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第03話 ディック伯爵夫人の儲け話
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事業の工程は30年。今も行われている。
ディック伯爵家の転機はルーシュが15歳、アナベルが13歳の時。
運悪くその前年にディック伯爵が種苗を仕入れている領地が洪水で水没。
ディック伯爵の領地は工事で溜め池に入る水を堰き止めていた事で難を逃れた。
しかし作付けをするにあたり問題が起きた。
先々代からの付き合いでかなり安く仕入れていた種苗を諦める他になく、他の商会から種苗を買い付けようとしたが予算は3倍以上必要。
悪い事は重なるもので、先代から爵位を継いだ時に「これで買い揃えるように」と渡された金でディック伯爵は農具などは買わず、王都の屋敷を改築。
他の領よりも半世紀は遅れた農具を騙し騙し使わせていた。
先代から爵位を継いで5年目。
先代の時代からも「来年こそ」と先延ばしにされてきた事で農夫たちは限界だと収穫もボイコット。
なんとか農夫との折衝で折り合いはつけたが、収穫時期を逃した農作物は売れる状態ではなかった。
仕方なく「今年度だけの我慢」とディック伯爵はため池の水利権を担保にして金を借りようとしたまでは良かった。
「どうして金が借りられないんだ?!」
金融商会からは新規の借り入れをしたつもりだったのに戻って来た返事には「追加融資は不可」と書かれていた。
事情を調べる必要もなかった。金を借りる事が出来ないのはエレナ夫人が夫のディック伯爵に断りもなく家印も勝手に使用し、投資に使ってしまった。
投資の話を持ち掛けられて最初の頃、と言っても2年足らずだが順調だった。
カトゥル侯爵家としてはこの投資話をエレナ夫人から持ち掛けられたが、マージンの利率しか見ないエレナ夫人では話にならなかった。
利率が良すぎるのに何をして利益を上げているのかも判らない。
アナベルが婚約者だということから侯爵家のお墨付きのような触れ回り方をされては堪らないと釘を刺した。その後も人の噂に「ここだけの話」としてエレナ夫人がカトゥル侯爵家の名を使うたびに抗議をしてきた。
ディック伯爵も余りの順調さと夫人がもたらす利益に、こそこそと帳簿をやり繰りしているのが馬鹿馬鹿しいと感じたくらいで、暖炉に火をつける火種がないと紙幣を使ったことも実際にあった。
文字通り「腐るほど金があった」のである。
1口100万。
4カ月目で30%のマージンが戻る。
出資者を探して自分経由で投資をさせれば「子」となり、その「子」の紹介料としてさらに15%上乗せ。「子」が勧誘をした「孫」が投資をすればさらに5%上乗せ。
トドメは【今ならご新規様限定。1カ月目にもマージン付与】
そんな触れ込みで最初に話に食いついた者達は本当にマージンが手に入った事で借金をしてまで出資額を増額。中には家も土地も担保に入れ、親類からも借りて数億を出資した者もいる。
エレナ夫人は夫のディック伯爵に最初は「何時に幾ら投資する」と話もしていたが、1カ月目、1回目のマージンが支払われた時に投資した額の4割が「利益」として戻って来た。
「これは儲かる!」と実妹のマーリンにも声を掛け、宝飾品も売って増額。2回目のマージンが入ると「これはもう増額するしかない」と祖父母から遺産分けで貰った領地を売って投資。
最初の1年で投資額とほぼ同額を手にしたエレナ夫人は有頂天だった。
投資話を持ち掛け、遅れてマージンを手にした夫人から「ありがとう」と感謝され天狗になったのが2年目入ったあたり。【マージン増額キャンペーン】が始まった。
投資額に応じて上位20名にはなんと200%のマージンが支払われる。
持てる財をつぎ込む者達。
エレナ夫人は「敵わないわ」と諦めかけた所に営業が悪魔が囁いた。
「増額はしないと?」
「えぇ。無い袖は振れないってところ。残念だけど」
