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第15話 ティトは甘さを知る
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結局のところ、何も答えることが出来なかった国王に大使は「話にならないのなら」とその場を去った。そんな知らせが各国の大使館に齎される時間はあっという間。
国王は何とか取り繕うために使者をベトンス王国に送った。
「何としても使いの者より早く届けるのだ」と書簡を握らせたが、時代の流れに取り残されて過去の栄華を貪っていたツケは大きい。
早馬で2週間かかって街道を走る馬よりも早く、中継点に点在する者に暗号化した信号を送れば翌日にはベトンス王国に第一報が届くと必死で説明する文官をあり得ないと国王は叱りつけた。
ベトンス王国の大使が本国に知らせを出したと聞いた各国は水面下で動き始める。
7つの国が6つになる。
それはホールケーキを切り分けるように6つの国はお互いに手を組みながらも敵となり、より甘く飾りつけの多い部分を交換しながら奪い合う事を示す。
★~★
メッサーラ王国の大使館ではメリーに指導を受けながらルドヴィカとティト、ベルクがケーキ作りに挑戦をしていた。
「スポンジは焼いています。材料も揃っています。これらを使ってケーキを作るのです」
「ケーキ?!ケーキって何?」
「甘くておいしいお菓子。だけど!コラっ!つまみ食いをする子にはあげません」
ベルクがメリーに「何?何?」と問うている横でティトは既にイチゴを3個と桃を1切食べてしまっていた。目の前にあれば「食べられるか」を確かめる癖があるティト。
自分が食べて大丈夫ならベルクに与えるのだ。
ここはそんな事をしなくていいと言われていても、ついやってしまう。
「ティト。イチゴが好きなのね。クリーム作りを頑張れば私のイチゴをあげるわ」
「でも・・・お姉さんのがなくなるよ」
「じゃぁ…半分こにしましょう。それなら私も食べられるでしょう?」
生まれて初めて食べたイチゴは庭で育っているのだが、贅沢な事に使うのは先端の方だけ。ヘタのある方は甘味よりも酸味が強い。既に切り分けられているイチゴをティトが3つも食べてしまったのは頬がキュゥゥ!となる甘さについ2個目3個目と手が出てしまったためだ。
スポンジにクリームを塗り、そこにスライスしたイチゴや桃を並べてまたクリームを塗り、スポンジを重ねる。丸く高さを持ったケーキにまたクリームを塗り、フルーツを飾り付ける。
たったそれだけのことなのだが「クリームを作る」それだけで厨房の一画は戦場と化した。
「冷たいっ!メリーさん!これなに?!」
「氷。生クリームを作るには氷が必要なのよ」
「でも雪は降ってないよ?どこから持ってきたの?ねぇ!ねぇ」
大きな荷台に氷の塊を乗せ、藁を被せてメッサーラ王国から運んで来た貴重な氷。ルドヴィカはお菓子を作る為だけに使うのは贅沢過ぎると思いながらも国力の差を感じた。
「ベルク!ズルいぞ!メリーさん!ベルク、ボウルの氷を食ってる!」
「食ってない!まだ2個しか食ってないもん!」
「全部食べちゃったら冷えてお腹壊すよ。そうなったら苦~い薬湯を暫く飲んでもらわないとねぇ」
メリーさんの恐ろしい「苦い薬湯」というワードはそれだけで真面目にボウルの中をかき混ぜる事だけに子供を集中させる。
「お姉さん。疲れた?」
「ううん。大丈夫。でもティトは凄いわね。もうツノが出来るまでになってる」
泡立てをゆっくり持ち上げるとティトのクリームはツンとツノが経つのにルドヴィカのボウルの中はまだ液体だった。
「交換しよう。お姉さんはもう少し混ぜて。俺はこっちをやるから」
「でも腕が痛くなっちゃうわ」
ルドヴィカが心配そうにティトの顔を覗き込むとティトは真っ赤になって俯いた。
「大丈夫だよ。イチゴ。半分くれるんだろ」
そう言ってボウルをルドヴィカと入れ替えると一心不乱。クリームを作るために泡だて器を動かし始めた。カシャカシャと勢いをつけるものだから跳ねたクリームがティトの頬に飛ぶ。
「ほっぺについてる」
「え?・・・どこ?」
「取ってあげるね」
ルドヴィカの指先がティトの頬についたクリームをさらって行く。
「お姉さんっ!」
「何?」
「指ッ!」
ティトはルドヴィカの指先に付いたクリームをパクっと口に入れた。
ちゅぽっとルドヴィカの指が口から抜けると激しい後悔がティトを襲う。
それほどまでに指先のクリームは色んな意味で甘かった。
出来上がったケーキはメリーさんも目を疑うくらいに不格好。
味見をしたのだが「食べられたものではない」と思う出来。
「食べられる食材を使ったんだから食べられるよ!」
ルドヴィカとメリーは一口食べて「ないな」と感じたがケーキという品そのものが生まれて初めてのティトとベルクは奇声をあげ、目を輝かせてもっともっととせがんだ。
口の周りがクリームだらけになった2人。
ベルクはメリーさんに「手で掴まない!」と叱られながらも頬がリスの頬袋になるまで口に詰め込む。
「ベルクは食いしん坊ね。はい、約束のイチゴ」
「いいの?半分じゃないよ?」
「ティト、イチゴ好きでしょう?生クリーム作りを頑張ったからご褒美」
