9 / 34
第09話 モフ界の王子様とメリーさん
しおりを挟む
ガチャリと扉を開くとそこは異世界。
「よーしよし。うぁっ!やったなぁ。このっ!このっ!」
パッと見は大きな毛羽立った毛布ような塊がモゾモゾと蠢いている。
が、それだけではなかった。
部屋の奥にある少し暗がりになった場所にはキラっと光る何かが幾つもある。
従者が「殿下!殿下!」と声を掛けるが大きな毛布ような塊から立ち上がったのが第7王子モスキー。
塊はモスキーの足元でむくっと高さを付けた。
「あ、あの…ヒャァウ!!」
「驚かせちゃったね。僕の友達でバウっていうんだ。アフガン・ハウンドという犬種でね。可愛いだろう?」
「殿下、ちゃんとご説明しないと!ルドヴィカ様が困っておられますよ」
モスキーが説明をしてくれている間に大きな塊の1つが近寄って来てルドヴィカの目の前でコロンと横になるのだが、見たことも無いような大きな犬なのか熊なのか。
「足元にいるのはヨーゼフ。セントバーナードという犬種だ。あとは・・・屋敷に住み着いてた猫がえぇっと・・・」
「殿下。8匹です。8匹」
「8匹だ!残念ながら全部白と黒のハチワレという模様で僕も区別がつかないんだ」
「は…はぁ…」
「後は飼ってる訳じゃないんだけど屋根裏とかにネズミが何匹かいると思う」
「ね、ねずみ・・・ですか」
「大丈夫だよ。夜中にしか遭遇した事はないからね」
――全然安心できないわ――
モスキーが手でネズミの大きさを示すのだが、どう考えても背後にいるハチワレ猫より大きい。そんな大きなネズミと夜中に遭遇したら喉が潰れるまで絶叫しそうだ。
従者が「殿下は狩猟と高原の散策がご趣味ですので」と耳打ちをしてくれる。
どうやら狩猟にはアフガン・ハウンド、高原の散策のお供がセントバーナードらしい。
――では猫は?――
考えている事が判ったのか、モスキーは「早朝のお供かな。重さで目覚めるんだ」と笑った。
呆気に取られてしまったが、伝えることは伝えねばならない。
「申し訳ないのですが子供を3人、私と同じ部屋で構いませんので当面置いて頂きたいのです」
「あぁダニエレが言ってた子供のことかな」
「はい、ティト、ベルク、ララという3人兄弟妹です」
「いいよ。数人増えたって問題ないけど一番小さな子は・・・泊りの使用人はいたかな」
「はい、メリーさんが本日の宿直となっております」
「だって。メリーは11人の子供達を育て上げてるから預けるといいよ」
――11人・・・かなりの子沢山なのね――
そう思ったのだが、モスキーに許しを貰いララをメリーに預けようとティトにララの居場所を聞こうとした時、ララと思わしき子供の泣き声が廊下を響いて来た。
「ララッ!!」
ティトとベルクは廊下を走り、声のする部屋に行ってみればララはメリーさんによって湯あみ中。
「なんです!レディの湯あみを覗こうだなんて!100年早いッ!」
クワッ!っと目を見開いたメリーさんに一喝されてティトとベルクは後ずさり。
ルドヴィカは同性だと言う事で入室を許可されたのだが、そこも異世界だった。
バスタブは王宮にもあったが、浸かるものではなくそこから湯を汲み上げるためのものだったが、国が違えば使用用途も違うのか。
ララを洗っている桶の湯がまるで泥水。
何度目かの洗髪で赤茶色だったララの髪の毛は薄いグリーンだった。
――ここまで色って変わる物なの?!――
「可哀想にねぇ…でもお兄ちゃんたちはこの子にはミルクをあげてたんだね。いいお兄ちゃんがいて良かったねぇ」
そこで驚いたのだ。バスタブの中にララが落ちないよう手で支えて体を浸ける。
「あの…バスタブって」
「驚いたかい?でもメッサーラではこうやってバスタブに浸かって全身を温めるんだよ」
「そうなのですね」
ララは乳飲み子と聞いていたのでまだ首もしっかりしていない赤子かと思ったが生後5、6カ月という所だろうか。湯で体を洗うと疲れと空腹からミルクをたっぷり飲んだララは寝息を立てはじめる。
「さぁ、手伝いをお願いしますよ」
「は、はい。あの・・・初めてなんですが・・・」
「大丈夫。最初は水を弾くと思うけど兎に角洗う!洗って洗って洗うのよ。いい?」
「は、はい」
「こういうのはね・・・順番にすると片方が逃げるから一度に両方を洗うのよ」
ララの様子を見ていたティトとベルクはメリーさんの両腕に抱えられて先ずは服のまま湯船に放り込まれた。そこにワッとメイドがなだれ込み、ティトとベルクの衣類を剥ぎ取っていく。
「やめろ!うわぁぁ!!」
「兄ちゃん!にいちゃぁぁん!!」
「静かに!目を閉じるんだよ!泡が目に入っちまうからね!」
ゴシゴシと洗われていく2人だが、ララ以上の酷い香りが湯殿に充満する。
