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どんぐりころりん
664:00:12
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…ったく、話が長いんだよ。
私は自分の家に終電で帰れるように、おろし立てで少し靴づれが痛い足をどうにか動かして駅へ走る。
今日はゴールデンタイムの時間に土砂降りだったから人も少なくていつもより早く上がれると思ってたのに、最近異動してきた話にまとまりがない三十路のバイトリーダーに捕まってしまい、いつもより8分もバイト先から出るのが遅くなってしまった。
間に合いたい電車を1本逃してもいいんだけど、そうすると本物の終電になって潰されながら30分も電車に揺られないといけない。
それはなるべく避けたいからどうにか間に合って。
かっけこはいつも最下位だったけど、大人になった私に最後のゴールテープを切らせないで。
そう思いながら私は迷路のようにたくさんの路線ある駅の改札に入り、14番線の電車があるホームへ向かう。
けど…、息が続かない。
もう22歳。
若いらしいけど、運動してないし、走るのなんか嫌い。
そんな私は酸素枯渇に陥りそうになったので、早歩きにマイナーチェンジしてあと2分で電車が来るホームの階段を目の前にすると、自分の横から飛び出してきた男がくるんと地面で一回転しながら綺麗に受け身を取り、立ち上がって私と目を合わせた。
私はその男が着ているシワと汚れが少しついてしまっている真っ白なワイシャツとこっくり秋色のスーツのようなチェックズボンに少しあどけなさと若さを感じて、顔との年齢差に思わず首を傾げる。
すると、男はワイヤレスイヤフォンを付けてる私に向かって何か話しかけてきた。
何か心配されてるのかな。
なんだかちょっと不安げな顔してる。
私はその男と話すために両耳からイヤフォンを取り外し、パーソナルスペース近めな男と目を合わせるために少し顔を上げてなんとなく会釈する。
「…あの。」
幸来未「あ、えっと…、大丈夫ですか?」
私はワイシャツの袖についた汚れを指して少し頬を赤らめる男に気を使う。
「あ…、ありがとうございます。」
そう言って男は軽く汚れを叩き、私を見て目をぱちくりさせる。
幸来未「大丈夫そうですね。良かったです。…じゃあ。」
私は電車の走行音が近づいてきた階段上のホームへ行こうと、足を向けるとその男が待ってとびっくりするほど大きい声で私を引き止めた。
「えっと…、あ、あの…。」
幸来未「私は怪我してないので。電車が…」
「あの…っ!連絡先、交換してくれませんか!?」
…は?
どういう事?
新手のナンパ術?
私が怪しみを込めてわざと目を細めると、男はそれを無視してお願いしますと念を押してきた。
幸来未「…終電来るので。」
「お願いします!僕、高倉 時音って言います。お姉さんタイプ過ぎて初めてこういう事したんです。その勇気に連絡先プレゼントしてくださいっ。」
そんなこと知ったこっちゃないよと呆れていると、私の斜め後ろから笑い声が聞こえたので見てみると、薄手のコート、ナップザック、本革リュック、それぞれ1つ抱えている若い男3人がこっちの様子を見て楽しんでいる。
高倉「さっきはあそこにいる友達に背中を押されて転んじゃったんです。びっくりさせてごめんなさい。」
…そうなんだ。
けど、とっさであんなに綺麗な受け身をとれるんだ。
高倉「そのお詫びを今度…」
と、男が何か言い始めるとそれと同時に階段上のホームから電車がもう少しで出発するというアナウンスが聞こえた。
高倉「無礼なのは分かってます。けど…」
幸来未「いいよ。一度しか言わないから。」
私はその場で電話番号を淡々と声に出し、一度電話をかけてもらう。
幸来未「私、メッセージ苦手だから返信遅いよ。」
高倉「分かりました!待ちます!」
私は後でブロックするのにと思いながら階段を駆け上がり、乗りたかった電車にギリギリで乗り込んだ。
これであの子のメンツも今日は保たれたし、私も乗りたかった電車に乗れたからみんなハッピーな1日だ。
