紅い砂時計

cyaru

文字の大きさ
上 下
30 / 34

第29話   おひさしぶりね

しおりを挟む
この日に合わせて周辺の6か国は綿密に計画し、国境ギリギリの所までパイプラインも敷設している。

貴族の家にも間者を忍ばせ、利になると判断した貴族には内密に話を持ち掛けてきた。
殆どは新興貴族と揶揄される若い当主のいる低位貴族ばかり。

高位貴族になればなるほど既に資産は持っているため、保身に走り今の立ち位置を現状維持しようとするためうっかりと話を持って行けば国王に知り得た情報を流す恐れもある。

慎重に慎重を期した1年。
ルドヴィカは迎えに来たムスライル国の「自動車」という鉄の箱にティトと乗り込んだ。

原油を精製して出来るガソリンが燃料となって走る自動車は燃料が切れなければほぼ走り続ける。ほぼと言うのは馬にも飼い葉の他に水や蹄鉄の付け替えなどメンテが必要なのと同じでガソリンではなく動力を冷やすための水であったり、円滑にタービンと言う部品などを動かすオイルも必要だった。

「どっちにしてもメンテナンスは必要なのですね」
「えぇ。そうです。ですが運べる荷物の量が格段に変わります。何より疲れを知らないのが自動車ですから」
「そう?でも燃料が切れたら止まっちゃうんだろ?」
「ティト!お口!」
「いいんですよ。子供はこれくらい正直な方が良い。この年から身分だなんだと畏まるようでは大成しません」
「俺は子供じゃない!16歳なんだ」
「ティトっ!!」
「ふふふ。残念。ムスライル国の成人は20歳。16歳はまだ子供だよ」
「ちぇっ!どいつもこいつも!子ども扱いばぁっか!!つまんねぇ」

指先も隠れていなければティトの頬をキュッと抓るのだが、指先も覆われていてそれも出来ない。
恐縮しながらルドヴィカは揺れも結構激しい自動車に揺られて王城の正門をくぐった。



閑散とした王城の中に聊か驚いたが、間者であった従者や使用人が一斉に引き上げればこうもなるだろうとルドヴィカは案内役が先導する部屋で王族を待った。

ルドヴィカの予想で来る確率が一番高いのはジェルマノ。

国王と王妃は一番苦手とするだろうからムスライル国とベトンス王国はジェルマノに任せるだろうと踏んだ。
大失態を犯したミレリーをここに寄越すほど国王も馬鹿ではないと思ったのだが・・・。

――1年も離れたら勘も鈍るのかしら?――

「もう!なんだっての?」
「妃殿下、もうお待ち頂いておりますからお静かに!」
「解ってるわよ。いちいち指図しないで!」

やって来たのはミレリーだった。
一緒にやって来て隣に腰掛けるムスライル国の大使の機嫌が一気に悪くなる最悪の空気。

「余程に我が国を軽く見ているのだろうな」

怒りを含んだ呆れの言葉がミレリーの地獄耳にも聞こえたのだろう。

「なにかと思ったら。神様と結婚する国?まぁいいわ。何でもいいけど、支払いをして欲しいんでしょ?会計院に行けば払って貰えるわよ。大使にまでなって取り立てもしなきゃいけないなんて。神様って何処にいるのかしらね?」

「妃殿下!お止めください!」

「もう。何よ・・・はいはい。判ったわよ。えぇっと隣は奥さんでしょ?会計院で手続きが終わるまでお茶でもご馳走するわ。庭で良い?あぁ~でも顔もヴェールで隠していたらお茶も飲めないわよね」

立ち上がろうとする大使を手で制し、ルドヴィカは小さく頷くと静かに立ち上がり、ヴェールを上にあげてうなじで止めたホックを外し、頭部を隠していた布を取り払った。

「嘘‥‥お義姉様・・・」
「久しぶりねミレリー。先ずはそうね・・・ご出産おめでとう。かしら?」

微笑みも浮かべず無機質な表情で言い放ったルドヴィカにミレリーは従者の制止を振り切り、ルドヴィカの目の前まで歩いてくると、手を大きく振り上げ、勢いをつけて振り下ろした。

ゴシュ‥‥鈍いような鋭いような奇妙な音がした。

「あっ‥‥あっ・・・アギャァァーッ!!」

「気安く触れてんじゃねぇよ。この阿婆擦れ」
「ティト!あなたそんなものを!」
「俺、護衛だから。足に忍ばせた暗器出すより簡単だろう?」
「簡単って・・・」

ミレリーが振り上げた手。勢いよく振ってきたところにティトが短剣を鞘からは抜かずに叩きつけた。
ルドヴィカに届く手前でミレリーの手首はあらぬ方向を向いて、ミレリーは床に転がりのたうち回る。

「ミレリー。貴女、王太子妃になったんでしょう?」

ミレリーに聞こえているかは判らない。それでもルドヴィカは声を掛けた。
従者がミレリーの手をグルグルと包帯で巻く間もミレリーの獣のような叫び声は止む事が無い。

やっと少し落ち着きを取り戻したが、同時に国王に呼ばれ城にやって来たジェルマノが騒ぎを聞きつけて部屋に飛び込んできた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します

真理亜
恋愛
気合いを入れて臨んだ憧れの第二王子とのお茶会。婚約者に選ばれようと我先にと飛び出した私は、将棋倒しに巻き込まれて意識を失う。目が覚めた時には前世の記憶が蘇っていた。そしてこの世界が自分が好きだった小説の世界だと知る。どうやら転生したらしい。しかも死亡エンドしかない悪役令嬢に! これは是が非でも王子との婚約を回避せねば! だけどなんだか知らないけど、いくら断っても王子の方から近寄って来るわ、ヒロインはヒロインで全然攻略しないわでもう大変! 一体なにがどーなってんの!? 長くなって来たんで短編から長編に変更しました。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ
恋愛
「ごめん、リア。出かける直前に、アビーの具合が急に悪くなって」  これが、公爵家令嬢リアの婚約者である、公爵家令息モーガンがデートに遅刻したときにする、お決まりの言い訳である。  モーガンは病弱な妹のアビーを異常なまでにかわいがっており、その言葉を決して疑ったりはしない。  リアが怒っていなくても、アビーが怒っていると泣けば、モーガンはそれを信じてリアを責める。それでもリアはモーガンを愛していたから、ぐっとたえていた。  けれど。ある出来事がきっかけとなり、リアは、モーガンに対する愛情が一気に冷めてしまう。 「──わたし、どうしてあんな人を愛していたのかしら」  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

婚約破棄した相手が付き纏ってきます。

沙耶
恋愛
「どうして分かってくれないのですか…」 最近婚約者に恋人がいるとよくない噂がたっており、気をつけてほしいと注意したガーネット。しかし婚約者のアベールは 「友人と仲良くするのが何が悪い! いちいち口うるさいお前とはやっていけない!婚約破棄だ!」 「わかりました」 「え…」 スッと婚約破棄の書類を出してきたガーネット。 アベールは自分が言った手前断れる雰囲気ではなくサインしてしまった。 勢いでガーネットと婚約破棄してしまったアベール。 本当は、愛していたのに…

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

処理中です...