「換気して!新しいタオル!それから・・・これは・・・固形石鹸ッ!」
透き通った湯が張られたバスタブにティトとベルクの2人が力なく浸かるようになるまで45分。洗いに洗われた2人も汚れを取れば全く違う髪色になった。
「へぇ。大きいお兄ちゃんはオレンジの髪、小さいお兄ちゃんはクリーム色かい」
「小さいっていうな!」
「私から見れば十分に小さいよ。私の年を追い越してからその減らず口を叩きな!」
メリーさんの年齢は54歳。間違いなく追い越せないだろう。
子供用の衣類があるのかと思えば急ぎ調達してきたようで、用意された服に着替えたティトとベルク。髪もついでに切ったり削いだりで整えて貰えば、痩せている事を除くと貴族の子息のようにも見える。
「なんか・・・動きにくいんだけど」
「兄ちゃん。腹減ったよ・・・それに眠い」
聞けばバスタブに浸かる事はそれだけで体力も使うので子供は眠くなってしまう子もいるのだとメリーさんは語る。
夕食は寝ているララは不在だが、モスキーとルドヴィカ、そしてティトとベルク。
「賑やかな食事はいつもよりも美味しく感じるよ」
モスキーが言う通り、ルドヴィカも「食事が楽しい」のだと実感する夕食だった。しかし眠気が限界にきてパンを手にして船をこぎ始めた2人。
「寝かせてあげよう」
モスキーの指示で使用人に抱きかかえられて運ばれて行った2人。
おそらく生まれて初めてであろう沈み込む寝台に寝かされたのだった。
そして・・・子供たちが寝入ってしまいルドヴィカも興味がなかった訳ではない。
使用人に体を洗ってもらい「どうぞ」と勧められたバスタブにチャポン・・・。
「ファァァ・・・気持ちいい~」
湯殿から出た後は今まで感じた事のない爽快感と軽い脱力感を覚えた。
――子供が眠くなるはずだわ――
こうしてルドヴィカの慌ただしい1日がやっと終わったのだった。
「よーしよし。うぁっ!やったなぁ。このっ!このっ!」
パッと見は大きな毛羽立った毛布ような塊がモゾモゾと蠢いている。
が、それだけではなかった。
部屋の奥にある少し暗がりになった場所にはキラっと光る何かが幾つもある。
従者が「殿下!殿下!」と声を掛けるが大きな毛布ような塊から立ち上がったのが第7王子モスキー。
塊はモスキーの足元でむくっと高さを付けた。
「あ、あの…ヒャァウ!!」
「驚かせちゃったね。僕の友達でバウっていうんだ。アフガン・ハウンドという犬種でね。可愛いだろう?」
「殿下、ちゃんとご説明しないと!ルドヴィカ様が困っておられますよ」
モスキーが説明をしてくれている間に大きな塊の1つが近寄って来てルドヴィカの目の前でコロンと横になるのだが、見たことも無いような大きな犬なのか熊なのか。
「足元にいるのはヨーゼフ。セントバーナードという犬種だ。あとは・・・屋敷に住み着いてた猫がえぇっと・・・」
「殿下。8匹です。8匹」
「8匹だ!残念ながら全部白と黒のハチワレという模様で僕も区別がつかないんだ」
「は…はぁ…」
「後は飼ってる訳じゃないんだけど屋根裏とかにネズミが何匹かいると思う」
「ね、ねずみ・・・ですか」
「大丈夫だよ。夜中にしか遭遇した事はないからね」
――全然安心できないわ――
モスキーが手でネズミの大きさを示すのだが、どう考えても背後にいるハチワレ猫より大きい。そんな大きなネズミと夜中に遭遇したら喉が潰れるまで絶叫しそうだ。
従者が「殿下は狩猟と高原の散策がご趣味ですので」と耳打ちをしてくれる。
どうやら狩猟にはアフガン・ハウンド、高原の散策のお供がセントバーナードらしい。
――では猫は?――
考えている事が判ったのか、モスキーは「早朝のお供かな。重さで目覚めるんだ」と笑った。
呆気に取られてしまったが、伝えることは伝えねばならない。
「申し訳ないのですが子供を3人、私と同じ部屋で構いませんので当面置いて頂きたいのです」
「あぁダニエレが言ってた子供のことかな」
「はい、ティト、ベルク、ララという3人兄弟妹です」
「いいよ。数人増えたって問題ないけど一番小さな子は・・・泊りの使用人はいたかな」
「はい、メリーさんが本日の宿直となっております」
「だって。メリーは11人の子供達を育て上げてるから預けるといいよ」
――11人・・・かなりの子沢山なのね――
そう思ったのだが、モスキーに許しを貰いララをメリーに預けようとティトにララの居場所を聞こうとした時、ララと思わしき子供の泣き声が廊下を響いて来た。
「ララッ!!」
ティトとベルクは廊下を走り、声のする部屋に行ってみればララはメリーさんによって湯あみ中。
「なんです!レディの湯あみを覗こうだなんて!100年早いッ!」
