上 下
12 / 32

宝物殿

しおりを挟む
「まぁっ!エトランゼちゃん!よく来てくれたわ。嬉しいッ!」
「お義母様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
「いいのよ。そんな事は。この子が出て行ってくれてスッキリよ」

お伺いしてみるとお二人とも最近長年の悩みが解消されたご様子ですこぶる体調が良いとの事。
ご健康なのが何よりです。お薬の量も半分以上減ったとの事で何よりでございます。
しかし、何がそんなにお二人を悩ませていたのでしょう。

そう言えばアルベルト様のお荷物がまだあると言っておりました。
大きなお屋敷も頂いておりますし、私服などであれば衣替えも必要ですから早急に手配せねばなりません。
温かくなって来た頃にまた衣類だけと手間を取らせるわけには参りませんし。

「アルベルト様のお荷物があると伺ったのですが」

途端にお二人の表情に陰りが見えます。どうされたのでしょう。
あっ…別居になったとは言えやはりお子様ですし、全部持って行ってしまうとお寂しいのかも。
わたくしったら…お心に添うべきでした。

「いえ、良いんです。お義父様もお義母様も気にされないでくださいませ」
「あの…エトランゼちゃん…あの子の私物なんだけど…聞いてる?」
「いえ、まだあるとは聞いておりますが…あっ!わたくしの似顔絵と言いますか絵姿が残っておりましたら処分したいのですが…御座いますでしょうか」

その言葉を聞いてぱぁぁ!っと明るくなったお二人。

「知っているのね。良かった。あれは説明のしようがないの」
「うむ。知らなかったらあれは心臓に悪いからな」

――まぁ…心臓に悪いなんて。デフォルメした絵姿なのかしら――

隣でムスっとしたお顔になられておりますが、絵姿は処分するお約束です。
わたくしとしてもまだ残っているのは心残りですので年末に向かってスッキリしたいですわ。

「では、アル様。お部屋はどちらに?」
「見たいか?」
「そうですね。アル様の育ったお部屋を見てみたいです」

何故か少し考えられたご様子でしたが、案内をして頂きました。
3階にあるとの事でしたが、3階が全てアルベルト様がご使用されているという事で今は誰も使われていないようです。ご長男様もお子様が生まれますし部屋数は確保したいところで御座いますよね。
早々に絵姿など片付けてお部屋を空けなければなりません。

「ここだ」

扉を開けて頂くと、想像通りわたくしの絵姿が至る所に飾られております。
使用人さんに頼んで絵姿を処分してもらうように外して頂きました。
アルベルト様はその中でも得意そうに寝台の真上。天井に張られたわたくしの絵姿にウットリされておられますが、絵姿は廃棄のお約束。守って頂きます。ビリリと剥がすと項垂れておられましたので頬にキスをすると我を取り戻されました。

少しだけですが‥‥天井の等身大絵姿を見てアルベルト様の事を変態?と疑問を抱いてしまいました。だってコレクションにしては行き過ぎている気がしたのです。



部屋の中は色々な御座いましたが、既視感のあるものが多く、時折何故?と言う品物も大事にケースに入っておりました。その中の1つが数段ガラスケースに入っている土で御座います。

「アル様、この土は何かを研究されておられましたの?」
「違う。それはエトランゼが踏んだ土だ」

わたくしの踏んだ土?ちょっと理解が追いつかないので、侍女さんを見ると目を逸らされてしまいました。どうしたものかと棚を見ますと瓶に入った‥‥毛?

「あの、アル様、これはなんですの?」
「エトランゼの抜け毛だ。緑のリボンは高等部の教室内で抜けたもの。赤いリボンは化粧台にある櫛についていたものだ。黄色いリボンは馬車の中に落ちていたものだ」

さらりと言われておりますが‥‥どうやってそれを入手されたのでしょう?

「その様なものをどうやって?」
「簡単だ。掃除夫の見習いのバイトに行ったり、ゴミ袋を漁れば出てくる。魔力をあてれば誰のだが判る」

――えっ?ゴミを漁られましたの?――

「あ、あの…ではこの一番小さな2つの色のついた瓶は…」
「日に当てると劣化するからな。コルク栓の方はエトランゼの爪だ。金属の蓋のほうは乳歯だ」

思わすヒュっと息を飲んでしまいました。
乳歯‥‥そう言えば上の歯が抜ければ庭に。下の歯が抜ければ屋根に投げましたが・・・。
拾われたという事ですの?

「あの、この沢山のミニミルク瓶に入った液体は何ですの?」
「エトランゼが湯あみした後の残り湯だ。残念だがフルコンプは出来ていない」

――残り湯はフルコンプするようなものだったの?――

そしてその中でも目に付くフタに数字の書かれた瓶が数本。
心なしか沈殿物があるような気がします。

「あの、この数字が入った瓶は何ですの?」
「エトランゼが歯磨きをしてうがいをした水だ。残念ながら10年間で14回しか奪取に成功しなかった」

――うがいした水って‥‥奪取しなくてはいけないものだったの?――

まさかと思いますが…怖いですが聞かねばなりません。
あんな物が取り置かれていれば一大事です。

「まさかと思いますが‥‥御小水など…」
「すまない、それは手に入らなかった」

――謝らないでくださいませ!!――


「この食べかけの食材はなんですの?」
「エトランゼが夜会とかで食べきれなかったものだ。ちゃんと保存魔法をかけてある」

「この棚の食器類はなんですの?」
「エトランゼが使用した食器だ。危うく洗われるところだった」

「この本は…図書館の本ではありませんの?」
「エトランゼが借りた本だ。ちゃんと新品と交換してある」

「この埃のようなものは何ですの?」
「ハハハ。埃じゃないぞ。エトランゼの使った消しゴムのカスだ」

もう勢いで御座います。クローゼットを開いてみました。
そこには幼児用から成人用までのドレスやワンピース、下着類がピシっと揃えられております。

――女装癖がおありだったの?男色のネコはアルベルト様?!――

しかしそれはまたしてもわたくしの早とちり。
アルベルト様がちゃんと説明をしてくださいました。

「それは全部エトランゼが教会や孤児院、婦人部のバザーに提供したものだ」
「何故…どなたかに差し上げるおつもりでしたの?」
「いや、匂いを堪能しただけだ。使用済みを手に入れるのは苦労した」

確かにアルベルト様はわたくしの匂いを良くクンクンと嗅がれております。
ですが、下着類はこんなに汚れてはいなかったと思うのです。
いつもアルワナたちが真っ白に洗濯をしてくれていましたし、手にしてみると固まった部分もあります。

「本当に…匂いを…」
「すまない…少し嘘があった。下着類はおかずだ」

等身大絵姿で抱いた【変態ではないか?】という疑問は払拭されました。
【疑問形】ではなく【確定】したのです。

全てを速やかに廃棄処分。わたくしはアルベルト様にお願いをいたしました。


【お聞き届け頂かねば、離縁致します】と。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

婚約破棄された侯爵令嬢は悲しみに浸りたいのに周りが騒がしいです!

akechi
恋愛
「アンジェリーナ!私は運命の人を見つけた!婚約破棄してくれ!」 皆が見ている学園の中庭で公爵子息オーウェンは侯爵令嬢アンジェリーナに婚約破棄を宣言する。オーウェンの横では男爵令嬢メアリーが不敵の笑みを浮かべていた。 「⋯分かりました。」 私は失意の中、家族に報告するために屋敷に戻ると武装した家族と仲間達が待っていた! いやいや何事!?お願いだから静かに悲しませてー!

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

処理中です...