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第05話 当たり屋と忠犬
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「俺、どこも怪我してないって!」
医療院に到着した馬車から弟妹が心配で早く帰りたいというティトを連れて降りた私は御者に「待っていて」と告げると受付を素通りし、裏口から外に出た。
表通りに面した玄関とは違い、裏口は世界も違う。
「お嬢、やはり医療院でしたね。ビンゴだ」
「怪我をしたかも知れない子を放っては置けないでしょう」
「私は事故が瑕疵になると思われると考えましたがそうしておきましょうか」
「何処までも嫌味な人ね」
「お好きなように。参りましょうか」
彼はダニエレ・パルマ。ジェルマノの第6秘書官でもある。
パルマ家はもう名を残すのみの旧家となっているが、数百年前の栄華を誇った家の末裔がダニエレ。当時でも子爵家に過ぎなかったが少ない貴族より裾野の広い民衆相手の商売はかなり儲かったらしくその財は王家を遥かに凌ぐ財産だったと言われている。
栄枯盛衰という言葉がある通り、金もあり過ぎると内部で諍いが起きる。
散々に身内で争った結果、家名しか残らなかった。
ダニエレは空気を読む事は長けていて隣国に向かう使節団に加えようとしたのだが、ダニエレが固辞した。腕前、つまり技量は執事の中でも筆頭執事クラスなのだが、家名などないに等しいエリートでもないたたき上げ組のダニエレは秘書官で頭打ち。
給与も全く異なり執事と比べれば倍半分で、王宮の庭園にある噴水の水で腹を満たしていたダニエレを私が餌付けしたとでも言えばいいだろうか。
「一先ずは俺の屋敷と言っても使用人はいませんが部屋はあるんで」
「え?ダニエレの?嫌なんだけど」
「そんな事言ったって、何処にも行くあてなんかないでしょうに」
「それはそうだけど・・・」
「お嬢に手は出しませんよ。お嬢は俺の――」
「はいはい!行きますから。それ以上は言わないで」
ダニエレが噴水で腹を満たしていた時、ダニエレは27歳、私はまだ7歳だった。
王宮内で自由になる物はあまりなく、厨房に行き小腹が空いた時用の軽食を手渡すのがやっと。おかげで厨房の料理人達には私が大食漢だと思われてしまった。
2人だけの秘密となったが、私の行為で飢えを凌げたダニエレは私に忠誠の誓いをしたのだ。
「まさかと思うけどミレリーをけしかけたのは貴方じゃないでしょうね」
「まさか!俺はお嬢に女王になってもらいたいと思ってるんですよ?」
「女王にはなれないと何度言ったら解るの」
「成れますよ。国王だと囃し立てられるのが本当の王様とは限りませんから」
「買い被り過ぎ。何度も言ってるでしょう?でもね!子供を危険な事に使うなんて!」
「あぁ~ティトね。あの子・・・当たり屋なんですよ」
「当たり屋って…」
「飛び出して来ておいて怪我をしたと治療費をかすめ取るアレです。だから転び方も上手いんですよ」
「そう言う事じゃないわ。そんな事!直ぐに止めさせなさい。知っててやらせるなんて!」
「でもそうしないと食えないんですから」
ダニエレに言われ、帰りたい素振りを見せるティトを見る。
弟妹を食べさせるために危険な事をしているティトだが、ティトも初見6、7歳に見えたくらいに背は低くやせ細っていた。
「ダニエレ、あの子たちを何とかできない?」
「出来なくもないですけど…俺の秘密が暴かれちゃいますよ~」
「秘密なんてあったの?いつもフルオープンかと思ってたわ」
ダニエレには何かある。
全てを曝け出しているようで肝心な部分をしっかり隠している気がしてならない。
この状況で例え私の忠誠の誓いをしていると言っても手を差し伸べるのは危険すぎる。
何よりダニエレはただの秘書官にしては出来過ぎるのだ。
なのに城を出て早々にコンタクトを取って来たのには必ず理由があるはず。
じぃぃっとダニエレを睨むとダニエレは両手をあげて「降参」の仕草をするとティトを手招きした。
二言、三言ダニエレはティトに何やら耳打ちをするとティトは「判った」と走り出した。
「行きましょうか」
「あの子は?」
「弟妹を迎えに行きました。・・・ホントですってば!」
「ま、いいわ。今は信用するしかないもの」
「でしょ?俺はお嬢には嘘はつきません」
「隠し事はしてるけどね?」
「ドキっ!なぁんてね」
ダニエレは嘘はつかないのだ。
隠し事があるのと嘘を吐く吐かないは同じではないのだから。
ふざけるダニエレだったが、案内された先はダニエレの家ではなかった。
細い路地を抜け、時に誰かの住処を横切り、どぶ川にかかる木の板を渡って着いた先。
そこは明らかに貴族の屋敷と思われる塀があり、使用人の通用口とはまた違う入り口が重厚な鉄の扉で閉じられていた。
「何処のお屋敷?」
「お嬢クラスになると裏口なんかから入る事はないですからね」
1つではない鍵を不規則な順に解錠していくダニエレが酷く不気味に見える。
通常なら上から若しくは下から順番に解錠をするのに手間のかかる解錠をしているのはそれが内部に対しての合図になっている事は明らかで扉が開いた時、この身がどうなるのか。
