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第10話   危険な柔さを感じると

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城に滞在をするのはおよそ2か月。
モーセットからは迎えが来るというが、やってきた迎えと出向くのはモーセット王国の首都ではなく辺境伯の統治する地。

モーセット王国の辺境伯は既に迎えの隊列をブートレイア王国に向かわせている。
天候を考慮せず、片道75日の旅程だと聞いてメリルは溜息しかでなかった。雨が降れば足止めをされるので90日。約3か月も移動にかかる。

嫁ぐための輿入れ道具を運ぶ荷馬車の列の長さは300mにはなる。

――1粒300mじゃなく隊列が300m?!――

メリルはくらくらと眩暈がした。
荷物なんかトランク1つで十分なのに。と。

それだけの量になると途中で馬車を引く馬も交換する頭数がいないので、3、4km進んで休憩、また3、4キロ進んで休憩と1日で10km進めるかどうか。

「もうカルボス村には帰れないのかなぁ」
「メェちゃん様は王都はお嫌いですか?」
「嫌いとかっていうより・・・こうなると思ってなくて陛下に会えばすぐに帰れると思ってて」


ついつい庭の雑草が生え放題になってしまうとか、屋根の修理が途中だったから家の中がカビだらけになっちゃうだろうなとか、ジョンに「来月は野菜いらない」と伝えてないので野菜が無駄になるとか色々と気になってしまう。

地図で見れば、ブートレイア王国の王都が中心だとすればカルボス村は1時の方向。
モーセット王国の首都が11時の方向。辺境伯の守る地は7時の方向。カルボス村からは一番遠い。

カルボス村から騎乗に野宿で11日かかった王都。
その王都から次に向かう地は馬車旅だが75日。馬で単騎だとしても40日以上はかかるだろう。

「行って帰るだけで半年となると里帰りって無理よね」
「滞在が3カ月とかになるとほぼいないってなっちゃいますもんね」
「いないと言えばキュリアナ王女はどうなったのかしら」
「あぁ、先日男爵家に輿入れしたそうですよ」
「そうなんだ…」

王妃の実家預かりとなったキュリアナ王女は王籍を抹消され王妃の実家、公爵家の子飼いである男爵家に嫁がされた。夫となる人は54歳。メイドの話では「お互い初婚の年の差婚」との事だが喜んでいいのか判らない。

メイド達の間ではあまり評判、いや人気がなかったキュリアナ王女。

――内側に敵は作っちゃいけないわね――


そう思うメリルだったが、城に来てリンダが王子や王女にマナーなどを教える講師だった事も知った。リンダとは8年間の家族だったが、厳しい教えもあった甲斐があり、ほとんどの事は身についていたメリル。

実践する場がなかっただけで、教えてもらう事もなかった。
しいて言えばリンダが亡くなってからの王家の歴史くらいだろうか。
ただ、それも歴代国王の名前をそれまで覚えていたものに「シュルタス王」を加えるだけ。

あまりにも暇なので、メイド達とシュルタスが差し入れた菓子を貪る日々。


食っちゃ寝~食っちゃ寝~は憧れた事もあるけれど、実際そうなってみると対して動かないのに日に3度の食事は食べなきゃいけない…でも不味いのでちょっぴり。
それを補うのがお菓子‥‥メタボリックシンドローム行きの船に乗船したようなもの。

――不味い。ついて欲しい所は後回しでついて欲しくない所にたるみが!――

胸に手を当てると現在過去未来違わぬ「ペタンコ」を感じさせる手触りなのに、お腹に手を当てると「あら!不思議!!」ユルユルで柔らか・・・危険な成長を感じる。

このままではダメだ!と運動をしようとするが豪奢なドレスが動きを鈍くする。

普段着というドレスはコルセットなど緩めになってはいて、宝飾品の数も少ないけれど、1人で脱ぎ着も出来ない体にぴったりフィットなドレスでメイド達のお仕着せよりもはるかに豪華なもの。

何か他にないかな~と禁断の「クロゼット」を開けた瞬間。

ピシュワッ!!

――くわぁ!!目が潰れそうなくらいギンギラギン!!――

扉を開けると光も入るので、その光に縫い付けられた宝飾品がキラキラ☆

――衣類DEシャンデリアだわ!――

戸枠から足を踏み入れることなくそのまま扉を閉じてしまったメリル。ふと振り返るとメイドが「どうされましたか?」と‥‥。

今度はメリルの目がキラッ☆と光る。

「その服・・・貸してくれない?」
「服?えっ?まさかお仕着せを?!」
「そう♡」
「だっだめです!こんな支給品をメェちゃん様にだなんて!」
「クロゼットにある服も陛下からの支給品。替えっこしません?」
「出来ませんってばぁ!!」

逃げるメイドを追いかけるメリル。
唯一の運動になっていたのだった。

そしてモーセット王国の使者と隊列が王城に到着をする日を迎えた。
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