「惜しいですね…実は18位から23位って差がそれぞれ10万ほどなんです。ディック夫人・・・ここだけの話にしてくださいね?順位を教えると煽ったと言われるので」
営業が教えてくれたエレナ夫人の順位は27位。
ランクインするまでにはあと850万ほどの追加が必要だった。
僅差は23位まで。その23位まであと少しと思わせる順位。エレナ夫人は見事に話術に乗せられてしまった。
多忙だと留守がちな夫に黙って伯爵家の領地を担保に入れてキャンペーンの締め切り10日前の順位は13位。しかし1週間前で16位、締め切り3日前には21位。ランク外に落ちてしまった。
水利権を担保に入れたのはその時で、エレナ夫人は大きく順位を上げて3位でフィニッシュ。
増額キャンペーンのマージンが支払われる1か月前。キャンペーンとは別。通常のマージンが支払われるはずだったのにマージンの支払いが無かった。
直ぐに従者を走らせたのだが、従業員が書類に埋もれながら「順番に処理をしていますが、なんせ大盛況で。遅れた方には1日当たり0.2%を上乗せしています」と言った。
1日当たり0.2%なら悪くはない話。年に0.2%ではなく1日0.2%なのだ。何もせずに寝かせておけば利息で遊んで暮らせる。
100万の投資で1日あたり2000。エレナ夫人の投資額はなんと30億を超えていたので1日当たり600万。左団扇で高笑いのエレナ夫人だったが考えなくてもそんな旨い話がある筈がない。
ディック伯爵が農夫たちに支払う金を水利権を担保にしようとした頃には、投資商会と連絡が完全に取れなくなっていて、騒ぎが大きくなり始めた時だった。
エレナ夫人は詐欺だと聞かされてその場に卒倒した。
詐欺の中でも基本中の基本。典型的なネズミ講で詐欺だった。
初期にマージンが支払われたが原資はエレナ夫人たち「カモ」が出資した金。
マージン増額キャンペーンもそれまで支払ったマージンを回収するだけのこと。順位で煽り更に出資をさせて最後はバックレる。
この話で儲けたのは1口の100万だけを出資し、誰も勧誘をせずマージン増額キャンペーン中に4回目の通常マージンを受け取った者が数人だけだった。
ディック伯爵家の転機はルーシュが15歳、アナベルが13歳の時。
運悪くその前年にディック伯爵が種苗を仕入れている領地が洪水で水没。
ディック伯爵の領地は工事で溜め池に入る水を堰き止めていた事で難を逃れた。
しかし作付けをするにあたり問題が起きた。
先々代からの付き合いでかなり安く仕入れていた種苗を諦める他になく、他の商会から種苗を買い付けようとしたが予算は3倍以上必要。
悪い事は重なるもので、先代から爵位を継いだ時に「これで買い揃えるように」と渡された金でディック伯爵は農具などは買わず、王都の屋敷を改築。
他の領よりも半世紀は遅れた農具を騙し騙し使わせていた。
先代から爵位を継いで5年目。
先代の時代からも「来年こそ」と先延ばしにされてきた事で農夫たちは限界だと収穫もボイコット。
なんとか農夫との折衝で折り合いはつけたが、収穫時期を逃した農作物は売れる状態ではなかった。
仕方なく「今年度だけの我慢」とディック伯爵はため池の水利権を担保にして金を借りようとしたまでは良かった。
「どうして金が借りられないんだ?!」
金融商会からは新規の借り入れをしたつもりだったのに戻って来た返事には「追加融資は不可」と書かれていた。
事情を調べる必要もなかった。金を借りる事が出来ないのはエレナ夫人が夫のディック伯爵に断りもなく家印も勝手に使用し、投資に使ってしまった。
投資の話を持ち掛けられて最初の頃、と言っても2年足らずだが順調だった。
カトゥル侯爵家としてはこの投資話をエレナ夫人から持ち掛けられたが、マージンの利率しか見ないエレナ夫人では話にならなかった。
利率が良すぎるのに何をして利益を上げているのかも判らない。
アナベルが婚約者だということから侯爵家のお墨付きのような触れ回り方をされては堪らないと釘を刺した。その後も人の噂に「ここだけの話」としてエレナ夫人がカトゥル侯爵家の名を使うたびに抗議をしてきた。
