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環流 虹向

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B.C.

浸死

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「あれが俺の家。」

そう言って、世月くんが指した家は私が思っていたよりも空に近くて間取りも多かった。

奏乃「ワンルームっていうのは部屋がひとつってことだけど、世月くんの部屋っていうか家には螺旋階段あるよ?」

私はマンションなのに何故か2階建てになっている構造に驚き、今いる何坪かも分からないほど大きいリビングで思わず首を傾げる。

世月「なんでぃーけーとかよく分かんないし、俺の部屋はひとつだしそんな変わんない。」

奏乃「…ってことは家族と住んでるの?」

世月「家族って言っても、兄ちゃんと俺ね。」

そう言って、世月くんは吐瀉物臭い私にお風呂場を案内してお湯はりをしながら暇つぶしにコットンに染み込ませたクレンジングで私のメイク落としをしてくれる。

世月「なんで奏乃は仕事なくなったの?」

と、世月くんはなぜか2つもある大理石で出来た洗面台の間に腰をかけながら私の目元にコットンを乗せて聞いてきた。

奏乃「…付き合ってた人に裏切られて、同じ職場で働けなくさせられた。」

世月「仕返しは?」

奏乃「頭かち割ろうとしたけど、上手く当たらなかった。」

世月「残念。他には?」

奏乃「呑んでる時、その人の電話番号と仕事先のメールアドレスを出会い系の掲示板に晒しといた。」

世月「いいじゃん。やるね。」

世月くんは笑顔が溢れそうな声でそう言ってくれたけど、顔は全く笑わずに私の唇に残ったわずかな赤を拭う。

世月「俺の理想のお母さんはられたらり返して墓送りにする人。奏乃は出来る?」

と、世月くんはまっすぐ私を見て頷くしかない答えを聞いてくる。

奏乃「しないとここにはいられないんだもんね?」

世月「まあ、そうだね。」

奏乃「じゃあする。」

世月「前のお母さんたちもそんなこと言って大したことしなかったけどね。」

少し呆れ顔の世月くんはそう言葉を吐き捨てながらコットンをゴミ箱に捨てると、私のロングヘアをクリップで止めてくれた。

奏乃「ありがとう。あとはひとりで…」

世月「一緒に入るよ?」

奏乃「え?」

私は世月くんの曇りのない目を見て驚く。

世月「俺を全力で世話して守るのがお前の役目。だから1人になるときはない。」

奏乃「…トイレも?」

世月「トイレットペーパーなかったらどうすんの。」

奏乃「学校は?」

世月「今流行りのホームスクール。この家でやるから学校は行かない。」

…友達いないの?

私は自分にもいない友達を心配していると世月くんのポケットから着信音が鳴り、電話に出て声だけ楽しげに話すとすぐに切った。

世月「兄ちゃん帰ってくるから風呂空けとけって。さっさと入ろ。」

そう言って世月くんは自分の服を脱いで私にさっさと頭を洗えと言ってきたので、私は体にタオルを巻いて世月くんの指示通り全身を手でしっかりと洗い、その後シャンプーと石鹸を貸してもらって自分の汚れも流させてもらう。

すると世月くんは私の膝の怪我を無視して湯船に引っ張り、熱くて肌がチクチクするほどのお湯へ一緒に浸からせた。

世月「じゅーう、きゅーう。…お前も一緒に。」

と、世月くんは幼児のようにお風呂から上がるタイムリミットを数えるのを私にも要求してきたので渋々私も一緒に数える。

奏乃「いーち、ぜろ。」
世月「いーち、ぜろ。もひとつおまけにいーち。」

…え?

アンコール?

困惑しながらも私は世月くんの口に合わせてまた数を数え、10を数え終わったところで世月くんは満足げに一度頷きお風呂から上がった。

私も世月くんに続いてお風呂から上がり、自分よりも先に世月くんの体を拭きあげて髪を乾かす。

こうやってドライヤーをしてあげるのは野上さんぶりだなと思いながら私は世月くんのお風呂タイムを終えさせて、先に部屋に行ってもらい指示されたお風呂掃除をしていると世月くんより重い足音が私の後ろにやってきた。

「…は?まだ?」

と、とても不機嫌そうな声で由月さんは私を見下ろしながらネクタイを外す。

奏乃「流して終わりです。お湯張りますか?」

由月「3日入ってないって言っただろ。」

そう言い残して由月さんはリビングの方へ行ってしまった。

私は答えを貰えず、どうしようか迷いながら泡を流していると世月くんの足音がこちらにやってきたのが聞こえたので振り返るとガーゼとテープを持った世月くんが背後にいた。

世月「兄ちゃん帰ってきちゃったから俺の部屋行こ。」

そう言って世月くんは私が泡を流し切るのを確認すると自分の部屋へ初めて連れて行ってくれた。


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