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第23話 メリルはビバビバしたい
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小屋に戻ったメリルはそれまでに作った薬をこの作業小屋の元々の主が蝋人形を作る際にデッサンしたと思われる紙に薬を用途ごとに包むと、新たに1,2日で作れる薬をせっせと作った。
ウロウロと散策をしながらも庭の手入れも進めていたので、今、日当たりの良い場所には枝を組み合わせて作った「板もどき」に洗った薬草を干しているし、日当たりの悪い場所も同じように陰干しをしている。
「蝋人形の館から薬草製作所になったわね」
取り敢えずの目標は手で押せる荷車を買う事と木の板を買う事。
何故かと言えば、自分では均等な厚さの板は作れない。
板も1枚、2枚ではないので片道4時間を何往復するより手押し車に乗せて一度に運んだほうが楽。手押し車のその後は煽り板などをお手製で作り、薬草取りに引いて出かければ採取する量も増える。一石二鳥である。
もう3週間以上「人間用湯桶」は作れておらず、沸騰させた湯に冷たい沢の水で温度を調整して布を浸し、体を清拭するのがやっと。
誰も見ていないのだからと湯を入れられる桶や鍋に湯を入れて、庭で頭から被ったのだが、時期は冬。雪がちらつく日だった事もあって、被った後は地獄の寒さだった。
なので、ブートレイア王国ではメイド達に綺麗に洗ってもらって本来の銀髪を取り戻していたのに、今は髪も埃と汗でベトベト。
余りにも気持ち悪いので頭の後ろで「玉」を作るように結い上げているが、色もくすんでしまっていた。
アルバンに薬を買い取ってもらい、得たお金で「人間用湯桶」を製作し「はぁ♡ビバビバ」したい!メリルには今、細やかでかつ!壮大な夢があったのである。
そして3日後。その日は生憎の雨だったが、メリルは朝早くに荷物を纏め、濡れないようにトランクに入れるとさらに濡れないように自分の体を傘代わりにしてアルバンとの待ち合わせ場所に走った。
「いやぁ、本当にいた。いたよ~」
「約束しましたから。これ!薬を入れてます。見て、良ければ買い取って頂きたいです」
「トランクに?!あの品質だと金貨で足りるかな。アハハ」
ゲハゲハと笑うアルバンだったが、雨に濡れないように大きな傘の下でトランクを開けると顎が外れたように口があきっ放しになった。
「大丈夫ですか?えぇっと・・・こちらが痛み止めです。歯痛とか頭痛用。こちらの痛み止めは腹痛用です。で、こっちは化膿止めなんですけど、水で溶かすのとそのまま飲み込む――」
「待った!待った!待ってくれ!本当にこれを?!売ってくれるのか?」
「はい。買い取って頂けるとの事だったので」
「参ったな・・・冗談かと思ってたのもあるけど、ちょっと確かめてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
アルバンは3日前にしたのと同じように爪で引っ掻いてペロッと舐める。
色々な種別に分類をしているが半分も確かめないうちに真顔になった。
「全部買い取る。でもすまない。今日は売上も入れて金貨5枚しか手持ちがないんだ」
「金貨5枚?!」
「この量とこの品質なら金貨30枚いや35枚なんだが、手持ちがないんだ。残りは3日後の支払いでいいかな?必ず持って来る。今度は俺を信用してもらわなきゃならねぇけど、本当に持って来る」
メリルはブートレイア王国とモーセット王国では薬の価値観が違うのだと知った。
辺境伯が守るこの領地は戦が絶えない地でもある。ここが落とされれば国が危うい。
なので、薬は非常に希少で高価なもの。混ぜ物をして嵩を増すのも痛みなどが半分にしかならなくても人数にいきわたる事を目的としているから。
アルバンの金額しか知らないので他に行けばもっと高値になるかも知れないが、メリルはアルバンにはパンを貰った恩もある。
「金貨は1枚で良いです」
「いっ1枚ッ?!」
「はい。でもお願いがあるんです」
「なんだ?何でも言ってくれ」
「手押し車と木の板。あとは・・・そうですね‥傘が欲しいです。食料も3日ごとだから3日分?かな?」
「待ってくれ・・・俺は今、キツネに抓まれてるのか?噛まれてるのか?」
「どうされました?」
アルバンは正直者。
今日の量で金貨1枚にメリルが望む品を揃えても金貨がもう1枚あれば事が足りる。毎回この量を金貨1枚プラスアルファで買い取れば1か月で御殿と呼ばれる家が建つと言った。
今日は売り上げを金貨5枚分持っているが、商売の為には仕入れもしなくてはならない。仕入れなどを引いて1日にアルバンが売り上げて懐に入れられる金は「よく売れたな」という日で銀貨5枚。通常は銀貨3枚なのだ。
銀貨は50枚で金貨になる。あまりにもボッタクリな商売になるので引き受けられないと言った。
「では、私が作る薬ですが量を調整します。アルバンさんが次は何をこれくらいという量を私に頼んでください。それなら・・・どうでしょう?」
薬草だって摘んでしまえば同じ茎から次に摘めるのには時間もかかる。
今回は作り置きしていた分もあるし、急いで作った分もあるのだから頼まれた分だけ作れば他の事が出来る時間も作れる。
「ダメ‥‥ですか?」
「そうしてもらえるなら有難い。でも今回の買取は金貨30枚。これは譲れねぇ。俺は真っ当な商売をしている商売人だ。イイ!と思ったものにはそれなりの対価も必要だと考えてるんだ」
「判りました。ではその30枚から私の頼んだ品を引いた代金を3日後受け取る事にします」
「ありがてぇ。じゃぁ取引成立だな」
アルバンは大きな手を差し出してきた。