「う、うん…」
イチゴより好きなものがある・・・そう言いかけたティトは口の中のケーキと一緒に言葉を飲み込んだ。
国王は何とか取り繕うために使者をベトンス王国に送った。
「何としても使いの者より早く届けるのだ」と書簡を握らせたが、時代の流れに取り残されて過去の栄華を貪っていたツケは大きい。
早馬で2週間かかって街道を走る馬よりも早く、中継点に点在する者に暗号化した信号を送れば翌日にはベトンス王国に第一報が届くと必死で説明する文官をあり得ないと国王は叱りつけた。
ベトンス王国の大使が本国に知らせを出したと聞いた各国は水面下で動き始める。
7つの国が6つになる。
それはホールケーキを切り分けるように6つの国はお互いに手を組みながらも敵となり、より甘く飾りつけの多い部分を交換しながら奪い合う事を示す。
★~★
メッサーラ王国の大使館ではメリーに指導を受けながらルドヴィカとティト、ベルクがケーキ作りに挑戦をしていた。
「スポンジは焼いています。材料も揃っています。これらを使ってケーキを作るのです」
「ケーキ?!ケーキって何?」
「甘くておいしいお菓子。だけど!コラっ!つまみ食いをする子にはあげません」
ベルクがメリーに「何?何?」と問うている横でティトは既にイチゴを3個と桃を1切食べてしまっていた。目の前にあれば「食べられるか」を確かめる癖があるティト。
自分が食べて大丈夫ならベルクに与えるのだ。
ここはそんな事をしなくていいと言われていても、ついやってしまう。
「ティト。イチゴが好きなのね。クリーム作りを頑張れば私のイチゴをあげるわ」
「でも・・・お姉さんのがなくなるよ」
「じゃぁ…半分こにしましょう。それなら私も食べられるでしょう?」
生まれて初めて食べたイチゴは庭で育っているのだが、贅沢な事に使うのは先端の方だけ。ヘタのある方は甘味よりも酸味が強い。既に切り分けられているイチゴをティトが3つも食べてしまったのは頬がキュゥゥ!となる甘さについ2個目3個目と手が出てしまったためだ。
スポンジにクリームを塗り、そこにスライスしたイチゴや桃を並べてまたクリームを塗り、スポンジを重ねる。丸く高さを持ったケーキにまたクリームを塗り、フルーツを飾り付ける。
たったそれだけのことなのだが「クリームを作る」それだけで厨房の一画は戦場と化した。
「冷たいっ!メリーさん!これなに?!」
「氷。生クリームを作るには氷が必要なのよ」
「でも雪は降ってないよ?どこから持ってきたの?ねぇ!ねぇ」
大きな荷台に氷の塊を乗せ、藁を被せてメッサーラ王国から運んで来た貴重な氷。ルドヴィカはお菓子を作る為だけに使うのは贅沢過ぎると思いながらも国力の差を感じた。
「ベルク!ズルいぞ!メリーさん!ベルク、ボウルの氷を食ってる!」
「食ってない!まだ2個しか食ってないもん!」
「全部食べちゃったら冷えてお腹壊すよ。そうなったら苦~い薬湯を暫く飲んでもらわないとねぇ」
メリーさんの恐ろしい「苦い薬湯」というワードはそれだけで真面目にボウルの中をかき混ぜる事だけに子供を集中させる。
「お姉さん。疲れた?」
「ううん。大丈夫。でもティトは凄いわね。もうツノが出来るまでになってる」
泡立てをゆっくり持ち上げるとティトのクリームはツンとツノが経つのにルドヴィカのボウルの中はまだ液体だった。
「交換しよう。お姉さんはもう少し混ぜて。俺はこっちをやるから」
「でも腕が痛くなっちゃうわ」
ルドヴィカが心配そうにティトの顔を覗き込むとティトは真っ赤になって俯いた。
「大丈夫だよ。イチゴ。半分くれるんだろ」
そう言ってボウルをルドヴィカと入れ替えると一心不乱。クリームを作るために泡だて器を動かし始めた。カシャカシャと勢いをつけるものだから跳ねたクリームがティトの頬に飛ぶ。
「ほっぺについてる」
「え?・・・どこ?」
「取ってあげるね」
ルドヴィカの指先がティトの頬についたクリームをさらって行く。
「お姉さんっ!」
「何?」
「指ッ!」
ティトはルドヴィカの指先に付いたクリームをパクっと口に入れた。
ちゅぽっとルドヴィカの指が口から抜けると激しい後悔がティトを襲う。
それほどまでに指先のクリームは色んな意味で甘かった。
出来上がったケーキはメリーさんも目を疑うくらいに不格好。
味見をしたのだが「食べられたものではない」と思う出来。
「食べられる食材を使ったんだから食べられるよ!」
ルドヴィカとメリーは一口食べて「ないな」と感じたがケーキという品そのものが生まれて初めてのティトとベルクは奇声をあげ、目を輝かせてもっともっととせがんだ。
口の周りがクリームだらけになった2人。
ベルクはメリーさんに「手で掴まない!」と叱られながらも頬がリスの頬袋になるまで口に詰め込む。
「ベルクは食いしん坊ね。はい、約束のイチゴ」
「いいの?半分じゃないよ?」
「ティト、イチゴ好きでしょう?生クリーム作りを頑張ったからご褒美」
「う、うん…」
イチゴより好きなものがある・・・そう言いかけたティトは口の中のケーキと一緒に言葉を飲み込んだ。
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