「…確かに。凛太郎の場合は中学生の時に付き合ってたミウちゃんを孕ませてからどんどんおかしくなってった。」
そう言ってため息をつく稜平さんの顔は凛太郎さんと瓜二つで、私は胸が痛くなる。
稜平「俺はその時、18で高校卒業する代だったから親と一緒にミウちゃんと凛太郎たちを支えようってガムシャラに働いてたんだけど、凛太郎はその間女を貪って中学卒業するまでに4人妊娠させて2人下ろすことになった。」
幸来未「…なんで、凛太郎さんはそんなことしたの?」
稜平「それが分からない。ただ、性教育がなってないとか病院で診断された性依存症だけの話じゃないと思うんだけど、凛太郎が1人で動く日中に起こるから止めようもない。」
幸来未「お父さんとお母さんは凛太郎さんを家にいさせなかったの?」
稜平「2人は過労で精神やって凛太郎が高校上がる前に死んだから出来なかったよ。」
…分からないって思ったけど、分かったかも。
けど、それは稜平さんが求めているちゃんとした答えじゃないから簡単には口に出せない。
稜平「高校入ってからも、同学年の子も先輩も社会人も孕ませたけど凛太郎は結婚するつもりもないし、好きでもなかったんだって。こんなの母親にも元彼女たちにも言えないよ。」
幸来未「……寂し、かったのかな。」
稜平「寂しいだけで子どもを作ってやり捨てるなんて悪魔だよ。弟だからそんな奴って思いたくないな。」
幸来未「うん。そうだよね。ごめん。」
稜平「幸来未も危なそうだったから何回も驚かせちゃった。ごめんね。」
稜平さんは私にそう謝ってくれたけど、この時間があるなら凛太郎さんの元へ行ってほしいと思うのは過剰な思い込みなのかな。
稜平「幸来未はちゃんとした人とお付き合いして、ちゃんとした人と結婚して、ちゃんといっぱい愛情もらってね。」
幸来未「…頑張る。」
稜平「頑張らなくてもキープくんがいるでしょ。もうさすがにお付き合いは始めた?」
しようと思ったことは何度もあるけど、その度に何か嫌なものが見えて一歩前に行けない。
しかも、親からはお見合い日程をお盆の時期に設定されてしまった。
だからと言って時音が仕事を抜け出して私のお見合いを辞めさせるなんて出来ない。
だって、これからが1番忙しくて大切な日々が続くのに、1つのお見合いに1日を割くことなんか出来ない。
そう思ったから親から日程が送られても無視をして、時音の変わったところも無視しようとしてきたけど、自分がどうすればいいのか分からなくなってしまった。
稜平「…幸来未?もしかして、振られた?」
と、稜平さんは涙が勝手に落ちていく私の目を拭ってくれる。
幸来未「そうじゃなくて…、ちょっと困ってて…。」
稜平「いいよ。全部聞く。」
私は稜平さんの心落ち着く声でそう言ってもらえて、感情のストッパーが外れてしまい、時音にも打ち明けられてないことを稜平さんに伝えた。
環流 虹向/23:48
と言いながら稜平さんは鉄瓶でお湯を沸かし、私にホットティーを作ってくれた。
幸来未「ありがとう。砂糖ある?」
稜平「砂糖は麻薬だから置いてない。」
幸来未「…麻薬?」
稜平「糖分は過剰摂取すると依存症になって、体をどんどん壊してくの。だから自分の家には米とフルーツくらいしか糖があるものは置いてない。」
そう言って、稜平さんはそばにあったフルーツボールからりんご1つを取り出し、器用にカットして夜景がよく見える窓のそばにあったローテーブルに置いてソファーに座った。
私もその隣に座り、久しぶりに渋味を強く感じる紅茶を一口飲んでミルクもないのかなと考えてしまう。
稜平「…砂糖はないけど、はちみつなら貰い物であったかも。」
私の眉を伸ばした稜平さんは私の甘いもの好きを察し、キッチンの戸棚からとっても小さな瓶に入った黄金のはちみつを持ってきた。
稜平「俺は使わないからあげる。」
幸来未「…ありがと。初めてはちみつ入れるかも。」
私はとろっとしている黄金のシロップを紅茶に落とし、いつもの砂糖と同じ甘さになりそうな分量を入れていると稜平さんがその手を止めた。
稜平「え?入れすぎじゃない?」
幸来未「え?これが普通だよ?」
私はカップの地底にあるはちみつがカップを底上げしている量を見て、まだひとスプーン分足りないのを確認する。
稜平「こんな入れたら白砂糖じゃなくても、依存症になるよ。」
と、稜平さんは私からはちみつの瓶を奪い、蓋を閉めてしまった。
私は思った味にならなかった紅茶を一口飲み、初めて紅茶とはちみつの蜜の香りを口いっぱいに広げる。
その顔がまださっきよりマシと思った稜平さんは紅茶を一気に半分飲んで、りんごを一欠片食べた。
稜平「凛太郎は依存のせいで今は文無しなんだ。だから俺の所で雇ってたけど、限界が来てるのかも。」
そう寂しそうに呟いた稜平さんはまたりんご一欠片食べた。
幸来未「でも、今さっきまでエリアマネージャーだったし、店長勤めてるならそれなりにお金は稼げてるんじゃないの?」
稜平「稼いでも出ていっちゃうの。なんでだと思う…?」
なんで…?