私は初めて恐怖を感じたのだった。
医療院に到着した馬車から弟妹が心配で早く帰りたいというティトを連れて降りた私は御者に「待っていて」と告げると受付を素通りし、裏口から外に出た。
表通りに面した玄関とは違い、裏口は世界も違う。
「お嬢、やはり医療院でしたね。ビンゴだ」
「怪我をしたかも知れない子を放っては置けないでしょう」
「私は事故が瑕疵になると思われると考えましたがそうしておきましょうか」
「何処までも嫌味な人ね」
「お好きなように。参りましょうか」
彼はダニエレ・パルマ。ジェルマノの第6秘書官でもある。
パルマ家はもう名を残すのみの旧家となっているが、数百年前の栄華を誇った家の末裔がダニエレ。当時でも子爵家に過ぎなかったが少ない貴族より裾野の広い民衆相手の商売はかなり儲かったらしくその財は王家を遥かに凌ぐ財産だったと言われている。
栄枯盛衰という言葉がある通り、金もあり過ぎると内部で諍いが起きる。
散々に身内で争った結果、家名しか残らなかった。
ダニエレは空気を読む事は長けていて隣国に向かう使節団に加えようとしたのだが、ダニエレが固辞した。腕前、つまり技量は執事の中でも筆頭執事クラスなのだが、家名などないに等しいエリートでもないたたき上げ組のダニエレは秘書官で頭打ち。
給与も全く異なり執事と比べれば倍半分で、王宮の庭園にある噴水の水で腹を満たしていたダニエレを私が餌付けしたとでも言えばいいだろうか。
「一先ずは俺の屋敷と言っても使用人はいませんが部屋はあるんで」
「え?ダニエレの?嫌なんだけど」
「そんな事言ったって、何処にも行くあてなんかないでしょうに」
「それはそうだけど・・・」
「お嬢に手は出しませんよ。お嬢は俺の――」
「はいはい!行きますから。それ以上は言わないで」
ダニエレが噴水で腹を満たしていた時、ダニエレは27歳、私はまだ7歳だった。
王宮内で自由になる物はあまりなく、厨房に行き小腹が空いた時用の軽食を手渡すのがやっと。おかげで厨房の料理人達には私が大食漢だと思われてしまった。
2人だけの秘密となったが、私の行為で飢えを凌げたダニエレは私に忠誠の誓いをしたのだ。
「まさかと思うけどミレリーをけしかけたのは貴方じゃないでしょうね」
「まさか!俺はお嬢に女王になってもらいたいと思ってるんですよ?」
「女王にはなれないと何度言ったら解るの」
「成れますよ。国王だと囃し立てられるのが本当の王様とは限りませんから」
「買い被り過ぎ。何度も言ってるでしょう?でもね!子供を危険な事に使うなんて!」
「あぁ~ティトね。あの子・・・当たり屋なんですよ」
「当たり屋って…」
「飛び出して来ておいて怪我をしたと治療費をかすめ取るアレです。だから転び方も上手いんですよ」
「そう言う事じゃないわ。そんな事!直ぐに止めさせなさい。知っててやらせるなんて!」
「でもそうしないと食えないんですから」
ダニエレに言われ、帰りたい素振りを見せるティトを見る。
弟妹を食べさせるために危険な事をしているティトだが、ティトも初見6、7歳に見えたくらいに背は低くやせ細っていた。
「ダニエレ、あの子たちを何とかできない?」
「出来なくもないですけど…俺の秘密が暴かれちゃいますよ~」
「秘密なんてあったの?いつもフルオープンかと思ってたわ」
ダニエレには何かある。
全てを曝け出しているようで肝心な部分をしっかり隠している気がしてならない。
この状況で例え私の忠誠の誓いをしていると言っても手を差し伸べるのは危険すぎる。
何よりダニエレはただの秘書官にしては出来過ぎるのだ。
なのに城を出て早々にコンタクトを取って来たのには必ず理由があるはず。
じぃぃっとダニエレを睨むとダニエレは両手をあげて「降参」の仕草をするとティトを手招きした。
二言、三言ダニエレはティトに何やら耳打ちをするとティトは「判った」と走り出した。
「行きましょうか」
「あの子は?」
「弟妹を迎えに行きました。・・・ホントですってば!」
「ま、いいわ。今は信用するしかないもの」
「でしょ?俺はお嬢には嘘はつきません」
「隠し事はしてるけどね?」
「ドキっ!なぁんてね」
ダニエレは嘘はつかないのだ。
隠し事があるのと嘘を吐く吐かないは同じではないのだから。
ふざけるダニエレだったが、案内された先はダニエレの家ではなかった。
細い路地を抜け、時に誰かの住処を横切り、どぶ川にかかる木の板を渡って着いた先。
そこは明らかに貴族の屋敷と思われる塀があり、使用人の通用口とはまた違う入り口が重厚な鉄の扉で閉じられていた。
「何処のお屋敷?」
「お嬢クラスになると裏口なんかから入る事はないですからね」
1つではない鍵を不規則な順に解錠していくダニエレが酷く不気味に見える。
通常なら上から若しくは下から順番に解錠をするのに手間のかかる解錠をしているのはそれが内部に対しての合図になっている事は明らかで扉が開いた時、この身がどうなるのか。
私は初めて恐怖を感じたのだった。
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