クワッ!っと目を見開いたメリーさんに一喝されてティトとベルクは後ずさり。
ルドヴィカは同性だと言う事で入室を許可されたのだが、そこも異世界だった。
バスタブは王宮にもあったが、浸かるものではなくそこから湯を汲み上げるためのものだったが、国が違えば使用用途も違うのか。
ララを洗っている桶の湯がまるで泥水。
何度目かの洗髪で赤茶色だったララの髪の毛は薄いグリーンだった。
――ここまで色って変わる物なの?!――
「可哀想にねぇ…でもお兄ちゃんたちはこの子にはミルクをあげてたんだね。いいお兄ちゃんがいて良かったねぇ」
そこで驚いたのだ。バスタブの中にララが落ちないよう手で支えて体を浸ける。
「あの…バスタブって」
「驚いたかい?でもメッサーラではこうやってバスタブに浸かって全身を温めるんだよ」
「そうなのですね」
ララは乳飲み子と聞いていたのでまだ首もしっかりしていない赤子かと思ったが生後5、6カ月という所だろうか。湯で体を洗うと疲れと空腹からミルクをたっぷり飲んだララは寝息を立てはじめる。
「さぁ、手伝いをお願いしますよ」
「は、はい。あの・・・初めてなんですが・・・」
「大丈夫。最初は水を弾くと思うけど兎に角洗う!洗って洗って洗うのよ。いい?」
「は、はい」
「こういうのはね・・・順番にすると片方が逃げるから一度に両方を洗うのよ」
ララの様子を見ていたティトとベルクはメリーさんの両腕に抱えられて先ずは服のまま湯船に放り込まれた。そこにワッとメイドがなだれ込み、ティトとベルクの衣類を剥ぎ取っていく。
「やめろ!うわぁぁ!!」
「兄ちゃん!にいちゃぁぁん!!」
「静かに!目を閉じるんだよ!泡が目に入っちまうからね!」
ゴシゴシと洗われていく2人だが、ララ以上の酷い香りが湯殿に充満する。
「換気して!新しいタオル!それから・・・これは・・・固形石鹸ッ!」
透き通った湯が張られたバスタブにティトとベルクの2人が力なく浸かるようになるまで45分。洗いに洗われた2人も汚れを取れば全く違う髪色になった。
「へぇ。大きいお兄ちゃんはオレンジの髪、小さいお兄ちゃんはクリーム色かい」
「小さいっていうな!」
「私から見れば十分に小さいよ。私の年を追い越してからその減らず口を叩きな!」
メリーさんの年齢は54歳。間違いなく追い越せないだろう。
子供用の衣類があるのかと思えば急ぎ調達してきたようで、用意された服に着替えたティトとベルク。髪もついでに切ったり削いだりで整えて貰えば、痩せている事を除くと貴族の子息のようにも見える。
「なんか・・・動きにくいんだけど」
「兄ちゃん。腹減ったよ・・・それに眠い」
聞けばバスタブに浸かる事はそれだけで体力も使うので子供は眠くなってしまう子もいるのだとメリーさんは語る。
夕食は寝ているララは不在だが、モスキーとルドヴィカ、そしてティトとベルク。
「賑やかな食事はいつもよりも美味しく感じるよ」
モスキーが言う通り、ルドヴィカも「食事が楽しい」のだと実感する夕食だった。しかし眠気が限界にきてパンを手にして船をこぎ始めた2人。
「寝かせてあげよう」
モスキーの指示で使用人に抱きかかえられて運ばれて行った2人。
おそらく生まれて初めてであろう沈み込む寝台に寝かされたのだった。
そして・・・子供たちが寝入ってしまいルドヴィカも興味がなかった訳ではない。
使用人に体を洗ってもらい「どうぞ」と勧められたバスタブにチャポン・・・。
「ファァァ・・・気持ちいい~」
湯殿から出た後は今まで感じた事のない爽快感と軽い脱力感を覚えた。
――子供が眠くなるはずだわ――
こうしてルドヴィカの慌ただしい1日がやっと終わったのだった。
80
お気に入りに追加
2,623
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!
風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。
婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約?
憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。
アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。
※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。
格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる