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第15話 スペリアーズの忠告
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「兄上、あれはダメだよ」
何度目かの「2組で茶会」をした夜、スカッドの部屋を弟のスペリアーズが訪ねて来た。
「アーズか。何がダメだというんだ?」
「スナーチェ!これに尽きるだろ」
「ナチェが?」
「ほら!早速減点だ」
「なんだよ。減点って」
「判ってないなぁ。兄上がリンさんを好きで大事に思ってるのはいいんだけどさ、正直・・・リンさんの前で愛称の呼び合いはアウト。そんでもってさ、いつもあんなならリンさん・・・兄上の事を見限ってるかも知れないよ?」
スペリアーズは間もなく婚約者が出来るが、スナーチェには紹介しないと言った。紹介するのであれば結婚した後。たとえ「愛」は後からついてくる相手であっても紹介はしないという。
「あのさ、あなたの為とか言いながらあれは自分の思い通りにしたいだけ。苦言じゃなくて嫌味だよ」
「嫌味?しかしリンは反論してないぞ」
「出来るわけないでしょうに。あの場で意見できるのは兄上だけだよ?兄上の婚約者だからと言っても嫁ぐまでリンさんは子爵令嬢なんだから、反論する時はビルボ侯爵家に喧嘩売る覚悟がないと出来ないよ。ご両親の事もアゴランさんの事もあるし、姪っ子、甥っ子の事を考えたらさ、リンさんが言えるわけないでしょうが」
「いや、リンは嫌な事は嫌だとハッキリ言うんだ。それに嫌なら呼んだって理由をつけて断るよ」
「そこだよ。なんでリンさんが来るのか。考えた事ないっしょ?」
スカッドはスペリアーズの言葉に考え込んだ。
確かにヘリンは今まで母親であるゼスト公爵夫人が誘っても断った事はある。しかしそれは領地で崩落があったり、兄嫁の出産があったりと理由があった。
――嘘を吐いてまで行かないという選択が出来ないだけなのか?――
なかなか答えが出ないスカッドに苛立ったのかスペリアーズは呆れて息を吐きだした。
「ムウトン伯爵子息だよ!」
「はぁっ?リンがあいつに心を寄せているとでもいうのか?!」
驚いてスペリアーズの腕を掴んだスカッドだったが、スペリアーズはスカッドの手をベリベリと剥がした。
「そういうところ!かなり毒されてるよ。恋愛脳ってやつ?そんな事しか思いつかないなんて兄上どうしちゃったんだよ。リンさんは自分が行かない事でムウトン伯爵子息が1人集中砲火を浴びるのに耐えられないから来るんだよ。スナーチェの言葉は苦言じゃないんだ。嫌味。この違いが判らないなら言い方を変えるよ。あれはアンチスピークじゃなくてヘイトスピーチ!」
スカッドに掴まれた腕についたシワを伸ばしながらスペリアーズは言った。
「嫌ってるって点では一緒だけど、反対意見を言うのがアンチ。一応相手の意見は聞いて自分とは違うって意見を言うんだよ。声がデカイから言われた方は全部を否定されている気になるけど、一応口撃する相手の言い分は聞いての反論。よく思い出してみ?スナーチェはリンさんの何を聞いた?何を知ってる?何にも知らないし、知ろうともしてないはずだよ。見えている一部だけを切り取ってただ攻撃したいだけってのがヘイト。判る?」
「そうなのか…歯に衣着せぬ物言いだから言い難い事をスパッと言うだけかなと‥」
「甘いなぁ。兄上は言い寄って来る令嬢を蹴散らして女のドロドロしたところを見る前に排除したからなぁ。それは今更だけど、今からでも良いから態度変えないとリンさんだって我慢には限界があるよ?スナーチェは恋愛感情がない、それも本当だろうけど女絡みは後々面倒だよ。自分だけが見えていない事実に気がつけよ!兄上だって自分で自分の顔は見えないだろう?鏡に映った自分の顔は見えても頭の後ろは見えないだろ?自分が見えてない部分が常にある事に気が付かなきゃ!見えてる部分に満足するなよ」
「僕はリンに我慢なんてさせてない。それにナチェと?いやいや、絶対ないよ。リンだって僕とナチェの事は疑ってない」
またもスナーチェを愛称で呼ぶスカッド。
スペリアーズは「お手上げだ」と呆れた。
「そう思うならそうすれば?俺なら今からでも足掻きまくるが・・・兄上には判らないだろうな」
バタンと音を立ててスペリアーズは部屋を出ていく。
スカッドは言われた言葉を反復するけれど、スナーチェとの間に不貞を疑われるような事は無いし、スナーチェもスカッドに恋愛感情は無い。
スカッドの知るヘリンは公爵子息であるスカッドにもちゃんと意見をする。
――アーズが次元の違う方に勘違いをしているだけだ――
そう結論付けたスカッドはそれ以上スペリアーズの言葉を考える事はしなかった。
何度目かの「2組で茶会」をした夜、スカッドの部屋を弟のスペリアーズが訪ねて来た。
「アーズか。何がダメだというんだ?」
「スナーチェ!これに尽きるだろ」
「ナチェが?」
「ほら!早速減点だ」
「なんだよ。減点って」
「判ってないなぁ。兄上がリンさんを好きで大事に思ってるのはいいんだけどさ、正直・・・リンさんの前で愛称の呼び合いはアウト。そんでもってさ、いつもあんなならリンさん・・・兄上の事を見限ってるかも知れないよ?」
スペリアーズは間もなく婚約者が出来るが、スナーチェには紹介しないと言った。紹介するのであれば結婚した後。たとえ「愛」は後からついてくる相手であっても紹介はしないという。
「あのさ、あなたの為とか言いながらあれは自分の思い通りにしたいだけ。苦言じゃなくて嫌味だよ」
「嫌味?しかしリンは反論してないぞ」
「出来るわけないでしょうに。あの場で意見できるのは兄上だけだよ?兄上の婚約者だからと言っても嫁ぐまでリンさんは子爵令嬢なんだから、反論する時はビルボ侯爵家に喧嘩売る覚悟がないと出来ないよ。ご両親の事もアゴランさんの事もあるし、姪っ子、甥っ子の事を考えたらさ、リンさんが言えるわけないでしょうが」
「いや、リンは嫌な事は嫌だとハッキリ言うんだ。それに嫌なら呼んだって理由をつけて断るよ」
「そこだよ。なんでリンさんが来るのか。考えた事ないっしょ?」
スカッドはスペリアーズの言葉に考え込んだ。
確かにヘリンは今まで母親であるゼスト公爵夫人が誘っても断った事はある。しかしそれは領地で崩落があったり、兄嫁の出産があったりと理由があった。
――嘘を吐いてまで行かないという選択が出来ないだけなのか?――
なかなか答えが出ないスカッドに苛立ったのかスペリアーズは呆れて息を吐きだした。
「ムウトン伯爵子息だよ!」
「はぁっ?リンがあいつに心を寄せているとでもいうのか?!」
驚いてスペリアーズの腕を掴んだスカッドだったが、スペリアーズはスカッドの手をベリベリと剥がした。
「そういうところ!かなり毒されてるよ。恋愛脳ってやつ?そんな事しか思いつかないなんて兄上どうしちゃったんだよ。リンさんは自分が行かない事でムウトン伯爵子息が1人集中砲火を浴びるのに耐えられないから来るんだよ。スナーチェの言葉は苦言じゃないんだ。嫌味。この違いが判らないなら言い方を変えるよ。あれはアンチスピークじゃなくてヘイトスピーチ!」
スカッドに掴まれた腕についたシワを伸ばしながらスペリアーズは言った。
「嫌ってるって点では一緒だけど、反対意見を言うのがアンチ。一応相手の意見は聞いて自分とは違うって意見を言うんだよ。声がデカイから言われた方は全部を否定されている気になるけど、一応口撃する相手の言い分は聞いての反論。よく思い出してみ?スナーチェはリンさんの何を聞いた?何を知ってる?何にも知らないし、知ろうともしてないはずだよ。見えている一部だけを切り取ってただ攻撃したいだけってのがヘイト。判る?」
「そうなのか…歯に衣着せぬ物言いだから言い難い事をスパッと言うだけかなと‥」
「甘いなぁ。兄上は言い寄って来る令嬢を蹴散らして女のドロドロしたところを見る前に排除したからなぁ。それは今更だけど、今からでも良いから態度変えないとリンさんだって我慢には限界があるよ?スナーチェは恋愛感情がない、それも本当だろうけど女絡みは後々面倒だよ。自分だけが見えていない事実に気がつけよ!兄上だって自分で自分の顔は見えないだろう?鏡に映った自分の顔は見えても頭の後ろは見えないだろ?自分が見えてない部分が常にある事に気が付かなきゃ!見えてる部分に満足するなよ」
「僕はリンに我慢なんてさせてない。それにナチェと?いやいや、絶対ないよ。リンだって僕とナチェの事は疑ってない」
またもスナーチェを愛称で呼ぶスカッド。
スペリアーズは「お手上げだ」と呆れた。
「そう思うならそうすれば?俺なら今からでも足掻きまくるが・・・兄上には判らないだろうな」
バタンと音を立ててスペリアーズは部屋を出ていく。
スカッドは言われた言葉を反復するけれど、スナーチェとの間に不貞を疑われるような事は無いし、スナーチェもスカッドに恋愛感情は無い。
スカッドの知るヘリンは公爵子息であるスカッドにもちゃんと意見をする。
――アーズが次元の違う方に勘違いをしているだけだ――
そう結論付けたスカッドはそれ以上スペリアーズの言葉を考える事はしなかった。
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