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第13話   白い息と焼き栗

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「飯っ!食わねぇの?」
「食べてます」
「食べてるって鳥の餌くらいの量じゃないか」
「いいんですっ」

顔の良さと口の悪さは比例する。
そう思いたくなるシュバイツァーは兎に角物言いが乱暴。

だが、それ以上に問題があった。

やはり宿屋の食事は食べるのに根気と勇気が必要な味。
食べ物があるというのは贅沢な事だけれど、メリルはどうしても喉を通らない。
パンは糸こそ引いていないけれど変な臭いがするし、口の中に入れると不自然にバサバサになる。

大人ならばワインやエールで流し込む事も出来るだろうが、まだ酒が飲めないメリルは水で流し込もうにもその水も独特の臭みがあって口に入れると「ぬる」っとする。

辺境伯たちは繁華街に出てしまった。辺境伯の地も繁華街はあるけれど、これからまた長旅となる部下たちにつかの間の「休息」を与える意味もある。
気を利かせてくれたのか…メリルとシュバイツァーだけが宿屋の食事。

――有難迷惑って言ったら失礼なんだけど。でもなぁ――

とメリルは向かいのシュバイツァーとの2人だけの食事だからという訳ではないが、兎に角ナイフとフォークの動きが鈍い。

メリルの困惑を自身の事だと思ったのか、バツが悪そうにシュバイツァーが話しかけてきた。


「あのさ・・・悪かったよ」
「何がです?」
「親父に叱られた。自己紹介はちゃんとしろって」
「あぁ、そのこと。いいんです。名乗って鬱陶しいなんて言われたのが初めてだっただけです」
「だからぁ!悪かったって。機嫌直せよ。俺だって俺だけ馬車なんだぜ?嫌になる気持ちとか判らないかなぁ」
「判りませんね。私は歩いたっていいんですし、馬がいいなら騎乗すればいいんじゃないですか?こうしろと言われて受け入れて文句言うなん‥‥」


シュバイツァーにかけている言葉なのにメリルは自分自身もそうだと思い、ナイフとフォークを置いた。あと2口で食べきれるのだが、量ではなく自分の言葉に嫌気がさしてしまった。

「どうした?」

昼間は悪態をついて来たシュバイツァーが心配そうにメリルの顔を覗き込んだ。

「なんでもないです。先に部屋・・・行きますね」
「先にって。待てって。こんな量じゃ食った事にならないだろう?」

シュバイツァーはメリルの手を掴むと有無を言わさず宿の外に出た。
ぐいぐいとメリルの手を引いて向かったのは広めの公園。

夜だというのに数メートルおきに松明が台の上で煌煌と灯りを作り、人々が行き交っていた。

「ここで待ってろ。食い物買ってくる」

外はもう冬将軍がそこまで来ているのか空気も冷たく吐く息が白くなる。
シュバイツァーは何やら屋台の店主と言葉を交わしているのが見えるがメリルは空を見上げた。

4つの四角星に囲まれた3つの星がよく見えた。

「カルボス村だと夜中にしか見えなかったけどなぁ」

白い息に混じってメリルは弱気な心を言葉で吐きだす。
シュバイツァーはハァハァと白い息に囲まれながら何か大事そうに抱えて戻って来た。

「焼いてる芋はないかって聞いたんだけど、今日は焼き栗だけなんだってさ。こっちがお前の!」

紙袋に入った焼き栗を差し出すシュバイツァーの鼻は寒さで赤くなっていた。

「トナカイみたい。ちょっと早めの生誕祭の贈り物ね」
「は?屋敷に戻れば揃えてるしっ!ガキだと思って見くびるなよ?女はドレスと宝石が好きだろ。取り敢えずは片っ端から買ったから全部お前にやるよ」
「そんなのいらなーい。わぁあったかぁい♡」
「いらないって?欲しくないのか?」

シュバイツァーの疑問の声はメリルには聞こえていないのか。
手渡された焼き栗の入った紙袋は温かいよりも熱いくらいだったが、寒さで指先も赤くなっていたメリルには丁度の温度に感じ、意識は全て焼き栗に向けられていた。

早速1つと紙袋をひらくと香ばしい香りと共に湯気が上がる。
手に取ろうとすると「ほら!」隣からシュバイツァーが殻を剥いた栗を差し出した。

「女の指は栗の皮を剥くと傷むんだろ」
「傷まないわよ。栗くらい剥けるわ。栗だけじゃなくクルミだって道具があれば割れるわ。ついでに薪もね」
「薪っ?!ブートレイアは王女も薪を割るのかっ?」
「さぁ?」
「さぁって・・・さっき薪を割ると言ったじゃないか」
「私は割れるだけ。他の王女様なんて知らない。それに私の分はこっちでしょう?自分で剥いたら自分で食べなさいよ」

小袋の中から栗を1つ手に取るが、「っつ!!」思った以上に栗は熱かった。

「だから熱いんだって。黙って食えよ。ほらっ!」
「要らない。貴方が食べれば?」

強がってはみたものの、メリルの腹の虫は正直すぎた。

ぐぅぅ~

例え外でも隣にいれば誤魔化し切れない。
恥ずかしくて俯いたメリルにシュバイツァーは言った。

「栗が冷える。早く食え」

聞こえているはずなのに笑いもしないで栗を差し出し、メリルが受け取るとシュバイツァーは次の栗を剥き始めた。

表面は少し冷えてしまったけれどシュバイツァーが剥いてくれた栗はホクホク。ほんのり甘かった。
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