稼いでも文無しってことはギャンブルとかショッピングな気がするけど、ギャンブルはあんまり得意そうじゃなかったし、ショッピングはブランドっぽいものやお高めな小物を一切着けてこなかった凛太郎さんにはあんまり考えられない。
ってことは、お金を使って何か残るものを買ってないってことになるけど、何になるんだろう…。
私がしばらく考えていると、稜平さんは開いた片手を私の前に出した。
稜平「ミウ、エリカ、セナ、ノノ、ユリア。凛太郎の子どもを育ててる母親の名前。」
名前を言うたびに指を折り曲げた稜平さんは全ての指を折り曲げた手を自分の膝に置き、小刻みに震わす。
幸来未「…え?凛太郎さんって何歳?」
稜平「今年21になる年だね。」
…どういうこと?
男の人って18歳じゃないと結婚出来ないし、子どもって十月十日で生まれるってどこかで聞いたことあったけど。
幸来未「5回も結婚したってこと?」
稜平「凛太郎は1回もバツついてないよ。」
分かんない。
もう、分かんない。
凛太郎さんはただお兄さんの稜平さんに甘えたいだけの人だと思ってたけど、何も分からなくなった。
稜平「しかも短期間の浮気でもないんだよね。そこが凛太郎の最悪なとこ。」
幸来未「浮気以上に最悪なことあるの?」
稜平「幸来未がそんなこと言っちゃうの?」
と、稜平さんは冗談めかしたことを言ったけど、私は全く笑えなかった。
幸来未「付き合った人と好きな人が別だっただけだよ。好き同士だったのに、他の人に好きを持ってかれるよりマシだよ。」
稜平「…確かに。凛太郎の場合は中学生の時に付き合ってたミウちゃんを孕ませてからどんどんおかしくなってった。」
そう言ってため息をつく稜平さんの顔は凛太郎さんと瓜二つで、私は胸が痛くなる。
稜平「俺はその時、18で高校卒業する代だったから親と一緒にミウちゃんと凛太郎たちを支えようってガムシャラに働いてたんだけど、凛太郎はその間女を貪って中学卒業するまでに4人妊娠させて2人下ろすことになった。」
幸来未「…なんで、凛太郎さんはそんなことしたの?」
稜平「それが分からない。ただ、性教育がなってないとか病院で診断された性依存症だけの話じゃないと思うんだけど、凛太郎が1人で動く日中に起こるから止めようもない。」
幸来未「お父さんとお母さんは凛太郎さんを家にいさせなかったの?」
稜平「2人は過労で精神やって凛太郎が高校上がる前に死んだから出来なかったよ。」
…分からないって思ったけど、分かったかも。
けど、それは稜平さんが求めているちゃんとした答えじゃないから簡単には口に出せない。
稜平「高校入ってからも、同学年の子も先輩も社会人も孕ませたけど凛太郎は結婚するつもりもないし、好きでもなかったんだって。こんなの母親にも元彼女たちにも言えないよ。」
幸来未「……寂し、かったのかな。」
稜平「寂しいだけで子どもを作ってやり捨てるなんて悪魔だよ。弟だからそんな奴って思いたくないな。」
幸来未「うん。そうだよね。ごめん。」
稜平「幸来未も危なそうだったから何回も驚かせちゃった。ごめんね。」
稜平さんは私にそう謝ってくれたけど、この時間があるなら凛太郎さんの元へ行ってほしいと思うのは過剰な思い込みなのかな。
稜平「幸来未はちゃんとした人とお付き合いして、ちゃんとした人と結婚して、ちゃんといっぱい愛情もらってね。」
幸来未「…頑張る。」
稜平「頑張らなくてもキープくんがいるでしょ。もうさすがにお付き合いは始めた?」
しようと思ったことは何度もあるけど、その度に何か嫌なものが見えて一歩前に行けない。
しかも、親からはお見合い日程をお盆の時期に設定されてしまった。
だからと言って時音が仕事を抜け出して私のお見合いを辞めさせるなんて出来ない。
だって、これからが1番忙しくて大切な日々が続くのに、1つのお見合いに1日を割くことなんか出来ない。
そう思ったから親から日程が送られても無視をして、時音の変わったところも無視しようとしてきたけど、自分がどうすればいいのか分からなくなってしまった。
稜平「…幸来未?もしかして、振られた?」
と、稜平さんは涙が勝手に落ちていく私の目を拭ってくれる。
幸来未「そうじゃなくて…、ちょっと困ってて…。」
稜平「いいよ。全部聞く。」
私は稜平さんの心落ち着く声でそう言ってもらえて、感情のストッパーが外れてしまい、時音にも打ち明けられてないことを稜平さんに伝えた。
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