そう思い私は1人笑みをこぼしながら、少しお酒臭い電車に揺られて家に帰った。
環流 虹向/23:48
私は自分の家に終電で帰れるように、おろし立てで少し靴づれが痛い足をどうにか動かして駅へ走る。
今日はゴールデンタイムの時間に土砂降りだったから人も少なくていつもより早く上がれると思ってたのに、最近異動してきた話にまとまりがない三十路のバイトリーダーに捕まってしまい、いつもより8分もバイト先から出るのが遅くなってしまった。
間に合いたい電車を1本逃してもいいんだけど、そうすると本物の終電になって潰されながら30分も電車に揺られないといけない。
それはなるべく避けたいからどうにか間に合って。
かっけこはいつも最下位だったけど、大人になった私に最後のゴールテープを切らせないで。
そう思いながら私は迷路のようにたくさんの路線ある駅の改札に入り、14番線の電車があるホームへ向かう。
けど…、息が続かない。
もう22歳。
若いらしいけど、運動してないし、走るのなんか嫌い。
そんな私は酸素枯渇に陥りそうになったので、早歩きにマイナーチェンジしてあと2分で電車が来るホームの階段を目の前にすると、自分の横から飛び出してきた男がくるんと地面で一回転しながら綺麗に受け身を取り、立ち上がって私と目を合わせた。
私はその男が着ているシワと汚れが少しついてしまっている真っ白なワイシャツとこっくり秋色のスーツのようなチェックズボンに少しあどけなさと若さを感じて、顔との年齢差に思わず首を傾げる。
すると、男はワイヤレスイヤフォンを付けてる私に向かって何か話しかけてきた。
何か心配されてるのかな。
なんだかちょっと不安げな顔してる。
私はその男と話すために両耳からイヤフォンを取り外し、パーソナルスペース近めな男と目を合わせるために少し顔を上げてなんとなく会釈する。
「…あの。」
幸来未「あ、えっと…、大丈夫ですか?」
私はワイシャツの袖についた汚れを指して少し頬を赤らめる男に気を使う。
「あ…、ありがとうございます。」
そう言って男は軽く汚れを叩き、私を見て目をぱちくりさせる。
幸来未「大丈夫そうですね。良かったです。…じゃあ。」
私は電車の走行音が近づいてきた階段上のホームへ行こうと、足を向けるとその男が待ってとびっくりするほど大きい声で私を引き止めた。
「えっと…、あ、あの…。」
幸来未「私は怪我してないので。電車が…」
「あの…っ!連絡先、交換してくれませんか!?」
…は?
どういう事?
新手のナンパ術?
私が怪しみを込めてわざと目を細めると、男はそれを無視してお願いしますと念を押してきた。
幸来未「…終電来るので。」
「お願いします!僕、高倉 時音って言います。お姉さんタイプ過ぎて初めてこういう事したんです。その勇気に連絡先プレゼントしてくださいっ。」
そんなこと知ったこっちゃないよと呆れていると、私の斜め後ろから笑い声が聞こえたので見てみると、薄手のコート、ナップザック、本革リュック、それぞれ1つ抱えている若い男3人がこっちの様子を見て楽しんでいる。
高倉「さっきはあそこにいる友達に背中を押されて転んじゃったんです。びっくりさせてごめんなさい。」
…そうなんだ。
けど、とっさであんなに綺麗な受け身をとれるんだ。
高倉「そのお詫びを今度…」
と、男が何か言い始めるとそれと同時に階段上のホームから電車がもう少しで出発するというアナウンスが聞こえた。
高倉「無礼なのは分かってます。けど…」
幸来未「いいよ。一度しか言わないから。」
私はその場で電話番号を淡々と声に出し、一度電話をかけてもらう。
幸来未「私、メッセージ苦手だから返信遅いよ。」
高倉「分かりました!待ちます!」
私は後でブロックするのにと思いながら階段を駆け上がり、乗りたかった電車にギリギリで乗り込んだ。
これであの子のメンツも今日は保たれたし、私も乗りたかった電車に乗れたからみんなハッピーな1日だ。
そう思い私は1人笑みをこぼしながら、少しお酒臭い電車に揺られて家に帰った。
環流 虹向/23:48
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