ディック伯爵も余りの順調さと夫人がもたらす利益に、こそこそと帳簿をやり繰りしているのが馬鹿馬鹿しいと感じたくらいで、暖炉に火をつける火種がないと紙幣を使ったことも実際にあった。
文字通り「腐るほど金があった」のである。
1口100万。
4カ月目で30%のマージンが戻る。
出資者を探して自分経由で投資をさせれば「子」となり、その「子」の紹介料としてさらに15%上乗せ。「子」が勧誘をした「孫」が投資をすればさらに5%上乗せ。
トドメは【今ならご新規様限定。1カ月目にもマージン付与】
そんな触れ込みで最初に話に食いついた者達は本当にマージンが手に入った事で借金をしてまで出資額を増額。中には家も土地も担保に入れ、親類からも借りて数億を出資した者もいる。
エレナ夫人は夫のディック伯爵に最初は「何時に幾ら投資する」と話もしていたが、1カ月目、1回目のマージンが支払われた時に投資した額の4割が「利益」として戻って来た。
「これは儲かる!」と実妹のマーリンにも声を掛け、宝飾品も売って増額。2回目のマージンが入ると「これはもう増額するしかない」と祖父母から遺産分けで貰った領地を売って投資。
最初の1年で投資額とほぼ同額を手にしたエレナ夫人は有頂天だった。
投資話を持ち掛け、遅れてマージンを手にした夫人から「ありがとう」と感謝され天狗になったのが2年目入ったあたり。【マージン増額キャンペーン】が始まった。
投資額に応じて上位20名にはなんと200%のマージンが支払われる。
持てる財をつぎ込む者達。
エレナ夫人は「敵わないわ」と諦めかけた所に営業が悪魔が囁いた。
「増額はしないと?」
「えぇ。無い袖は振れないってところ。残念だけど」
「惜しいですね…実は18位から23位って差がそれぞれ10万ほどなんです。ディック夫人・・・ここだけの話にしてくださいね?順位を教えると煽ったと言われるので」
営業が教えてくれたエレナ夫人の順位は27位。
ランクインするまでにはあと850万ほどの追加が必要だった。
僅差は23位まで。その23位まであと少しと思わせる順位。エレナ夫人は見事に話術に乗せられてしまった。
多忙だと留守がちな夫に黙って伯爵家の領地を担保に入れてキャンペーンの締め切り10日前の順位は13位。しかし1週間前で16位、締め切り3日前には21位。ランク外に落ちてしまった。
水利権を担保に入れたのはその時で、エレナ夫人は大きく順位を上げて3位でフィニッシュ。
増額キャンペーンのマージンが支払われる1か月前。キャンペーンとは別。通常のマージンが支払われるはずだったのにマージンの支払いが無かった。
直ぐに従者を走らせたのだが、従業員が書類に埋もれながら「順番に処理をしていますが、なんせ大盛況で。遅れた方には1日当たり0.2%を上乗せしています」と言った。
1日当たり0.2%なら悪くはない話。年に0.2%ではなく1日0.2%なのだ。何もせずに寝かせておけば利息で遊んで暮らせる。
100万の投資で1日あたり2000。エレナ夫人の投資額はなんと30億を超えていたので1日当たり600万。左団扇で高笑いのエレナ夫人だったが考えなくてもそんな旨い話がある筈がない。
ディック伯爵が農夫たちに支払う金を水利権を担保にしようとした頃には、投資商会と連絡が完全に取れなくなっていて、騒ぎが大きくなり始めた時だった。
エレナ夫人は詐欺だと聞かされてその場に卒倒した。
詐欺の中でも基本中の基本。典型的なネズミ講で詐欺だった。
初期にマージンが支払われたが原資はエレナ夫人たち「カモ」が出資した金。
マージン増額キャンペーンもそれまで支払ったマージンを回収するだけのこと。順位で煽り更に出資をさせて最後はバックレる。
この話で儲けたのは1口の100万だけを出資し、誰も勧誘をせずマージン増額キャンペーン中に4回目の通常マージンを受け取った者が数人だけだった。
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