上 下
27 / 36

第27話   シュバイツァーは閃く

しおりを挟む
ウェーブ君再来に盛大な反応を見せたシュバイツァー。

落ち着きを取り戻したシュバイツァーはウェーブ君が描かれたデッサン画の包み紙をマジマジと見た。

――いきなりだったから驚いたが、よく見ると面白いじゃん――

慣れればどうという事もない。
ただ、インパクトというものが途轍もなく大きかっただけ。

カーニバルにある「お化け屋敷」もリピーターになれば次に何が出て来るか解るし、3巡目、5巡目になれば怖さよりも「また同じ登場か。それとも変えて来るか」という楽しみに変わる。


――ん?面白い‥‥まさかな――

シュバイツァーは何か閃いた気がするのだが、連日の捜索での寝不足も重なりどうも頭の中がこんがらがってしまう。頭の中を整理するために部下に尋ねた。


「この薬を作っている薬師はアルバンの言ってたメェちゃんという者なんだったな」
「らしいですね。名前は似てますがメリル様とは髪色から別人のようですが」
「本当に別人なんだろうか」
「どう言う事です?」
「アルバンが言っていた村ではメリルに限らず若い娘はいなかったんだ。どこからとなると‥」
「近隣の村では・・・あぁでも一番近い村で森を抜けたこちら側の村になりますね」
「そうなんだ。男でも丸1日歩き通し。馬があればもっと早く抜けられるだろうが・・・農耕馬を移動の用途に使う農民がいるとは思えない」


シュバイツァーは考えた。
だとすれば村と村の中間にいると考えれば距離も移動時間も短くなる。

それがどこだとなれば、森の中。
そして森の中には廃屋と思われていた家に誰かが住んでいる形跡があった。
そして扉の先にあったアレはこの包み紙にあるウェーブ君(但し名前は知らない)


「思い込み・・・か・・・」
「思い込み?何をです?」
「あの森は捜索をしていない。森を抜けた村も捜索はしていない。何故だ?」

シュバイツァーは部下の肩を掴んだ。
少し驚きながらも部下は捜索をしていない理由を挙げた。

「そりゃ女の子が1人で行けるような場所ではないからです。メリル様が出て行ったと思われる時間からあの森まで徒歩と考えると森に入れるような時間ではありません。真っ暗で何も見えませんからね。森の先も森を抜けるのに大人の慣れた男でも1日かかります。若様は馬なのでもっと早かっただけです。馬を売った、貸した、盗まれたという報告はありませんよ?歩ける範囲を――」

「それだ!!それなんだよ!」

「どうしたんです?」


シュバイツァーは頭の中の靄が緩く流れて晴れて行くような気がした。

「こうだ」という概念に捉われてるから見えないし、見つからない。
前提を取っ払えば?どうだ?

女は遠くまで歩かない
夜は森に入らない
短期間で家の修理や畑の手入れ、伐採は出来ない

その前提を取り払い更に「汗を流したくても流せない」なら・・・何が残るんだ?

シュバイツァーは考えるまでもないと結論を導いた。



「この薬を作ったのは多分メリルだ」

「どうしてそう思われるのです?」

「そりゃこの―――」

「紙に描いてある絵の実物を見たから」とは言えないシュバイツァー。
あの小屋が行きは「留守」だった事は部下が報告をしているし、帰りで寄ったのはシュバイツァーだけ。

だが、あんな奇妙な、しかも首だけのオブジェと同居出来るなどそうそういる筈がないと自信をもって言えるのだが、部下最後の「どうして」には言葉が途切れた。

もし、家人に会えていたのなら今、こんな問答はしない。
【勝手に玄関開けて入ろうとしましたー】なんて言えるはずがない。

そんなのは「泥棒」と言われるかも知れないし「女性が住んでるメリルがいる」と判ってのことならタダの変態である。

シュバイツァーは明日、もう一度あの小屋に行ってみよう。
そう思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...