握手をしようということだ。
メリルはアルバンと握手をした後、3日後の薬の依頼を受け、空になったトランクにバゲットや塩など食料を詰め込んで小屋に戻って行ったのだった。
ウロウロと散策をしながらも庭の手入れも進めていたので、今、日当たりの良い場所には枝を組み合わせて作った「板もどき」に洗った薬草を干しているし、日当たりの悪い場所も同じように陰干しをしている。
「蝋人形の館から薬草製作所になったわね」
取り敢えずの目標は手で押せる荷車を買う事と木の板を買う事。
何故かと言えば、自分では均等な厚さの板は作れない。
板も1枚、2枚ではないので片道4時間を何往復するより手押し車に乗せて一度に運んだほうが楽。手押し車のその後は煽り板などをお手製で作り、薬草取りに引いて出かければ採取する量も増える。一石二鳥である。
もう3週間以上「人間用湯桶」は作れておらず、沸騰させた湯に冷たい沢の水で温度を調整して布を浸し、体を清拭するのがやっと。
誰も見ていないのだからと湯を入れられる桶や鍋に湯を入れて、庭で頭から被ったのだが、時期は冬。雪がちらつく日だった事もあって、被った後は地獄の寒さだった。
なので、ブートレイア王国ではメイド達に綺麗に洗ってもらって本来の銀髪を取り戻していたのに、今は髪も埃と汗でベトベト。
余りにも気持ち悪いので頭の後ろで「玉」を作るように結い上げているが、色もくすんでしまっていた。
アルバンに薬を買い取ってもらい、得たお金で「人間用湯桶」を製作し「はぁ♡ビバビバ」したい!メリルには今、細やかでかつ!壮大な夢があったのである。
そして3日後。その日は生憎の雨だったが、メリルは朝早くに荷物を纏め、濡れないようにトランクに入れるとさらに濡れないように自分の体を傘代わりにしてアルバンとの待ち合わせ場所に走った。
「いやぁ、本当にいた。いたよ~」
「約束しましたから。これ!薬を入れてます。見て、良ければ買い取って頂きたいです」
「トランクに?!あの品質だと金貨で足りるかな。アハハ」
ゲハゲハと笑うアルバンだったが、雨に濡れないように大きな傘の下でトランクを開けると顎が外れたように口があきっ放しになった。
「大丈夫ですか?えぇっと・・・こちらが痛み止めです。歯痛とか頭痛用。こちらの痛み止めは腹痛用です。で、こっちは化膿止めなんですけど、水で溶かすのとそのまま飲み込む――」
「待った!待った!待ってくれ!本当にこれを?!売ってくれるのか?」
「はい。買い取って頂けるとの事だったので」
「参ったな・・・冗談かと思ってたのもあるけど、ちょっと確かめてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
アルバンは3日前にしたのと同じように爪で引っ掻いてペロッと舐める。
色々な種別に分類をしているが半分も確かめないうちに真顔になった。
「全部買い取る。でもすまない。今日は売上も入れて金貨5枚しか手持ちがないんだ」
「金貨5枚?!」
「この量とこの品質なら金貨30枚いや35枚なんだが、手持ちがないんだ。残りは3日後の支払いでいいかな?必ず持って来る。今度は俺を信用してもらわなきゃならねぇけど、本当に持って来る」
メリルはブートレイア王国とモーセット王国では薬の価値観が違うのだと知った。
辺境伯が守るこの領地は戦が絶えない地でもある。ここが落とされれば国が危うい。
なので、薬は非常に希少で高価なもの。混ぜ物をして嵩を増すのも痛みなどが半分にしかならなくても人数にいきわたる事を目的としているから。
アルバンの金額しか知らないので他に行けばもっと高値になるかも知れないが、メリルはアルバンにはパンを貰った恩もある。
「金貨は1枚で良いです」
「いっ1枚ッ?!」
「はい。でもお願いがあるんです」
「なんだ?何でも言ってくれ」
「手押し車と木の板。あとは・・・そうですね‥傘が欲しいです。食料も3日ごとだから3日分?かな?」
「待ってくれ・・・俺は今、キツネに抓まれてるのか?噛まれてるのか?」
「どうされました?」
アルバンは正直者。
今日の量で金貨1枚にメリルが望む品を揃えても金貨がもう1枚あれば事が足りる。毎回この量を金貨1枚プラスアルファで買い取れば1か月で御殿と呼ばれる家が建つと言った。
今日は売り上げを金貨5枚分持っているが、商売の為には仕入れもしなくてはならない。仕入れなどを引いて1日にアルバンが売り上げて懐に入れられる金は「よく売れたな」という日で銀貨5枚。通常は銀貨3枚なのだ。
銀貨は50枚で金貨になる。あまりにもボッタクリな商売になるので引き受けられないと言った。
「では、私が作る薬ですが量を調整します。アルバンさんが次は何をこれくらいという量を私に頼んでください。それなら・・・どうでしょう?」
薬草だって摘んでしまえば同じ茎から次に摘めるのには時間もかかる。
今回は作り置きしていた分もあるし、急いで作った分もあるのだから頼まれた分だけ作れば他の事が出来る時間も作れる。
「ダメ‥‥ですか?」
「そうしてもらえるなら有難い。でも今回の買取は金貨30枚。これは譲れねぇ。俺は真っ当な商売をしている商売人だ。イイ!と思ったものにはそれなりの対価も必要だと考えてるんだ」
「判りました。ではその30枚から私の頼んだ品を引いた代金を3日後受け取る事にします」
「ありがてぇ。じゃぁ取引成立だな」
アルバンは大きな手を差し出してきた。
握手をしようということだ。
メリルはアルバンと握手をした後、3日後の薬の依頼を受け、空になったトランクにバゲットや塩など食料を詰め込んで小屋に戻って行ったのだった。
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